天槍のユニカ



雨がやむとき(18)

「舌が千切れそうだわ……」
 まだ痺れている気がする舌をどうにか動かして唸ると、その表現が気に入ったらしいディルクは声を上げて笑う。
「それじゃあ、次は甘いものでも」
 そう言ってディルクが指さした先には、瓶に入った果物の看板を掲げた店がある。
「コンポートの店かな。実を食べたあとはシロップを葡萄酒に入れて飲むのもいい」
 ユニカはただ興味のないふりで店の看板を見るだけだったが、彼女は今朝も食べてきた桃のコンポートを刻んで入れたヨーグルトのことを思い出していた。
 それなら、美味しそう。


 そしてその店を出た時、ユニカはあんずと木いちごの砂糖漬けを詰めた瓶を持っていた。
 それぞれの口を紐で結んでもらい手に吊して歩いていると、分厚い硝子がぶつかり合ってかちゃかちゃと重たい音を立てる。割れやしないかと時々様子を見てみるが、瓶はなんともなく、淡い黄色と濃い赤のつやつやした果実がシロップの中に沈んでいる様子に満足感を覚える。
 いつもは与えられるものを漫然と受け取ったり拒んだりしていたし、今だってディルクにお金を払って貰って得たものだが、こうして自分で欲しいものを選ぶのも悪くない。
「少し通りを外れてみようか。こっちの通りの奥には広場がある。こことはまた違ったものが売ってるよ。すぐに食べられるものもありそうだな。休めるところを探してみようか」
 交差路にさしかかったところで立ち止まり、ディルクは南に向かって延びる通りに視線を巡らせた。
 そちらには立派な硝子窓を備えた店ではなく、色とりどりの天幕を張った店が通りの真ん中を貫くようにずらりと並んでいた。遠くに湯気が上がっているのも見える。何か煮炊きして売っているらしい。
 色々と果物を摘まんでいる内にユニカはむしろ空腹感を思い出していた。朝食をとったのはいつもより早い時間で、昼食も食べずに城を出てきたので無理もないが、こんなふうに「何か食べたい」と思ったのは久しぶりだ。
 ユニカが黙って頷くと、ディルクは目を細めて笑った。そうして手を引いてくれる彼は常に半歩先を歩いているので横顔もあまり見えなかった。しかしディルクの視線がユニカから背けられたあとも、彼の唇が緩やかに笑んでいるのはかすかに見えた。

- 605 -


[しおりをはさむ]