光と影(22)
そして、そうした悪意との戦いは、最終的にはユニカ次第だった。ディルクも、ほかのどんな味方も、ユニカを支えること守ることはできても、折り合いを付けることはユニカ本人にしかできない。
しかも、これまでのように嫌な目に遭ったからといってどこかへ隠れて落ち込んでいるわけにはいかなくなるのだ。
そういう世界から遠いところにユニカを置いてやることは不可能ではない。まつりごとに関わらず、自分の花園だけで過ごした王妃だって歴史上には何人もいる。
ただ、条件を満たしているといっても数歩遅れたところから始めねばならないユニカが、そうした無能な妃達と同じようにしていては宮廷に受け入れられることはないだろう。
ユニカには自力で立っていて貰わなければならない時と場所が必ずある。ディルクもまだ不安に思ってはいるが、
「ユニカが無理だ≠ニ言っていないんだ。だったらなんとかなる」
「あらぁ、えらく前向きだし言うことが穏便ね」
「穏便?」
「ユニカの敵は全員排除するって言うかと思ってた」
「排除しても問題ない相手ならするかもな」
そうは言いながらも、傷がふさがりつつある左手に引き攣れるような痛みを不意に感じた。ラビニエやコルネリアを宮廷から消したことはともかく、その家までが道連れになる事態は避けるべきだ。メヴィア公爵に忠告された通りユニカの陰に血の色を感じさせてはならないし、貴族達はいずれも自分の手駒だと考えればやすやすと失うわけにはいかない。
「ユニカがやってみると言っているうちは、俺もユニカを信じて任せるだけだ。次は助けを求めてくれると約束したし、俺も見逃さない。そんなことより、他人事みたいに言っていないでお前こそウゼロではユニカを助けてくれないと。あてにしているんだぞ」
「そう言われてもねー、あたしも友達は少ないから」
レオノーレがわざと脚を高く上げて組み替える。杯を置いた彼女はおかわりを注ぐでもなく、背もたれの方を向いて横になった。
何を拗ねているんだ、と言いかけて、ディルクははたと気づいた。レオノーレは何かに拗ねている。そのくせわけを言わずにディルクにしゃべらせておいて、また何か気に障ったのだ。
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