天槍のユニカ



両翼を成す子ら(13)

「殿下、公子さまを別室へ……!」
 駆け寄ってきた侍官に切羽詰まった声で耳打ちされ、彼はようやく我に返った。
「案内を」
「はい!」
 ぐったりと四肢を伸ばしたエイルリヒを抱き上げ、ディルクは苛立たしげに唇を噛む。
 意識を失ったように見える弟の口許が、微かな笑みを浮かべていたからだった。

     * * *

 迎賓館の一室でユグフェルトを迎えたのは叩頭するディルクだった。
「申し訳ございません。私が主催する会でこのような騒ぎを――」
「謝罪はあとでよい。公子殿の容態は」
「吐血したきり意識が戻りません。原因は調べているところですが、恐らく複数の毒物がエイルリヒの口にしたものに混入されていたと」
「医官は誰がついている」
「イシュテン伯爵とオルノス博士です」
 ユグフェルトは歯噛みし、衝立の奥で動き回る医女たちを睨んだ。
「吐血した際に毒物も一緒に吐いたのではないか」
「臓腑を傷つける類の毒はそこで吐き出されたと考えてよいそうです。しかし数種類の毒がかけ合わさったとなると、すでに身体を巡っているものもあるようで……」
 説明を聞いただけのディルクを通した話はまどろっこしい。ユグフェルトは手当に忙しいであろうことを分かっていながらイシュテン伯爵を呼んだ。
「伯!」
「はっ」
 衝立の奥から飛び出してきた壮年の男は、ディルクの隣に並んで跪いた。
 ティアナの父であり、十年にわたって王を診てきた医官は汗だくだった。エイルリヒに水を飲ませ胃を洗おうとしているのだがうまくいかないのだ。
「毒は何が使われた。何に入っていたのだ」
「はい。エイルリヒ様がお口になさった料理、使われた食器をすべて調べましたところ、直前にお飲みになった葡萄のジュースから酸の一種に反応がありました。胃の腑を傷つけたのはこの毒で間違いございません」
「ほかの毒は」

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