天槍のユニカ



余韻(4)

 王太子がちらつかせる抜き身の輝きを感じとり、彼女はうつむいて浅い呼吸を繰り返した。
 ただ、ディルクと結びつきたいという意思を示しただけではないか。ほかの貴族とてやっている。たったあれだけのことで切り棄てられてたまるものか。女侯爵にも、当主として家を守る義務があるのだから。
「これは私がちらりと抱いてしまった疑念です。真実でないことを願います。ところで、陛下と公国側の会談の結果ですが」
 また別の書類、会談に同席していた弁官がとった議事録を目で追いながらディルクは続けた。
「使節の代表であるエイルリヒの意識が戻り次第、本人を交えて要相談といったところになりますが、結論だけ申し上げましょう。『公子の殺害未遂という重大事であるため、外交上の懸念を考慮し、この件はなかったものとする』」
 ディルクが読み上げた文言に女侯爵は息を呑んだ。しかしすぐさま正気を取り戻し、テーブルに身を乗り出して声を荒げる。
「調査は行われないということでしょうか!?」
「ええ」
 目の前が暗くなった。落ちるように椅子に座った彼女は、テーブルを睨みながらぎりりと奥歯を噛み締める。
 犯人が分からなくても、責めを負う者がいないわけにはいかない。
 ならば責任を取るのは誰だ。ジュースを持ち込み、管理に不手際があった、そして毒入りの飲みものを公子に勧めた者ということになるのではないか。
「今は、両国間にわずかの摩擦があってもならない時期です。エイルリヒが無事ならばことを荒立てるべきではない……陛下のご提案ですが、使節側もこれを受け入れました。しかし収まりが悪い。私は今日の主催者ですし、飲みものを持ち込んだのは女侯です」
「その責めを負え、とおっしゃるのですか……?」
「正式な沙汰は後ほど陛下よりあるでしょうが、決定事項としてお伝えしておきます」
 まるで午後の挨拶をするように爽やかな微笑みで、ディルクは告げる。
 処分は、ブリュック侯爵家当主の強制的な代替わりと、新当主の半年間登城禁止である。

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