雨がやむとき(19)
何が、面白いのだろう。
変なの、と思いながらも、ユニカは手に提げた瓶と、先ほど味を見たその中身のことを考えながらディルクについて行った。
(面白い、かも、知れないけど……)
それは、人にぶつかる心配も、道に迷う心配もなく歩いていられるからこそ。そして、それは右手の先に結ばれたディルクの左手のおかげだ。
「あ……」
木箱や樽から溢れるように並べられた穀類に豆、乾し果物を眺めつつ通りを歩いて行くと、やはり広場近くには食事を売る店が天幕を並べていた。
湯気の湧く店の中には持ち運べると思しき鉄製の竈(かまど)があって、その上に乗せた鉄板や大鍋で温かい料理を作っている。そんな天幕が並ぶ辺りは庶民の食事街らしく、広場に向かって並ぶ屋台だけではなく、通りの両側の店舗も食堂と宿屋だった。
その中を歩いているさなか、ユニカは覚えのある匂いを一筋見つけた。思わず足を止め周囲を探すと、すぐ近くにパン屋があった。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでも……」
ディルクは目敏い。ユニカの視線がどの看板に向けられていたかを見逃さなかった。
「パン?」
「……さっき、レオが食べたいと言っていたパンが売ってるかも……。シチューの匂いがしたから……」
そうなればしらばっくれるのにも労力がかかる。ユニカは白状するしかない。
「なるほど。よく気づいたな」
「エリーアス伝師が買ってきてくれることがあるんです。それで……」
年が明ける前にも食べたところだ。あのパンはおかずいらずで片手で食べられるため、主に職人達が朝食や昼食にするものだ、と、エリーアスが言っていた。表の大きな通りより、こういう下町にこそ需要のありそうな食べ物だ。
エリーアスはどこで買ってきてくれるのかな、とぼんやり考えるユニカの手をディルクが引く。
「行ってみよう」
「え?」
「エリーアス伝師が買ってくるということは君も気に入っている味なんだろう。俺も食べてみたい」
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