天槍のユニカ



甘くていとしい湖畔の一日(2)

「分かったわ。でも、ようは反省して貰えばいいのでしょう? それに足りるだけの罰にしてあげて」
 カイは呆れたように溜め息をつき、ユニカにぶつかった£jについての調書を重ね合わせる。
「裕福な酒商のせがれでしたから、それなりの額の罰金を取って、姉上への謝罪を命じます。そのうち酒を納めに来るでしょう」
 「それなりの」金額をここで明かしてはくれないらしいが、ユニカは少しほっとした。金で済む刑罰なら極刑よりははるかにましだった。
 カイは今日もその件を処理するために出かけると言って部屋を去った。
 貴族の価値観はまだよく分からない。ユニカは村を管理する側の導師と暮らしていたが、養父もどちらかというと村人とともに生活していたし、ユニカが王城に長く住んでいたといっても貴族達との交流はほとんどなかった。これからはもう少し、そういうものも学んでいくべきかも知れないと思った。
 王妃から貰ったこの土地のことくらいは、自分で決められるように。
 一人になったユニカはおもむろに立ち上がった。机の上で大きな花瓶に活けられている大量の矢車菊の一輪をそっと指で揺する。昨日レオノーレ達が摘んできた花は、カイがこんなにいらないと言うので館中に飾られることになったのだ。
 これも、王妃様がくれたもの。
 彼女が遺したもののあたたかさに触れるたび、ユニカの胸はちくりと痛みながらも視界は明るく開けていくようだった。施療院のことだって、あんな大きなものを自分が背負えるとも思えないが、何か役に立てることがあればいいと思う。それに、この村で暮らす人々の暮らしはユニカが守らなくてはいけない。
 どんなことをしなくてはいけないのかまだ分からないが、まずは自分に出来ることをしよう。村長や導師の話もカイと一緒に聞く。普通に歩いているだけで転落する者が出るような橋も架け替えてあげた方がいい、とカイが言っていたが、まったくその通りだと思うし。
 施療院のことは――ひとまず、オーラフから頼まれる仕事をちゃんとやろう。
 ちょうどよいことに今日はどこへ行く予定もないので、さっそく縫いものに専念出来る日がきたのだ。
 ところが、思い立ったユニカがさっそく預かった布と裁縫箱を広げていると次なる客がやってきた。村長夫人のアンネだ。今日も館の家事諸々を手伝いに来てくれたのだ。
「領主様。お忙しいところ申し訳ないのですけど、村の子が領主様にご相談したいことがあるって」

- 1044 -


[しおりをはさむ]