青い花園(21)
彼は目を閉じたまま気持ちよさそうにしていた。眠っているわけではなさそうだが、ユニカを見るでもなく、重ねた手に優しく力をこめてくるだけ。
さっきのあの瞬間、あの口づけをもって何かが変わったのだろうか。
形のある証はなかったが、ディルクの顔を盗み見ていても目を逸らしたくなるような衝動は湧いてこなかった。
握られたのとは反対の左手に、摘んできた矢車菊と、ディルクがくれた石の矢車菊。
摘んできた方の花を、そっとディルクの胸に置く。
気配に気づいた彼は瞼を持ち上げ、花を摘まみあげて笑いかけてきた。
生まれ月の贈りものを渡した時のように愛おしそうに。けれど、あの時と違ってその視線はユニカに向けられていて、涙の湖(ゼー・トレーネ)と同じ色の瞳の中に自分の姿が映っている。
それがひどく幸せで、心地よくて、
ユニカの頬にも、淡く笑みが宿った。
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