天槍のユニカ



繋いだ虚ろの手(4)

「貴族達の対応に問題があったかどうか、当時を知らない私には分かりません。疫病をユニカのせいだとも思っていません。あの二人もそこまで迷信深くはないでしょう。ならばなぜ、彼らがユニカを憎み、彼女を排そうとする計画に荷担したか、です」
 エリーアスはテーブルの上で握った拳を見下ろし、奥歯を噛みしめた。
「ユニカに、クヴェン王子暗殺の疑いがかかってるって話だったな。そんな訴えを起こしたのは誰だ? だいたい、王子は落馬事故で死んだって聞いたぞ。ユニカがどう関わってるっていうんだ」
「告発は匿名でした。しかしどうやら向こう≠ヘ証拠になるものを用意してあるそうです。ユニカを召喚して審問会が開かれる予定です」
「いつだ」
「三日後」
「三日後!?」
 エリーアスは青白い顔で昏睡するユニカを思い出す。深手を負ったばかりか毒にまで苦しめられている今の状態では、いくらユニカといえど三日後にはようやく起き上がれるかどうかだろう。貴族達の前に放り出されて冷静な受け答えが出来るはずがない。
「ユニカが襲われたのは欠席裁判にするためか……?」
「違うと、私は考えます。近衛を使って彼女を捕らえるからには、審問会に確実に出席させ、全会一致で彼女の処刑を決めるつもりだったのでしょう。あの騎士たちの行動は突発的だったように思えます」
 そうでなければ、ローデリヒがこそこそと命令書を偽造し、城を抜け出そうとしていた意味がない。恐らく彼は予定外の行動に出たのだ。
 そして捕まった。ヴィクセルは口を閉じるために死を選んだ。
 爪≠フ出所だけが不自然に浮いている。
 ローデリヒを動かした人物はユニカをおおやけの場で亡き者にしたかった。それなのに、ローデリヒと協力関係にあったと見えるヴィクセルはユニカを殺すための猛毒の武器を持っていた。ヴィクセルの素性を詳しく洗って確認する必要はあるが、爪≠ヘ本来、騎士が持っているはずのないものである。
 誰かが用意したのだ。この毒ならユニカをも殺せるだろうと目論んで。
「最初の審議にはユニカを出席させないつもりでした。だからよいのです。しかし伝師殿、あなたのご意見も伺いたい。ユニカがクヴェン王子の死に関わっているとは考えられますか? 彼女には陛下に対する強い憎悪があるようです。それを唯一の後継であったクヴェン王子に向けた可能性は?」

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