問いかけ(2)
そのメヴィア公爵は、どういう用件で登城してきたのだろう。王家に準じる地位を持つ貴族と王族の間には、話し合うことはごまんとあるはずだ。しかし、ユニカは喉の奥に魚の小骨が引っかかったように感じた。
ラビニエの茶会で起こった事件について、それに関するユニカのことで、何か言いに来たのではないか。
メヴィア公爵はユニカが体調を崩していることを知っている。王の寵臣なら耳も早く、事件の概要を把握しているのだろう。そして今日の話≠ノはジゼラも関係があるから連れてきたのではないか。
例えば、こんな騒ぎが起きたのは妃でもないユニカが王太子の宮に居座っているからだ、とか、王族の妃にふさわしいのはジゼラのほうだ――とか。
ユニカはジゼラからそっと視線を外し、上掛けの端を握りしめた。
今日のジゼラは、淡いクリーム色の生地に白や紅色の小花が散らしてあるドレスを着て、ヘルミーネの茶会の時のように麦の穂の色をした髪を大人っぽくまとめていた。それでも幼さが際立つ、丸くて可愛らしい目。今年で十三歳になるという小さな姫。
しかしあと五年、いや、三年経てばどうだろう。
あどけなさは残っていても、立派な姫君になっている。
きっと、ディルクの隣に立っても遜色のないような――
「ユニカ様、やっぱりお辛いのですか? 横におなりください。医官を呼ばせましょうか?」
ジゼラが身を乗り出す気配を感じて、ユニカははっと顔を上げた。まだ胸のあたりがざわざわと波立っているのを抑え、ぎこちなく笑った。
今のは、もしかして……。
「いえ、大丈夫です。少しぼーっとしてしまって」
うまく笑えていないのは、ジゼラの心配そうな表情がほどけないことからもわかった。どう取り繕おうか迷ったユニカは、今朝の葡萄のことを思い出して侍女を呼ぶ鈴(ベル)を手に取った。
「どうおもてなししてよいのかわからないのですが、葡萄はいかがですか? 今朝いただいたのです。とても甘かったので、よろしければジゼラ様も」
「粒が大きくて赤い葡萄ですか?」
「……? ええ、そうです」
「それはお父様が王家に差し上げた葡萄です。よかった、ユニカ様のお口にも合ったのですね」
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