天槍のユニカ



甘くていとしい湖畔の一日(1)

第6話 甘くていとしい湖畔の一日


 平和に迎えたゼートレーネでの三日目の朝、朝食を終えたあと、ユニカはカイに話があると言われ、領主の部屋で彼と向き合っていた。
 そして、自分が思っていたほど平和でもなかったことを知って絶句する。カイがいつもの三割増しで不機嫌な顔をしているのはユニカの反応が気に入らないからだろう。
「罰だなんて。わざとではなかったと言っているなら必要ないのではないの? すぐに家に帰してあげて」
「わざとではなかったとしても、今申し上げたとおり処罰は必要です。被害を受けたのは姉上ですし、あの男は助けもせずに逃げました。通常より軽い刑で済ませるのはよいとしても、罰を受けさせないという道はありません」
「でも……」
 ユニカが川に落ちた時に負った傷もほとんど消えたし、体調だって悪いところは一つもない。それは助けてくれたディルクやルウェル、アロイスにしても言えることだった。
 だから自分が川に落ちたことすら忘れかけていたところだ。今日、カイに説明されるまでまさか自分を突き落とした£jがディルクの騎士に捕らえられているとは思いもしなかった。
 カイは、大勢の村人に目撃された手前、うやむやには出来ないと言う。それで領主のところに処罰の提案を引っさげて裁可を求めに来たというわけだ。
「ゼートレーネを、領主の情けさえあれば罪を犯しても許される土地にしてしまうおつもりですか」
 反論を試みていたユニカはうっと息を呑んだ。部屋には強硬な態度のカイを宥めてくれるエリュゼもディルクもいない。
 それに、「ゼートレーネを」という言葉は思いのほかユニカを怯ませた。
 ユニカにちょっとぶつかってしまった男に罪と言えるほどの罪があるとも思えなかったが、それはユニカの考えで、その光景を目撃した村人、あるいは歴代の領主達が定めてきた法に照らせばまた違うのだろう。
 ユニカはゼートレーネの主になった。もしかするとその法を変える力も手にしたのかも知れないが、普通の領主の感覚に倣い、領内の秩序を守るために変えてはいけないものがある。
 しばらく黙って考え、ようやく決心がついたユニカは重い口を開いた。

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