愛しさの代償(18)
「そりゃ、こういうことをしたいと思ってたんだから」
「――っ、……」
ユニカは何か言いかけて大きく息を吸い込んだが、結局は黙ってしまった。下手に離れて顔を見られたくないからだろうか、後ろから抱きすくめられたまま大人しい。
ディルクはそんなユニカの髪を梳いて、どうしようもなく色香の立つうなじと口づけの痕を隠し、熱い肌とは対照的に冷たい艶のある黒髪に鼻先をすり寄せる。
こうやって触れている資格が、ユニカを腕の中で慈しむ資格が、自分にあるだろうか。
そう考えると、ユニカに触れている自分の身体がいつまでも冷たいまま、そのうち凍えて動かなくなっていくような気がした。
しかしそれは気のせいで、血が通ったディルクの身体は生きていて、求めるままにユニカに触れることが出来、想いに任せて彼女と唇を重ねることも出来る。
しばし再会を確かめる口づけに身を委ねたあと、ユニカの溜め息を間近に感じながらディルクは口を開いた。
「エイルリヒから招待状が届いただろう?」
「ええ、クリスティアンが持ってきてくれたのだけど、あなたにも聞いてみようと思っていたのよ。公子様になんてお返事したらいいかわからなくて……」
「あとで見せてくれ。俺も向こうで急に言われた話だから、知らなくてね」
そして、心を凍えさせそうな不安を押し込め、ディルクはにこりと笑った。
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