家族の事情(2)
「聞こえてるぞ」
「喋らないでよ! 声を聞きたくないって言ってるでしょう!」
外から叩かれる扉に向かって怒鳴り、レオノーレは縋りつくようにクッションを抱きかかえる。そしてそれに額を押しつけ、気の高ぶりで潤んだ目を隠した。
ユニカにはこの状況がなんなのかいまいち理解出来ていなかったが、レオノーレの様子は痛ましかった。王に対して随分強気な態度をとっていたが、だからといって、レオノーレがそれだけ強いわけではないのだ。きっと。
その気持ちはユニカにも覚えがあることだった。
「――分かったわ」
追い払うというと聞こえが悪いが、ディルクから責められる前にレオノーレには落ち着く時間が必要だろう。
「本当?」
ユニカが重い腰を上げると、レオノーレも一緒についてくる。そして彼女はユニカを扉の外へ押し出した。
部屋の玄関に当たる前室へ追い出されると、後ろできぃっと扉が鳴いた。振り返れば細く開けた扉の隙間からレオノーレがこちらを睨んでいる。
これは……失敗すれば部屋に入れて貰えない気配だ。
その様子を見て、ユニカより先に扉の前から動けないでいたディルクが溜息をついた。
「すまないユニカ、すぐ連れて帰る」
「行かないわよ」
返答はレオノーレからだ。
ディルクの鋭い視線がユニカの後ろへ向かって飛び、また後ろからもぴりぴりした眼差しを感じる。
「落ち着くまで、待って差し上げてはいかがですか」
子供のようにお互い譲らない二人に呆れながらも、ユニカはぼそりと呟いた。
するとディルクが意外そうにユニカを見下ろしてきた。そんな顔をされても、こう言わねば自分が部屋に戻れないのだから仕方ないではないか、とは口にしない。
「だが……」
「レオがどれくらいまずいことを言ったのか私には分かりませんが、でも、陛下もお怒りのまま出て行かれたし、お互い頭を冷やすために時間をおいたほうがいいのではないでしょうか」
「あいつがここにいたら、君が迷惑するだろう」
(それはそうだけど……)
肩越しに振り返れば、扉と壁の隙間でサファイアのような瞳が燃えている。ここで正直なことを言えばユニカの部屋がなくなるであろう。
「落ち着いたら、ご自分で出て行かれるはずだわ」
それがユニカの本心から出た言葉ではないことくらい、ディルクにはお見通しのようだった。しかし彼はこれ以上訊き返すことなくただ苦笑し、所在なさげに腹の前で指を組んだり外したりしていたユニカの手を取った。
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