天槍のユニカ



問いかけ(22)

 どうやらカイが言っていたことは本当らしい。ジゼラは嫁いだ姉の代わりにユニカと仲良くしたそうだ。無邪気な顔でエルツェ公爵を戸惑わせている姫君を横目に、ディルクは多少ほっとしていた。
 この分なら、ジゼラがユニカと争ってまで妃の座を手に入れたい、と自分から言い出すことはないだろう。メヴィア公爵にも諦めの色が見えた今、彼がさもユニカを支持しているような印象の情報を流せば、ユニカが妃の代理として公国へ行くことは認められそうだ。
 厄介な案件が一つ片付くめどをつけられたので、ディルクは公爵達を好きなだけゆっくりさせることにして、公務に戻るつもりだった。
 その前にもう一度ユニカの顔を見ていきたい。目に見える体調不良のほかに異常がないか、ヘルツォーク女子爵の見立ても聞いておきたかった。
「王太子殿下、少しよろしいか」
 そのつもりで席を立ったところ、メヴィア公爵に呼び止められる。しかし、娘には聞かれたくない話のようで、応接間を出るように促された。
「左手のおけがは、少々不用意でしたな」
 夏の陽射しが存分に取り入れられた宮の廊下はどこも明るく、それだけに、メヴィア公爵に囁かれたディルクは包帯が巻かれた手を身体の陰に隠さざるを得なかった。
「殿下をお恨み申し上げているかも知れないと分かっていて、シャプレの娘にお会いになったのは不用意でした。おかげで、あなたはまた臣下を潰さねばならなくなった」
 ディルクにどんな目的があったのかまでを、メヴィア公爵は問うてこない。しかし、彼の想像は正鵠を射ているだろう。
「チーゼル公爵も殿下と『天槍の娘』に危害を加えたために、建国以来の家の歴史に幕を下ろすことになった。この先あと何人の廷臣が、あなたとあの娘のために滅びねばならないのでしょうか」
「何がおっしゃりたいのですか」
「シャプレの娘に関しては、殿下とエルツェ家の姫に対する殺意が明らかとなった以上、もはや罪の減じようもない。しかし、ほかについては再考なさるべきでしょう。特にジンケヴィッツ卿などは、いずれあなたの手足となるべき人材であったはず」
「公が彼らの身を案じているとは意外でした」
「私は殿下をこそ案じております。流血による解決法は、そうそうお使いになるべきではない。ご寵姫の影に廷臣が血の色を見るような事態を望まれないのならば」

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