赤髪海賊団の一員として船に乗り、彼と共に多くの冒険をしてきた。出逢った当時の面影を残しつつ、大人の男へと成長した彼と恋仲になり、どれだけの時間が経っただろうか。今じゃ新世界の海に君臨する四皇の一人として、多方面から注目を受ける男だ。人の心を掴む天才とも言えるカリスマ性、仲間を守り大事にする包容力、守ると決めた時の底知れぬ彼自身の力。その全てに魅了される、勿論それは私だけでなく男女問わず多くの人間に言えること。そんな彼との過ごす時間の中で、彼に恋をし、彼に恋され、今では船員にも公認されている仲だ。愛し合う時は愛し合うし、共に朝を迎える時も少なくない。時と場合をしっかり考慮し、だが。

ある日、島に二日程停泊する事となった。島に降り立ち歩けば引く手数多で彼を誘う声が響き渡る。どんな人間も力と権力のある人間に寄るんだな、と感心する程だ。一日は仲間揃い酒場に向かい、宴大好き人間の元に集まった宴大好き人間達による大宴会が開かれた。勿論それには私も参加し、酒を沢山煽る。潰れる船員がチラホラと出始めた時にお開きとし、ベンと共に潰れたヤソップやシャンクスを引き摺り船へと戻る。そんな私達に島の女の子達から羨望の視線を送られたが、正直酔っ払いの介抱の大変さから変わって頂きたい程だ。翌日二日酔いで昼過ぎに起きて来たシャンクスはまた島に行くと言ってきた。私も買い物に船を降りるが、適当に戻る予定の為別行動をする。今晩は帰って来ないだろう、と予想しとけば案の定彼は船に戻って来なかった。私は買った新しい服などをウキウキと片付け、料理長が作ってくれたご飯を堪能し早めに就寝。翌日の朝、欠伸をしながら甲板に出ればシャンクスが丁度戻って来た。……横に可愛らしい女の子を連れて。


「おかえり、その子は?」

「アクア、今戻った。コイツを船に乗せようと思う」

「え、大丈夫なの?」


見た目の可愛らしさから戦闘向きでは無さそうに見えたから問えば「まあ、大丈夫だろ」と適当な回答。女の子の視線は常にシャンクスに向いており、その視線の意味は簡単に読み取れる。そういう女の子は何人も見てきたが、船に乗せるのは珍しい。彼の不可解な行動に怪しむ視線を送れば態とらしく逸らされた。これは何かあるな、と察するが信頼してるベンが止めないなら大丈夫だろうと特に口には出さなかった。その後、船員が集められその女の子を紹介するシャンクス。女の子が乗る事を喜ぶ若い船員達に、彼の行動を理解してる中堅以上達は呆れた様に笑っていた。


「アクア、コイツの事頼むな」

「ん?分か「シャンクスさん…この方は?」…た」


台詞が被ったよ?て視線を送るけど彼女の視線はシャンクスに向いており気付かない。女の子に無視された、としょんぼりする私を楽しそうに見ながら「アクアは俺のオンナだよ」と紹介する。その瞬間に女の子からは凄い視線を受けたが、まあ一切気にしない。「女にしか相談出来ない事も出て来るだろうから、遠慮なく言ってね」と笑顔で手を差し出せば、「…よろしくお願いします」と笑み一つ無い表情で握手を交わす。微妙に握る手が痛いけど、気の所為としておく。

島を出発し、次の島に向かう航路の最中。毎日毎日、彼女なシャンクスにベッタリだった。彼が起きて来るまでは部屋の前で待ち、彼が部屋から出てくればその瞬間から彼の横を離れない。船に乗ってる以上仕事あるんだけど、と思ったが大した戦力にもならなそうなので敢えて何も言わない。他の船員達も同じだ、勝手にさせよう精神。そんなある日、とうとう彼女は朝シャンクスの部屋から出てきた。恐らくまだ寝てるだろう彼を置いて、態とらしく乱れた衣服を軽く直す素振りをしながら私に向かって歩いてくる。


「おはようございます、アクアさん」

「うん、おはよう」

「ふふ、私が昨日の夜…何処に居たか知ってます?」


それはそれは挑戦めいた視線な上に口元には笑みを浮かべてる彼女。何を私に挑戦したいのかサッパリ分からない、思わず首を傾げてしまいつつ「シャンクスの部屋でしょ?何、まだ寝てんの?シャンクスは」と至極当然に答え逆に質問する。今しがた部屋から出て来たのだから分かるに決まってるでしょ?と思うがそこまでは言わないでおこう。私のあっけらかんとした返答に驚いたのか目を丸くする彼女は戸惑いながらも頷き答える。私は「仕方ないな、まあ昼前には起きるでしょ」と呆れて笑いながら「ご飯食べようよ、着替えておいで」と彼女に告げ食堂に向かうのだった。その後ろ姿を呆然と眺める彼女を船員達はこっそり合掌してたらしい。

その日の夕方、海軍の船と一戦交じる事になった。戦闘大好き人間が多いこの船では宴の次に活気に溢れる時間だ。当然私もウキウキと戦闘の準備をし、その横でシャンクスも支度しようとする。「シャンクスが出る幕無いでしょ」と問えば「いやいや、俺も出る」とウキウキ顔で答えてくる。その遣り取りをブスッとした表情で見てた彼女は「シャンクスさん、近くでシャンクスさんの闘いを見て勉強したいです…」と彼のマントを握りながら上目遣いで懇願した。可愛らしい仕草だな、と呑気に考えつつも戦い方を勉強するのは大事だと思い「ならシャンクス、ちゃんと彼女守りなさいよ」と言えば彼女はまた目を丸くする。私は何か可笑しい事を言ってるのだろうか?此方が目を丸くしたい気分だ。少し考えたシャンクスは「分かった」と了承し、彼女は嬉しそうに喜ぶ。そんな遣り取りをしてれば既に海軍の軍艦は目と鼻の先まで来てる、砲撃により揺れる船にシャンクスと私は思わず笑みが浮かぶ。


「さァ、いくか」

「ええ」


そう一言交わし、私は駆け出し開幕した戦闘に交じる。敵は海軍、多少の戦闘の知識があるだけ愉しい。かと言って物足りなさが否めないのも事実だが。自分の得物で海軍を蹴散らしながら奥へと進めば少将クラスの人間が見え、これは闘い甲斐がありそうだと駆け寄ればベンと鉢合わせる。視線で「コイツは私のだ」と訴えるがベンは口元に笑み浮かべ視線を何処か別の場所に向ける。何だ?と視線を追えば戦闘に交じれずに眉を顰めてるシャンクスが目に入る。その原因にも気付き思わず舌打ちが出る。「とっとと行け」とベンに言われ獲物を譲る代わりに軽く一睨みしては踵を返す。戦闘に混じれない微妙な位置に立つシャンクスに駆け寄れば「アクア!」と表情が明るくなるシャンクス。その顔を見て更に苛立ち無言で横に立つ女の子を蹴り倒した。「きゃあッ!!」などと可愛らしく声を上げ倒れる女の子を睨み付け、手に持ってた刀の切っ先を彼女の眼前に向ける。「ヒッ…」と青くなる彼女に「何、シャンクスの邪魔してんの」と怒りを込めて言う。


「じゃ、邪魔なんて、してないッ」

「シャンクスの右側に居て、それが邪魔じゃないと?」

「わ、私は…闘い、方を、見よう…と、」

「シャンクスの左腕が無いの、知ってるでしょ?それでお前が右に立ってて、シャンクスはどうやって戦うわけ?」

「ッ、それ、は…」


言われた言葉を理解した彼女はガクガク震えながら恐怖に怯えている、その恐怖の対象は自分なのだが。けど苛立ちが治まらない私は彼女の前髪を掴み、無理矢理私と視線を合わせさせる。


「次、シャンクスの邪魔したら…許さない」


ボロボロと涙を零す彼女にそう告げ、突き飛ばす様に手を離す。その様子をただ愉し気に見てたシャンクスは「流石、俺のオンナだなァ」と嬉しそうに宣う。そんな彼のマントの首の部分を片手で引き寄せてはキスで口を塞ぐ。キスの合間に彼女にチラリと視線を向ければ口を開けたまま呆然としてる。嗚呼、なんて気の毒な子…。唇を離し、眼前一杯に見える満足気な彼の顔に呆れながら私も宣う。


「自由じゃないシャンクスなんて、シャンクスじゃないわ」


そう言い、マントから手を離せば自分の脚を手でバシバシ叩きながら「だっはっはッ」と爆笑する彼。そして背後で呆然としてる女の子に「イイ女だろ?アクアは」とニタリ顔で言い放つ。そんな彼に私もニタリ顔で「自由にしてないシャンクスとは、別れるしかないわね」と告げれば慌てて驚いた様な顔になる。そして「そりゃ勘弁だな」と言い残し、ウキウキと戦闘に交じる。私も後ろの彼女に一言告げて、戦闘に交じるのだった。

───・・・その後、次の島で彼女は自ら船を降りたのは言うまでもない。



(彼は自由を愛す男、その自由を奪えると思ったの?)




fin.

自由を愛せ


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