天槍のユニカ



家名(5)

「仮にも? それこそ無礼でしょう。王家には仮も偽りもない。有翼獅子紋と青金を身につけられる方は紛れもない王族です。ただ、それらの証は王族を戒めるものでもあります。自分はその証を身につけるに足る人間ではないと思うのなら、証に足る人間になるよう努力していただかねば。仮のもの≠ネどと甘えられては、それこそ臣下の忠誠や国のありようを乱しかねない」
 レオノーレに片腕を掴まれたまま、カイは目を眇めてユニカを見下ろしてきた。
 その視線にこもっているのは、彼の父エルツェ公爵が時折見せる呆れの眼差しに混じるのと同じ――かすかな軽蔑の色だった。
 そして恐らく、この屋敷に集まったエルツェ家の人々が抱いているのと同じ心情。
 私が決めたことではないという言い訳は通用しないのだろう。エルツェ家の人々に言わせるなら、ユニカを受け入れることなど「私達が決めたことではない」のだから。
「エリュゼ、あなたも同じです」
 毅然として冷ややかな少年の態度に、刃を返されたエリュゼはユニカの隣で肩を強張らせた。
「あなたも我がエルツェ家の門葉の当主なのですよ」
 カイの言葉は短い。言外に匂わす言葉はユニカに向けられたのと同じだろう。「身分に足る人間になれ」と。
 黙るエリュゼの顔を窺ってみると、強張った彼女の横顔は真っ白になっていた。この様子はこれまでの宴で時折見たことがあった。
「はい……」
 か細く頷く声すら震えている。そしてうつむいた彼女は膝の上で堅く拳を握りしめた。随分思い詰めた顔だ。
「何かあったの」
 ユニカが思わず尋ねてしまうと、エリュゼはのろのろと顔を上げた。
「いえ、ユニカ様にご心配いただくことではございませんので……」
 微笑みながら言うものの、エリュゼの両目からは大きなしずくがぽろりと音をたてんばかりにこぼれ落ちる。
「……!」
 目を合わせたまま、二人は同時に息を呑んだ。
 エリュゼは即座に顔を伏せるが、見えてしまったものは仕方がない。
「ど、どうしたの……」

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