天槍のユニカ | ナノ



家族の事情(3)

「それじゃあ……悪いがレオを預かってくれるかな。あまり長居するようならもう一度連れ戻しに来るよ。あいつは君のことが気に入ったみたいだし……しばらく甘えさせてやってくれ」
 そう言いながら、侍女や騎士たちの前でユニカの手の甲に口づける。
 彼らの視線に気づいたユニカが自分で手を引っ込めるより早く、ディルクはその手を放した。礼儀に則った行動だとしても、人前でこういうのはやめてくれと何度も言っているのに。
 狼狽えるユニカに構うことなく、ディルクはもう一度扉の陰に隠れる妹を睨みつけ踵を返した。
 その表情が暗く翳ったことを、ユニカは知らない。


 ディルクが去ったことを確認してから、レオノーレはようやくユニカを部屋に入れてくれた。
「ありがとうユニカ。さすがね、ディルクがあっさりと退いていったわ」
「私が言うかどうかは関係ないと思うわ」
「あるわよ」
 レオノーレはそう言ってユニカに抱きつき、労うようにソファへ誘う。
 ユニカと一緒に無事部屋へ戻ることが出来たディディエンがお茶の手配をしてくれる声を聞きつつ、ユニカはソファに沈み込んだ。


 王が昼食会の席を立ってからほどなく、レオノーレも立ち上がった。
『お開きのようね』
 そう言ってにっこりと微笑み、彼女はなぜかユニカの腕を掴んで会場の広間を出た。
 今思えば、王かユニカの許しがなければ立ち入れない西の宮へ逃げ込めば、ディルクも公国の貴族も追ってこられないと踏んでの行動だったのだろう。
 体(てい)よく利用された感じはするが、王の嫌なところをつついて怒らせたレオノーレ自身も何か苦いものを噛んだような顔をしている。それが妙にひっかかり、ユニカはレオノーレを部屋に入れてしまった。――そんな理由があろうとなかろうと、入室を拒否出来た気はしないけれど。
「明日になればほとぼりも冷めるかしら」
「明日?」
「ええ、明日よ。午前は予定がないし、ここでゆっくりしていても大丈夫だわ」
 泊まっていくつもりなのか。
 ユニカは愕然としたが、すぐ冷静になった。何もこの部屋に泊まるというわけではあるまい。ディディエンに任せておけば、彼女が公女に相応しいように部屋を用意してくれるだろう。
 実際、その幼い侍女はさりげなくユニカたちの会話を聞いているようなので、気がついたときにはレオノーレの滞在する部屋の用意が整っているはずだ。

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