天槍のユニカ


光と影(23)

「陛下の用件はなんだったんだ?」
「大したことじゃないわよ。多分、ディルクが言ったのと同じようなことが言いたいんでしょ」

 ユニカの話しかした覚えがないので、わけが分からずディルクは眉を顰める。
 と、その時、レオノーレとは反対にえらく機嫌のよいエリュゼがやって来た。

「ユニカ様がお戻りになりましたわ」

 満面の笑みで言ったプラネルト女伯爵の後ろからユニカがひょっこり現れるのを確かめると、ディルクは思わず席を立っていた。

「どうしたんだ? 戻りは明日の予定だったのに」
「用事が終わったから帰って……あ、待って」

 再会の抱擁を交わそうと思ったのに、ディルクが近づくだけユニカは後退っていった。

「施療院に行ってきたの。あなたが宮に戻っているって聞いたから顔を見に来ただけで……湯浴みがまだだから」

 ユニカが施療院へ行ったあと、王太子に会う前には必ず身を清めるようにという決まりはヘルツォーク女子爵がつくった。なるほど、と思いつつもディルクはあえて不服そうにして見せた。

「挨拶くらい構わないと思うけどな」
「構います。あとにして」

 わざと距離を詰めればユニカがまた慌てて一歩退く。その顔が可愛く、「あとでならよい」という許可を貰ったと解釈したディルクは満足した。

「レオ、ここにいたのね」
「なぁに、ユニカはあたしにも会いに来てくれたの?」
「迎賓館へ寄ったら、陛下のお召しがあって留守にしているって言われたからまた今度渡そうと思っていたんだけど……迷惑をかけたお詫びよ」

 そう言ってユニカが差し出したのは、エルツェ家の蘭の花紋が入った麦芽酒だった。エリュゼの手を経てそれを受け取ると、レオノーレは先ほどまでの拗ねた表情を引っ込めて酒瓶を抱きしめた。

「迷惑だなんて思ってないわ。むしろ下手をしちゃったのはあたしだし、ユニカが元気になってよかった。でもこれはありがたくいただくわね」

 レオノーレの今までのふてくされようを知らないユニカは、公女が喜んでくれたと素直に安心したらしかった。しかし、ディルクにはレオノーレが隠した・・・と見えた。

「飲んでいくか?」

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