天槍のユニカ



寄る辺なき小鳥(1)

第9話 寄る辺なき小鳥

 
『わたしは、あなたみたいにずけずけとわたしの領域に踏み込んで来る人には、まだ慣れていないのよ』
 抱えた本をさらに強く抱きしめて、プリシラは彼に背を向ける。
 すると両脇から現れた手が棚にびっしりと並んだ本の背表紙に添えられて、気がつけば彼の腕がプリシラを閉じこめる檻を作っていた。
『ならば、早く慣れた方がいい』
 吐息と一緒に耳へ吹き込まれる囁き。間を置かずプリシラの耳朶に柔らかく温かいものが触れる。
 食むようなキスに驚いて振り返ったとたん、待ちかまえていた彼の唇に捕らえられた。身体もくるりと反転させられ、プリシラは彼と向き合う形で本棚に押さえつけられる。
 その鮮やかな手際に感動してしまったのは一瞬。左手で彼の胸を押し返してみるが、それもたやすく抑え込まれる。
『や、んん……』
 ぴったりと閉じていたプリシラの唇を、つっと湿ったものがなぞった。それが彼の舌だと気づいたプリシラは顔を逸らそうと試みたが……。
 腕の中から本が落ちる。彼女が抵抗する前に、本を抱えていた右手を左手と同じように彼が封じ込めたのだ。


「ユニカ様」
 ユニカは叩きつけるように本を閉じ、腕ごと枕の下に突っ込んだ。
「……ノックはしました」
 睨み付けられたフラレイは怖ず怖ずしながら言う。
「そ、そう、ごめんなさい。聞こえなかったわ」
「お寒いのでしたら、火をもっと大きくいたしましょうか?」
 ユニカは今日も朝から寝台の上で毛布を被り、侍女達の目から逃れて過ごしていた。
 そんなユニカの格好は寒さをしのぐため毛布にくるまっているようにしか見えない。気遣いが出来る方ではないフラレイでさえそう言いたくなるのも無理はなかった。
「いいわ。むしろ小さくしていって。暑いの」

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