天槍のユニカ



問いかけ(6)

 法官は続きの言葉を飲み込み、助けを求めるように王とそのそばに控えるアーベライン伯爵に視線を送った。
 王はもちろん何も言わない。王が言ったことは決定事項になってしまう。王の代わりに意見を述べるのが、彼の懐剣であるアーベライン伯爵だった。こうした非公式、非公開の議論の場ではよくある並びである。
 ほかに同席しているのは、ディルクの副官として近衛隊長のラヒアック、そしてユニカの親としてラビニエ等への厳罰を訴えにきたエルツェ公爵。
「殿下のおっしゃる通りだ。まるで私の娘ならば危害を加えても構わないというような言い方はやめて貰えないか。ユニカがどれほど残酷な仕打ちを受けたと思っている。ほかに酌むほどの事情などない。幸い愚かな真似をした当人達もぺらぺらとしゃべって早々に事件の全容も分かった。単純に、迅速に、法に基づいた処罰を決めるべきではないかね」
「しかし、情状酌量の余地なしとなれば、廷臣の方々への影響が大きすぎます。それこそ幸いにして、死者が出なかったというのに」
「仕方がない。それがこの国の法だ」
 エルツェ公爵はそう言い、冷淡な目つきで脚を組み直した。
 最も重い刑を科すことになるなら、ラビニエの父であるジンケヴィッツ伯爵は領地の七割を没収されることになる。ほかの二名の家も領地の六割から五割を。それは家の存続を十分に脅かす罰であり、緩やかな死刑宣告に等しかった。
 そして、ユニカの殺害を意図し、ディルクにけがを負わせたコルネリア本人は絞首刑、シャプレ伯爵家の名は貴族名鑑の中から消える。
 本来なら誰も死なずに済んだ事件だったが、ディルクが一つ、重大なおもりを付け加えたせいでそうはいかなくなった。
「しかし、……このような娘達の間のいざこざごときで……」
 娘達のいざこざごときで、いっぺんに三つの家が没落し、一つが抹殺される。それは事態の結末として酷すぎる、と言いかけたであろう法官の声をディルクは遮った。
「いざこざ≠ニいう認識が間違ってはいないか。これは未遂に終わった人殺しだ。卿がまとめた調査書をもう一度読み上げてみるがいい」
 法官は納得がいかないという顔で黙り込んだ。その沈黙の隙に、ディルクは王の表情を横目で盗み見る。
 彼はここで発言しない。そう簡単に法という秩序を超えた判断を下したりはしない。量刑の材料となる証拠を整理するよう促すに留めるだろう。

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