家名(4)
食事のあと初めてユニカのもとを訪れたのは、レオノーレと彼女に連行されたカイだった。
「ねぇユニカ、カイのことを褒めてあげなさいよ。当主の息子らしく堂々とした素晴らしい態度だったんだから! それに姉上≠ナすって、可愛いことを言うわねお前」
レオノーレはだいぶ酒が進んだあとらしかった。ご機嫌な彼女は自分の弟と同い年の少年の腕をしっかり捕まえ、迷惑そうにする彼の髪をわさわさと掻き回す。
相手が公女であるため、可哀想なことにカイは抵抗出来ないらしい。目を据わらせてされるがままだ。
唐突にそう言われ目を丸くしていたユニカだったが、ちらりとこちらを見た少年と視線がぶつかってはっとした。
「あ、あの、」
沈黙するエルツェ一門の中、率先してユニカを受け入れると宣言してくれたことに礼を言いたかったが、ユニカが唇を空回らせている間にカイはそっぽを向いてしまった。
レオノーレを振り払う仕草だったのかも知れないが、それにしては彼の横顔に窺える表情が刺々しい。
彼も父の顔を立てるためにひと芝居打っただけで、言葉の通り姉≠ニ認めたわけではないのだろう。
案の定、再びうつむいたユニカの耳を冷淡な声が打つ。
「仮にも王太子殿下が妃にと望まれている方なら、もっと毅然としてください。今のあなたに出来るのはそれくらいではないのですか」
しかしユニカが弾かれたように顔を上げたのは、カイの声音の冷たさに驚いたからではなかった。
「あら、カイもディルクとユニカのことを応援してくれるの? 頼もしいわね」
「応援も何も、それを実現するためにもこの方を臣籍へ入れるのでしょう。叔母上にもクヴェン殿下にも身罷られた我が家にとって悪い話ではありません……ただし、あなたが王家との姻戚関係すら害に変えてしまう毒花でなければ」
その話はいったいどこまで広がっているのだろう。カイの冷たい態度よりもそちらの方が気になって、ユニカは青ざめる。
それをエリュゼは勘違いしたようだった。
「カイ殿、ユニカ様は仮にも王家の身分をお持ちですわ。その言いぐさはご無礼ではありませんか」
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