天槍のユニカ



幕間―3―(6)

 ディルクは片目だけを開いて枕を提供するユニカを見上げる。その目もすでにとろんとして眠たそうだった。
「休憩しに来たのでしょう。目をつむったら?」
 ユニカの指が前髪を撫でると、それに促されるようにディルクは再び目を閉じた。するとほとんど間を置かずに寝息が聞こえてくる。この数日、昼に宮へ戻ってきたディルクはこう≠セった。
 彼が寝入ってしまったことを確かめると、ユニカはほっとしつつ用意してあった膝掛けをかけてあげた。
 ユニカが王太子の宮で暮らし始めてからというもの、ディルクの公務は早朝から始まり、夕食を食べに戻ってきたあともしばらく机に向かっていたり、また出掛けたりしていた。もともとこれほど忙しい人だったのかユニカは知らない。ただディルクの帰りを待っていて、朝になればまた送り出す。
 昼に宮へ戻って昼寝するようになったのは三日前だが、その前日からからなんとなく夢見が悪いらしかった。夜中にうなされていて、一度だけならまだしも続けて毎夜……となると、さすがにユニカも心配だった。昨日は思わず寝返りを打つ振りで揺り起こしたくらいだ。
 ディルクはユニカが起きていることに気が付かずまた眠ってしまったらしいので、彼にもうなされていた自覚はないかも知れない。
 飄々と笑ってユニカとじゃれに来たような顔をしているが、実はよく眠れず疲れているのではないか。何か不安なことがあるのではないか。
(私をそばにあげたことが原因でなければいいのだけど……)
 いや、お世継ぎともあれば愛妾の一人や二人の問題に留まらず、気がかりなことはごまんとあるだろうけれど……ディルクが何も言わないのなら、ユニカに出来るのはこうして膝を貸してあげることくらいだった。
 だが、ユニカのそばに来た途端、ディルクがこれほど無防備になってくれるのは少し嬉しかった。一緒にいるだけで誰かがこれほど安らいでくれるということにユニカの胸も温かくなる。
 満たされているという感覚がある一方で、なんでもいい、もっとディルクのためにしてあげられることがあればいいのにと感じるので、彼の髪を撫でながらユニカは困った。
 いずれ去るつもりでこんなことを考えていても仕方ないのに――どうして急にこれほど欲張りになってしまうのだろう。
 答えの出ない思案の波間で、ユニカはまだ揺られている。






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