レオノーレにとって、ディルクとエイルリヒは誰よりも特別な存在だった。大公家の中にある重い澱から生まれ出た歪ななきょうだいとして、それぞれが欠くべからざる存在でありたいと思っている。
そして彼女のそんな想いが満たされることは今日までなかった。ディルクも、エイルリヒも、レオノーレが望むように三人で℃いを背負おうとはつゆほども考えていないからだ。
互いを嫌いながらも互いを意識している兄と弟の間に、むしろレオノーレは存在していない。
それは彼らがレオノーレを身内として受け入れているからこそだったが、レオノーレが欲しているのはそんな温い関係ではない、もっと強烈な愛情や依存なのだろう。
今日のような慰めを求めてくるレオノーレが、そのたびに吐露してきた泣き言から、ルウェルはそのことを知っていた。
「ディルクにとってレオはちゃんと妹≠セし、だからディルクも王様もレオをあてにしてるんじゃん。誰でもいいってことじゃないだろ」
「だけど、誰それの夫人になったらあたしはもう用済みでしょ」
ルウェルは子どもを慰めるように公女の頭を撫でてみたが、唇を噛んで悔しがるレオノーレのこじれた怒りは静まりそうになかった。
「ユニカはいいな。ユニカじゃなきゃだめだって言ってもらえて。あんなに何もできない子なのに」
そうして声を震わせながらこぼしたレオノーレは、再び抑えきれなくなった涙を隠すようにルウェルの首にかじりついてきた。その勢いに圧され思わず尻餅をつく。身体を支えるためについた左手にちくりと痛みが走った。硝子が刺さったらしい。
「でも、ユニカはちゃんとできるようになろうとしてるし、あたしだってユニカのことが好きなのに。どうしてあたしはこんなことを考えるの?」
その問いにレオノーレが自ら答えることはしなかったが、続く嗚咽が彼女の中にある答えをのぞかせる。
誰かや自分への絶望で、泣き暮らしていた姫君をルウェルは知っている。
その姫君は、やがて大公家に深く醜い傷跡をつける魔女となった。
二人目の魔女が現れることになったって、ルウェルは何も驚かないだろう。
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