天槍のユニカ



幕間―1―(2)

 ディルクは頷く代わりに唇を塞ぎ、身体を傾けてきた。必然、ユニカも均衡を失って寝台の上に倒れる。
「俺は初め、ユニカをこの宮に入れてしまいさえすればいいと思っていたんだ。だけどそれでは陛下のご気分をひどく害しただろうし、君のことも傷つけることになっただろう。ユニカが言ってくれたおかげで頭が冷えたよ。陛下のお許しがなくちゃ俺のところには行けないって」
 衣擦れの音の代わりに、耳許でディルクの声が響いた。声は耳朶を食むような口づけに変わり、首筋をくすぐるような口づけに変わり。思考がふやけていくのを感じながら、ユニカは懸命に舌を動かした。
「陛下が、本当に許してくださるとは思わなかった……」
 お許しが出たのは、きっとユニカがディルクのそばで暮らすのはほんの短い間だからだろう。そう言おうと思ったが、唇以外のところに降り続けるキスの雨が心地よくて、伝えようとする心が揺らいだ。
 こんな表しようのない幸福感を捨てて、ディルクの許を去ることなど出来るだろうか。
 自信がなくても伝えておかねばならない。そうしないことはディルクに対してひどく不実だ。
 そう思ったが、ディルクがそうさせてくれなかった。
 重ね合わせていた手の指がひとたび絡まってからは、ユニカは雨上がりのゼートレーネで見たのと同じ夢に身を委ねた。自分達の境界線もあやふやになるくらい、どこまでも深く。



 半月分の空白を埋め合わせるために微睡んでは抱き合い、また微睡むことを繰り返し、何度目かに目覚めたのはまだ暗い時間だった。しかし夜明けが近いことはなんとなく分かる。
 ぼんやりしたまま起き上がり、暗闇を夢現に眺めてユニカが考えたのは、王に会わないと、ということだった。
 お礼と、そして何よりお詫びとを伝えねば。まずは手紙でもいい。
 そんなことばかりが頭の中を占めていたのは寝ぼけていたからかも知れない。
 寝台を降りようと脚を伸ばしたところで不意に腰を引き寄せられた。再び身体が転がってしまうくらいに強い力で。
 露わな肩に口づけられる感触とともにディルクの声がユニカの肌を撫でた。
「まだ夜明け前だ」
 脚が絡まり、ユニカを捕らえているのとは別の手は吐息がかすめるようなくすぐったさで身体を這っていく。ユニカはその心地よさと恥ずかしさに四肢を縮こめながら掠れた声で応えた。
「陛下に、謝らなくてはいけないの」
「謝る? 何を?」

- 1187 -


[しおりをはさむ]