天槍のユニカ



再会(14)

 ユニカもクリスタとともに扉の方を振り返った。
 最初に見えたのは深い臙脂色のドレスだ。その派手な衣裳に目を取られたので、入ってきた女の顔を見ても瞬時にぴんとこなかった。
 ところが、伏せていた面(おもて)をあげた女はユニカと目を合わせるや否や、一つ震えて微笑むどころか涙を浮かべる。そして、彼女の帽子に挿してあるふっさりとした一枚羽根が大きくなびいたと思った途端、女は喚き声とともに飛びかかってきた。
 女の腕がこちらに伸ばされるその向こうで、クリスティアンが剣の柄に手を掛けたのを見てユニカははっとした。
「やめて!!」
 悲鳴のようなユニカの叫びで、瞬時に沸騰した緊張が頂点に達したまま静まりかえる。
 誰もが硬直し言葉を失う中、女がすすり泣いているのを耳元で聞きながら、ユニカは自分の胸を押さえる代わりに、かじりついてきた女の背中を撫でてやった。
 クリスティアンの剣が女の背中に届く直前だったばかりか、のほほんと立っているだけのように見えたラドクとフィンも抜剣を終えているのを見てぞっとする。
 もう少し遅かったら。
 どくどくと鳴る心臓が少しずつ鎮まっていくのを感じながら、ユニカは間に合ったことに深々と安堵の息をついた。
「こ、これは、どういうことです!?」
 だが、その直後にはクリスタが気絶しそうなほど青ざめ、金切り声を上げて立ち上がった。そうしてユニカから女を引き剥がそうとする。しかし、女はクリスタの膂力などものともしない強さでユニカの首にぎゅうぎゅうしがみついてきた。
 剣を収めた騎士達も険しい顔で歩み寄ってくるので、ユニカは慌てて皆を制止した。
「待って、知り合いです。怪しい人ではありません」
「し、しりあい?」
 力の抜けたクリスタが尻餅をつくように椅子に戻るのと一緒に、すすり泣いていた女は鼻をぐずぐずいわせながらようやくユニカの首から離れた。
「ゆ、ゆに……」
 ユニカの名を呼ぼうとしてくれたようだが、彼女の胸に去来したなにがしかの感情がそれを邪魔したらしい。女は濃い化粧をぐちゃぐちゃにしながら、顎先から涙を滴らせている。
「お元気だったんですね、マクダさん」
 ユニカが女の肩を撫でながら言うと、宥めたつもりだったのだが、彼女は再び声を上げて泣き出してしまった。

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