天槍のユニカ



見えない流星(21)

 二つ目の用件を読んだ時、ユニカは無邪気な子供のように目を輝かせた。寝起きの気怠さは一気に吹き飛び、彼女は嬉しさに頬を紅潮させて寝台から飛び出す。
 来客はあるが、会うのは日を改めてからにし、今日は東の宮を出ないようにという言葉で手紙が結ばれているのをすっかり見落として。
「フラレイ、食事が終わったら出かけるわ。その支度も、」
 弾んだ声でそう言ったユニカだったが、食事の準備で動き回る侍女たちの真ん中、つまり食事が並べられていくテーブルに既に座っている男を見つけ、彼女の言葉は不意に途切れた。
「外出するなってディルクの手紙に書いてあっただろ。つーか起きるの遅い。もう昼だぜ、お姫様」
 頬杖をつき、不機嫌に唸るその男とは面識があった。図書館にてユニカが本でぼこぼこに殴った近衛騎士である。
 うっと息を呑んだユニカを睥睨し、ルウェルは退屈そうに大きな欠伸をした。

 
     * * *

 
 カミルが怪我の休養から復帰しないので、王太子から各部署への伝達物を届ける仕事はティアナがやっている。
 ドンジョンの勝手はよく知っていた。お遣いを終えたティアナは不自然ではない程度に方々へ寄り道し、官吏たちの様子を見ていく。
 西の宮で起こった変事について、文官たちの間にはまだ情報が流れていないようだ。まあ、話が漏れていくのも時間の問題であろう。
 昨夕の呼び出しのあと、兵舎でライナがローデリヒに掴みかかって騒ぎを起こしたそうだ。近衛隊の中では、昨日何が起こったのか察した者もいるのではないだろうか。
 これはティアナと同じ王太子付きの侍女であるクリスタが、朝の内に恋人の近衛騎士から仕入れてくれた情報だった。
 そろそろディルクのところへ戻り昼食のお世話をせねば。そう思ってティアナは主の執務室へと足を向ける。
 廊下を曲がったところで、前方から彼女の上司にもあたる侍従長ツェーザルが歩いて来るのが見えた。

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