天槍のユニカ



いてはならぬ者(13)

 数日後に到着した調査隊が見つけたのは、七百を超える炭化した遺体と、焼け落ちた教会堂の前で祝詞を歌い続けている少女――ユニカだったという。
 見つかった遺骸の数は村の人口の三倍以上にのぼった。近隣の町や村から人が流入していたらしい。
 理由はすぐに知れた。人々の間に流れる噂によると、村にはあらゆる病や怪我を治す力を持った娘がいて、疫病を恐れた者、治癒を願って娘にすがりに来た者が、ブレイ村に集まっていたのだ。
 無数の落雷に滅ぼされた一つの村。しかし本当は何があったのか、その日の出来事を知っているのは生き残った娘ただ一人。
 癒しの力を持ち天槍≠招く、当時ようやく十を数えていたユニカだけだ。
「娘はなぜ王城に召されたのだろう」
「わたくしも詳しくは存じ上げませんが、最初にあの方を城へ迎え入れたのは、亡き王妃さまだそうですわ」
「王妃さま? ますます分からないな、どうして?」
「さぁ……王妃さまは衛生学に明るいお方でしたから、病を収束させるべく自らビーレ領邦へ赴かれました。どうしてあの方を連れ帰ったのかはわたくしも存じません」
 あからさまに嫌な顔をしてみると、これ以上ほかの女の話をするのは面白くないというリータの気持ちをディルクも察してくれたようだ。眉尻を下げて困ったように笑ったあと、ディルクはリータの頭を引き寄せてそっと額に唇を押しつける。喜ばしい不意打ちにリータは小さく悲鳴を上げた。
「ではこれが最後だ。陛下がご執心だという娘の血や力は本物か? 傍にいる君なら、何か見たことがあるんじゃないのか?」
 低い声でディルクが呟くと、その吐息が、熱と湿り気のある呼気が眉間をくすぐる。
「あ、あの方は、小さな傷を負っても瞬き一つの間に治ってしまいますの。血を飲むことで他者の傷が癒えるかどうかは分かりませんが、きゃ……っ」
 ディルクの腕がするすると肩へ降りてきた、かと思ったら、少し乱暴なくらいに胸の中へ抱き込まれた。
「続きを」
 身動きできないくらいの力で抱きしめられているが、心地いい。ディルクの右手が頬に添えられ、優しく顔を上げさせられる。続きを話せば、この続きをしてくれるのだろうか。
「手も触れずに、蝋燭に火をつけたり、陛下からかのお手紙を燃やしているのを見たことがありますわ。そういうとき、決まって青白い火花と一緒にぱちっと、何かが弾けるような音がしますの」

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