天槍のユニカ



不協和音(14)

 宴の会場では、曲を変えて延々とダンスが繰り返されている。その一曲が終わったとき、エリーアスは何気なくホールを見た。
 色とりどりの絹を纏った男女が、手を繋いで好きな場所へ落ち着き、次の曲の前奏を待つ光景。
 興味がなかったのですぐに顔を逸らしたが、何かが頭の片隅に引っかかる。立ち止まって、もう一度ホールを見た。そして注意深くカップル達の顔を確かめていると、
「……!」
 その中のひと組に、探していたユニカがいた。それも相手は王太子ではない。あの男は確か、そう、トルイユの使節代表。アレシュ・ブルシークではないか。
 いったいどういうことだろう。王太子はどこへ行ったのだろう。それよりもユニカが外国の使節と踊ろうとしているこの状況こそがおかしいし、信じられない。
 何ごともなく曲が始まると、ユニカはアレシュと手を取り合って回りだす。彼女がちゃんと踊れていることにびっくりしたが、それどころではないとエリーアスは思い直した。
 王族の身分を持ったユニカが他国の使節と踊る。それは立派な外交だ。だが、ユニカにそんな真似はさせないというのが王家の方針だったはず。これでは話が違う。
 王太子を探して抗議しようか、それとも曲が終わるのを待ってユニカを保護≠キる方が先か。迷った末に、エリーアスは後者を選んだ。
 やきもきしながら優雅な曲を聴く。入り乱れるカップルの中、決してユニカを見失わないようにその姿を追う。
 ユニカのステップは本当にそれなりになっていた。よっぽど練習したんだな、とエリーアスが感心した矢先、ユニカとアレシュは急に立ち止まったり、曲も半ばを過ぎた頃には二人してよろけたり。
 だんだん二人が踊りきれるのか心配になってくる。けれど割り込む非常識は働けない、待つしかない。
 そろそろどのあたりで二人が終曲を迎えるか、ホールの混み具合でエリーアスが目算し始めたとき――。
 アレシュは突然ユニカから離れた。一方的に別れの礼をとって、曲が終わらぬうちにホールを出て行く。
(どうしたんだ?)
 ユニカが呆然としたまま動かないでいるうちに、ようやく曲は終わった。
 貴族達の中に僧服の自分が入っていくのはおかしいが、仕方なかった。エリーアスは人の流れに逆らってホールへ向かう。
 しかしユニカが見つめていた先から王太子が現れたので、エリーアスはぴたりと立ち止まった。
 次の曲を踊るのだろうか。むっとするエリーアスの視線に気づかない彼らは、踊るのではなくホールを出て行く。いや、王太子がユニカの腕を引いてその場から連れ去ったように見える。
 離れていたので二人の表情は見えなかったが、王太子の足取りはえらく不機嫌そうだった。
 次の曲も始まりそうだったので、エリーアスはいったんホールの外へ出た。

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