夜にならないと出られない部屋


 照明の落とされた薄暗い貸し出しカウンターを通り抜けて、誰も居ない図書館に二人分の足音だけが響き渡る。
 昼には眩いほどの光が差し込むガラス張りの向こうには、月と星だけが静かに瞬く深夜だ。泥棒というには大胆な足取りで進む彼らの先に、地下へと通じるエレベーターが待ち構えていた。
 目的地の書庫は忘れられた納骨堂のようにカビ臭く、ひんやりとした空気の中で幾多の書物が誰かの目に留まるのを待っている。
 それまでコツコツと響いていた足音が書架の前で止まると、長く整った指が背表紙に伸ばされていく。音も立てずに引き出された本は男の大きな手によって埃を払われ、空気中に舞うそれらをふっと優しい吐息が追い払った。
 男が持つには少し鋭い爪先で探るように撫でた後、叡智を求めて表紙を開く。
「……ほう」
 もしも選ばれた本に感情があったなら、彼がこぼした吐息に胸を撫で下ろしただろう。書き上げた著者を褒め、ここに仕舞い込んだ職員に感謝すらしたかもしれない。興味深そうに細められた視線を一生の思い出として、そのまま朽ち果てることを選ぶはずだ。
「良いものを見つけたな」
 うっすらと微笑んで周辺の本をもう二冊ほど手に取ったDIOは、近くの閲覧席は使わずに広い書庫の一番奥にあるくすんだ色の二人掛けソファーに足を向けた。
 沈み込む座面に先に体を預けていた女の体が揺れる。
「……DIO……?」
「側にいる。そのまま眠れ」
 眠そうに目蓋を震わせる彼女を胸に寄り添わせると、分厚い本を親指と小指で持ち上げて器用にページをめくりながら読み進めていく。DIOの声に従って眠りに落ちた夢主の髪を撫でつつ、戯れに指を絡めては解いてを繰り返す。
 二人以外は誰も居ない、水底のように静謐な空間でしばし読書に励むDIOを穏やかな寝息だけが包み込んでいった。

 それからどれほどの時間が過ぎただろう。誰にも邪魔されることのない安らぎに身を任せていた夢主は、バサリと本が落ちる音で目を覚ました。
「……?」
 視界に飛び込んできたのは逞しい胸板で、薄い黒のタートルネックだけでは盛り上がる筋肉を隠しきれないようだ。そこから視線を上に向けると、少しクセのある金髪から三つ並んだほくろを飾る耳が見えた。太い首筋は確かに男性の物なのに、妙な色気を含んでいるからたちが悪い。長い睫毛は伏せられていて、饒舌な唇からかすかな寝息が漏れている。
「DIOが外で寝るなんて……珍しいね」
 いつもなら暗闇に包まれた寝室でしか見ることが出来ない。久々に会えた喜びが隠しきれず、誘われるままに夜のデートを楽しんでしまったが、彼にとっては負担だったのかもしれない……夢主は申し訳なさそうに眉を寄せる。
(……早く帰ろう)
 図書館の地下で眠るよりは住み慣れた屋敷の方が何倍もいいはずだ。そう思った彼女は抱きしめられていた腕の中から静かに抜け出して、DIOが落とした本をソファーの座面に置く。それから自身が読んでいた雑誌を返すために暗い書架の中を歩き始めた。
「えっと、どこだったかな……」
 通路の向こうに踏み出そうとした瞬間、明かり取りの窓から光がスッと差し込むのが見えた。その優しい色合いの中に埃が舞い散り、時折キラリと朝日を反射させているではないか。誰もが喜ぶ快活な朝の到来に、夢主は息を飲んで立ち竦んだ。
「DIO……ッ!」
 引きつった声で名を呼ぶと同時に彼のスタンドが姿を見せる。唇を引き結んだ厳つい顔を前に、夢主は慌てて暗がりの中へスタンドを押し戻す。
「ダメ! 朝が来てるから!」
 慌てふためいて転けそうになる彼女をザ・ワールドが正面から受けとめて、そのまま滑るように後退する。目を覚ましたDIOの元に運ばれた夢主は、抱きしめようとする腕を押さえて先ほどまで居た通路を指差した。
「朝日が入り込んでるの! どうしよう、このままじゃ帰れない!」
 一歩でもそこへ踏み出せば吸血鬼である彼は砂となって朽ちる運命だ。それを想像したのか、がくがくとみっともなく震える相手にDIOは笑いかけた。
「そのようだな」
「!? 何でそんなに余裕なの!」
 どこまでも冷静な相手にパニック状態の夢主が詰め寄る。こうしている間にも光は増して、奥で潜む二人の姿を暴き出そうと迫っているのだ。
「随分と寝込んでしまったようだ。道理で目が冴えている」
 あくびをしながら平然と語るDIOを置いて、夢主は何か解決策はないかと思い悩む。
 影を選んでエレベーターに乗ったとしても地上はすでに朝を迎えているだろう。それならこのまま地下で過ごしたいと思うが、明かり取りの窓は二人の近くまで設置されているので、ここに日が届くのは時間の問題だ。閲覧机の下にDIOが隠れられるほどの空間は無いし、トイレの奥に身を潜め続けることも出来ないだろう。
 あれこれ悩んでは絶望する夢主を前に、DIOは麗しい顔を近付けてそれを楽しそうに眺め続けた。
「私が死ぬのはそれほど嫌か?」
「あ……当たり前でしょ!」
 何を今更、と怒った顔を向けるとニヤニヤと笑われてしまった。
「お前とここで心中するのも悪くはないぞ」
 その言葉に驚く夢主をしばし眺めた後、DIOは彼女の手を握りながら起ち上がる。
「フフ、冗談だ」
 そう言ってソファーから離れ、まだ残っている暗がりの中を歩いて書庫のさらに奥へと足を伸ばす。二人分の足音が響く中、迷うことなく関係者以外立ち入り禁止のドアをくぐり抜け、いくつか並んだ扉の前を歩いて階段付近にある小さな扉を押し開いた。
「……? ここは?」
 DIOの隣から夢主は怖々と中を覗き込んでみる。
 不安定に積み上げられたいくつもの段ボールにイベントか何かで使われたらしい雑多な物が散らかり、自由な足場と言えば大人一人が座れる程度のもので、後は不要品ばかりが集められているような場所だった。
「見てのとおり、がらくた部屋だ」
 淡々とした口調でDIOは背後のドアを閉める。窓はもちろん、明かりのないそこはすぐに真っ暗な闇に包まれてしまった。
「こんなところが……良かったぁ……」
 ほっとして気を緩めた瞬間、床に置かれた何かに躓いてバランスを崩す。その勢いで重なっていた段ボールのいくつかを倒してしまい、ドサドサと物が落ちる大きな音が響き渡った。
「今日はよく転ぶな……無事か?」
 笑いを含んだDIOの声に夢主は恥ずかしそうに頷き返す。倒れる間際に体ごと引き寄せられたのでどこにも痛みはなかった。
「ありがとう……でも誰かに聞かれなかったかな?」
 派手な音を出した事で職員か警備員に存在がばれてしまわないかと不安になる。不審に思う彼らにこの居場所を見つけられたら、問答無用で明るい外に追い出されてしまうだろう。それだけは絶対に避けたいことだ。
「開館前だからな。大人しくしていれば見つかることはない」
「DIOは前にも来たことあるの?」
「すでに何度も忍び込んでいる。ここに近付く者はいない。安心しろ」
 ドアに鍵がないのは心許ないが、今はDIOのその言葉を信じるしかない。
「それにしても狭いね……」
 少しでも場所を確保するために先ほど倒した段ボールをどうにか出来ないかと暗闇の中に手を伸ばしてみる。ぐしゃりと潰れたいくつかの箱を片付けようとするが、中身があまりに重くて少しも持ち上がらなかった。
「何をしている」
「座れるところを作ろうと思って……ずっと立ったままは辛いでしょ?」
 吸血鬼はどうかは分からないが、ただの人間である夢主に長時間立ち続けるのは無理がある。そう思って場所を広げようとしてみたが、どこに何があるか分からない暗がりでの作業はとても困難だ。
「そうか? では、こうすればいい」
「!?」
 力任せに体を掬われたと思えば、側頭部に固い胸板がぶつかった。驚きながら上を向けばDIOの頬と触れ合う。そこからさらりと髪が流れ落ちてきて、額に相手の唇が寄せられるのが分かった。
「えっ! こ、こんな体勢で……夜まで?」
「私の膝上では不満か?」
「だって……重いでしょう?」
 DIOの膝上で横抱きにされた夢主は、気恥ずかしそうにそんな言い訳を呟く。
「フフ、子猫のように軽いぞ。このDIOを椅子代わりに使えるのはお前だけだ」
「あ、ありがとう……でも……やっぱり悪いから……」
「私の心遣いを無駄にするのか?」
「そんなことは……」
「夜の散策に誘ったのは私だ。この図書館を選んだのも私だ。朝までに起きれなかった私が悪い。だからそう気にするな」
 離れようとする体を腕一本で押さえつつ、DIOは柔らかな女の体を抱きしめ続ける。しばらくしてようやく観念したのか、力を抜いて身を預けてくる彼女にそれでいいと微笑んだ。
「……疲れたら言ってね」
「ああ。だから遠慮などするな」
 体と体をぴたりと触れ合わせて隙間をなくせば、服の奥から少し早い鼓動が響いてくる。回した腕にそれが伝わってDIOの胸にじわりとした心地よさが広がった。
 ただの人間が朝日に動揺する姿は滑稽だ。だが、それほどに失いたくないのかと思えば心は浮き立ってしまう。あまり我を通さず想いを口にしない彼女だけに、先ほどの焦りが素直に嬉しい。
「夢主、私を失うのは怖いか?」
 顔を覗き込むと、またその質問かと唇を尖らせた彼女と目が合う。
「私も同じだ。お前を失うのは恐ろしい」
 些細なことで死んでしまう貧弱な体を抱きしめて、上を向かせた唇を奪った。



 柔らかな弾力に誘われるまま唇の表面を啄むようなキスをする。相手がぴくりと身を震わせるのを感じたDIOは、尖らせた舌で唇をなぞり上げた。
「……っ、」
 最初は固く引き結んでいた唇もしつこく舐め回せば次第に緩み、小さな隙間から舌を潜り込ませると恐る恐るといった感じで触れ合わせてくる。その仕草にフッと笑って顔を離せば、ほんのりと色付いた表情の夢主と目が合った。
「そのような顔をしていいのか? ここは市民が使う公共の場だぞ」
 今はまだ誰もいない時間とはいえ、そのうち地下にも人はやって来るだろう。その言葉に夢主はサッと顔を引き締め、慌てて首を横に振った。
「フフ……だが夜までこうしているのもつまらんな」
 うたた寝をする前まで読んでいた本は書庫に置いてきたし、ここにはがらくたばかりで娯楽の一つすらない。男女の密会としては殺風景だが、ある意味ではこれほど最適な場所はないだろう。
「なにを……、っ」
 伸びてきたDIOの指が服の襟元を緩めにかかる。ふぅっと吐息が首筋に吹きかけられ、先ほど触れ合った舌がそこを舐め上げた。
 肌の下を流れる血の流れをなぞりながら時に噛んでは吸い付いて、小さな痕を残しつつゆっくりと耳に近づいていく。
「ん、……こんなところで……」
「夜が来るまでの暇つぶしだ。お前が感じるところを私に教えてくれ」
 そう言って首をぬるりと舐めてキスをする。甘く噛んでくる刺激にDIOの服をぎゅっと掴んだ。
「そんな……やだ……」
「嫌だと言ってもここから出る訳には行かぬ。それとも何か? この私を一人置いて、お前だけ日中に戻るつもりなのか?」
 その言葉に眉を下げ、困り果てる夢主の表情を愉しみながら喉の近くをかぷりと噛んだ。
「戻らないよ……でもここは図書館で……」
「声を殺せばいい」
 ニタリと人の悪い笑みを浮かべながら鋭い牙を突き立てる。痛みに震える体を抱いてちゅうっと吸い上げると、くぐもった可愛らしい声が漏れた。
「ぁ……DIO……」
 痛みを散らすためにDIOは閉じた太股を撫でてやる。労るように優しく揉みながらつま先へ移動させて、この前DIOが贈った靴を脱がせてその場に落とす。そのまま足裏を揉んでやればくすぐったそうな笑い声を上げた。すぐにハッとした顔になり、手で口を押さえにかかった。
「もう、何するの」
 その顔が見たくてしたことだ。DIOも小さく笑いながらじわりと滲む血を舐め、彼女の足を撫でさする。ひときわ大きく首筋を舐めたあとで、赤くなっている耳朶に息を吹き込んでやった。
「ん……っ」
「夢主」
 名を呼びながら耳たぶを噛んで熱い吐息を注ぎ込めば、押し殺した声と共に撫でた足がぴくりと跳ねた。DIOは次第に敏感になっていく体に満足そうに微笑んで、太股から脇腹にかけてのラインを微妙な力加減で撫でていく。
「ゃあ……」
 またくすぐったそうに身を捩るのをなだめて、噛んでいた耳の中へ舌を差し入れる。ぴちゃぴちゃという音が脳へ直接伝わるように舐めながら、服の裾から手を潜り込ませた。
「あっ、だめ……」
 押し止めようとする夢主の手を無視して胸を覆う下着のフロントホックを外した。これもDIOが身に着けて欲しくて贈った物だ。そこからこぼれた胸を服の下からやんわりと揉み上げれば、彼女の口から悩ましげな声があふれてくる。
「あ……、ふぁ……っ」
「少し大きくなったか?」
 肌を重ねる度に触れていたおかげなのか、以前よりも育ったような気がした。
「そ……そう?」
「確かめてやろう」
 恥ずかしそうな顔に微笑みかけて、DIOは柔らかな乳房を揉みしだく。形を確かめるように爪で輪郭をなぞり、持ち上げてはたぷっと揺れる様を眺める。そんな刺激を受けて次第に尖っていく胸の頂きを服越しに見つけ出した。
「ん、……ぅ、ん……」
 可愛らしい声と体の反応に今すぐにでもそこへ吸い付きたい欲求をどうにか堪える。やわやわと乳首の周囲だけを愛撫して、DIOは濡れ汚した首筋に何度もキスをした。
「あ……、はぁ、……どうして……っ」
 胸の先端に触れてもらえないもどかしさに、堪らず夢主の口から切ない声が漏れる。
 DIOはそれに応えず、ひたすら胸を揉んで触れていない一点に熱が帯びるように仕向けた。
「ん、んっ……やぁ……っ」
 指を噛みながら悶える姿をDIOは暗闇の中で見つめ下ろす。膝上へ置いた彼女は弄ばれるような悩ましい快感にぴくぴくと震えて実に愛らしい。焦らなくても時間はたっぷりとあるのだ。このままいじめ抜いてしまおうとDIOは劣情に塗れた顔を近づけた。
「どうした? 物足りなさそうだな」
「あんっ……だって……」
 何度も噛まれた首筋は熱く、揉みしだかれた胸はすでに先を尖らせてしまっている。それなのに肝心な部分には触れてもらえず、服に擦れる刺激によって行き場のない熱が溜まるばかりだ。
「触れて欲しいか?」
 DIOの問いかけに夢主は頬を染める。いつものように強く摘ままれて、口に含まれたらどうなってしまうだろう……そう思うだけで下腹部の奥がきゅんっと音を立てるようだ。
「ん? どうなんだ?」
 優しい声とは裏腹に欲望に満ちた目が夢主を射貫く。いやらしい笑みを深めて堕ちる様を楽しんでいるのは明白なのに、それを愛しく思うのだから困ってしまう。
「……さ、触って……」
 胸を揉み、撫でさする大きな手に自身の手を添えて、恥ずかしそうに行為の先を促した。
「フフ、その前に……こちらの具合はどうだろうな」
 おねだり出来た可愛い唇にキスをしながら、DIOは胸から腹へと指を動かす。そのままへその上を通り過ぎてスカートの中に潜り込ませる。胸の下着とお揃いのそれは、DIOがひと目で気に入り贈った下着だ。可憐ながら布地の少ないそこに指を伸ばしてみると、しっとりと濡れた感触が伝わってきた。
「胸を揉まれただけで感じているのか?」
「……っ」
 顔を隠してそっぽを向く相手にDIOはクスッと笑いかける。このまま続けてもいいが、もっと乱れる姿が見たい。その欲に従ってDIOは夢主の体を無理矢理に起こした。
「立て」
「えっ?」
「起ち上がって足を掛けろ」
「え……! なに……?」
 その場に立たされた夢主はそれまでの膝上から壁に背中を預けてDIOと対面することになった。
「そのまま来い」
 何が何やら分からぬまま、夢主は片足をぐいっと持ち上げられて床に座るDIOの肩を跨ぐことになった。驚いている間に靴が落ち、スカートはたくし上げられ、先ほど触られた下腹部にDIOの吐息を感じ取る。
「あっ、うそっ……まって!」
 薄いショーツに舌が押しつけられると、くちゅっと淫らな音が狭い室内に響き渡る。秘部を覆う小さな布地のすべてを口に含まれたかと思うと、ねっとりとした動きで舐め上げられてしまった。
「ひっ……ああっ!」
 強すぎる刺激に腰を引こうとするが、背後の壁がそれを許してくれない。そればかりか揺れる尻をDIOに撫でられて新たな刺激となって返ってきた。
「だ、だめぇ……こんなの……っ」
 すでに愛液と唾液でべちゃべちゃになっている下着の表面をゆっくりとした動きで舌が這いずり回る。柔らかな窪みを下から上へと刷き上げて、舌先にひっかかった突起を押しつぶす。その周囲をくるくると舐めてはキスをして、DIOは肩に置かれた震える足に頬ずりをした。
「あっ、あっ、やぁ……、ん、はぁっ」
 頭を引き離そうとする手はすぐに捕まれ、何も出来ないように繋ぎ合わされる。強靱な力で壁へと押さえつけられて、腰を引いて逃げるわずかな隙間すらない。ぴたりと密着して下肢に顔を埋めたDIOを見下ろせば、どろりと溶けた赤い目とかち合った。
「あっ……ぁあ、んんっ」
 ぞくぞくとした快楽が沸き起こり、夢主の頭の中を焼き尽くす。かろうじて自力で立っていた片足をがくがくと震わせながら絶頂に向かった。
「ふ……、ぁ……あぁ」
「何だ、もう達したのか?」
 あっけなく迎えた女の体を撫でながら、DIOは濡れて意味を成さないショーツから顔を離す。最後に舌先で花芯を弾けば、ぴくんと跳ねる足にキスをした。
「夜までにお前は何度達するのだろうなァ?」
 ニヤリと笑いつつ下着を飾る片方のリボンを解き放つ。とろりとした愛液をこぼして体から離れていくそれには目もくれず、DIOは視界に広がる女唇を目にした。
「赤く腫れて、物欲しそうにひくついているな……床にまで滴が落ちている。後でここに来た者が不審に思わないといいが……」
「やだ……そんな……」
「嘘だと思うか?」
 ゆっくりと指を差し入れて、溜まっている蜜を掻き出すように動かしてみる。
「んんっ! あ、ああっ」
 ひどく気持ちよさそうな声を聞いてDIOは満足そうに再び舌を這わせた。
「あっ、だめ……敏感だから……っ」
 逃げようと藻掻く体を難なく壁へ押さえつけ、DIOは包皮を剥いた花芯に吸い付いた。
「ひっ、あ、ああっ」
 切羽詰まった声に耳を傾けつつ、ざらついた舌でそこを擦り上げてやる。蜜をこぼす可愛らしい女唇に指を入れ、感じやすい部分をとんとんと軽くノックした。
「ぅ、あ……、まって、まってぇ……っ」
「声を出すと聞こえるぞ」
 ぎくりとする顔が可哀想で愛らしい。DIOの言葉に従って、素直なまでに口を押さえる姿にますます苛めたくなってくる。
「早く達するところを見せてくれ。ここがお前の一番弱いところだろう?」
 感じやすい花びらのような突起を吸い、ぴちゃぴちゃと舐めてキスをする。様々な角度から執拗に追い詰めれば、埋め込んだ指をきゅうっと締め付けてきた。
「あ、あぁ……や、DIOっ……」
「そうだ。この私がお前を気持ちよくしているのだ。だから私の名を呼びながら達するがいい」
 与えられる快楽にもはや涙を流しながら感じ入っている。その姿にDIOも熱くなりながら、とろとろに溶けている柔襞と蜜にまみれた花芯を同時に愛撫した。
 舌で転がして吸って舐めて噛んでやる。DIOが作り出す快楽に浸って、震えながら愛液を床へぽたぽたと落とす彼女が狂おしいほどに愛しかった。
「DIOっ……ん、ん、DIO……あぁあっ」
 逃げ場のない空間で夢主は体中を駆け巡る快感に身を委ねる。甘い声を上げて果てるその姿を、まるで鑑賞するように赤い目が下からジッと眺めていた。



 狭い物置部屋は発情した女の香りで満ちて、ぬちゃぬちゃという妖しげな水音が今も絶え間なく響いている。
「ぅ……あ、ぁ……ゃあ、もう……っ」
 床に座るDIOの前に膝を付いた夢主は、為す術もなく上着を剥ぎ取られ、上下の下着もわずかに引っかかっている程度の体を震わせながら広く逞しい肩に縋り付いた。
「どうした、まだ一時間も経っていないぞ」
 目の前で揺れる乳房を揉み上げながら、肌を舐めてキスを繰り返す。未だ触れていない頂きはこれまでの刺激で固く尖っているにも関わらず、決定的な刺激が与えられない切なさに悶えているようだ。
「そ、んな……あぁ、ん、っ!」
「そのような声を出していいのか? 誰かに聞かれてしまうぞ」
「はぁ……はぁ……じゃあ、はなれて……」
「後ろは物で一杯だ。大人二人が自由になる空間はない」
「あん……それなら……あぁんっ、これ、とめてぇ」
 先ほどから執拗に体を撫で回してくるDIOの手を押さえた。
「なぜ?」
「だって……きもちよくなっちゃう……」
 はあはあと息を乱す夢主を間近に眺めていたDIOは、柔らかな胸を揉みながら可愛いことを言う唇に顔を寄せた。
「ん、ぅんっ……はぅ……っ」
 舌をねじ込んで絡ませれば、すぐになだめるように吸いついてくる。愛液もそうだが彼女の唾液も素晴らしい。美味そうに飲み干してやれば甘く惚けた顔の彼女と目が合った。
「気持ちよくしているのだから当たり前だろう?」
 そう言って立たせた膝の間に太い腕を滑り込ませ、あちこちに触れながらゆっくりと前後させる。
「あ、あ、っ……や、だめぇ……」
「駄目か? これではどうだ?」
 背中を反らして悶える夢主に、DIOは舌舐めずりしながら濡れそぼる秘所に指を宛がう。長い指を差し挿れると、ぬちゅっとひどく濡れた音を立てた。
「ぅ……く、……はぁ……ん」
 指の根元まで挿れては深いところを撫でさすり、ゆっくりと引き出しては浅いところを掻いていく。親指の腹で固い花芯を優しく愛撫すれば、たまらない快楽に腰を揺らし始めた。
「ふぁ……あ、DIOぉ……」
「どうした、まだ浅いところだぞ?」
 いやらしく笑ってざらついた部分をこすってやる。とろけていく様子を眺めながら胸を舐め、ツンと尖った胸の頂きにちゅっとキスをした。
「あっ、あぁ……っ」
 眉尻を下げて涙を浮かべる女の顔にDIOはニヤリと笑って牙を見せた。
「だめ……だめぇ……そんな……今されたら……」
 怯えた声に加虐心を煽られながら、DIOは尖ったそこで乳首を甘噛みする。
「ひぃああぁっ……!」
 痛みと快楽が混じり合い、声を殺すことも忘れて果ててしまった。指を咥え込んだ肉襞が甘い痙攣を繰り返し、ぽたぽたと大量の蜜をあふれさせていく。
「フフ、また床を汚してしまったな」
 とろりと蜜糸を引く指を口に含み、花の香りがするそれをすべて飲み干す。足を震わせ、もはや膝で立つことも出来ない彼女はくったりと身を預けてきた。
「まだいけるだろう?」
 耳元で低く囁いて、体を支えながらDIOはゆっくりと立ち上がる。足が痺れた様子もないのは流石だろうか。吸血鬼の強靱な体を前に夢主はぴくりと身を震わせた。
「そう怯えるな」
「……」
 怯えたのではなく、ようやく抱いてもらえる悦びに震えた……とは言えずに押し黙る。DIOが下着の奥から屹立したものを取り出すのを、夢主は羞恥と期待感に悶えながら待った。
「あ……ぁ、DIO……」
「足を開け」
 ギラギラと輝く赤い目に射竦められて息を飲む。これまで以上の快楽が与えられると知っていればなおさら堪らなかった。
「どうした、まさか緊張しているのか?」
 笑いながら両腕を取られて首へ回すように指示される。足を開かされたまま、体を軽々と持ち上げられて後ろの壁に背中を預けた。今もとろとろと愛液をこぼすそこに熱い漲りを押しつけられると、我知らずごくりと喉を鳴らしてしまった。
「なるほど。期待していたという訳か……可愛い奴め。それならそうと言えばいい」
「ん、……い、言わないで……」
「私はお前が欲しい。違うのか?」
 狡い質問に夢主は相手の首をぎゅうっと抱きしめる。
「ちがわない……私も……DIOが欲しい」
 そう伝えると何度も噛まれて鬱血した首筋に口付けられる。そこではなく唇にして欲しくて顔を近付けると、すぐに重ね合わせてきた。
 とろけるようなキスの合間に硬い淫茎が蜜口に宛がわれ、二人が快楽に身を委ねようとしたまさにその時、カツカツと高い足音がドアの外に響き渡った。
「! うそ……」
 体を強張らせたのは夢主だけで、DIOは意にも介さず再び目の前の唇を奪った。
「んぅ、……誰か……来ちゃう」
「知らぬ。放っておけ」
「そんな、むり……」
 慌てて離れようとする相手をDIOは壁と自身の体で挟んで動けなくさせる。
「あ……やだ……無理だよ、声でちゃう」
「我慢しろ。出来るだろう?」
 ニヤニヤと笑うDIOを夢主が信じられない気持ちで見つめ返していると、宛がわれたままの淫茎がぐっと押し入ってきた。
「あ、ぁ、まって……っ!」
 夢主は漏れてしまう声を手で必死に覆い隠した。もしも外に居る人がこの部屋に入ってきたらまず最初に目が合うのは自分だろう。それを思うと恐ろしく、堪えられない羞恥に焼かれるようなのに、DIOは気にした風もなく腰を進めてくるではないか。
「ん……ぅ……、く……ぅっ」
「どうせなら聞かせてやるか?」
「い、いや……だめぇ……」
 強張る体とは裏腹に、たっぷりの愛撫でほぐれきった蜜穴は悦んで肉杭を受け入れる。入り口の浅いところをぐちぐちと突かれると、堪らない愉悦が夢主の閉じた唇を開かせにかかった。
「ぅ、ふ……んっ、あ……ぁ」
 気持ちよくて苦しくて涙があふれて次々にこぼれていく。耳元でそんな小さな喘ぎを繰り返す相手に、DIOは笑みを浮かべて更に茎肉を押し込んだ。
「ぅうっ……、い……ぁ」
 ぬぷぬぷと淫らな音をたてて飲み込んでいく膣肉の素晴らしさに、思わず吐息が漏れる。
「く……これは、なかなかにキツいな……」
 カツカツと周囲を歩き回っていた足音が近くなると、締め付けはさらに強くなって埋め込んだ淫茎に縋るように吸い付いてきた。今すぐにでも突き上げたい欲求を重ねながら、体の下で悶える夢主にキスを求める。
「あ、ん……ちゅ、ぅ……」
 続けざまに与えられる気持ちよさと、それを我慢しなければならない狭間で揺れる彼女にDIOはうっとりと魅入った。涙に汚れ、頬を染めながらも求められる喜びに背筋と腰の奥が熱く燃えるようだ。
「ぅ……くぅ……ん」
「夢主……」
 次第に足音が遠ざかっていくのを感じたところで、もはや我慢は出来ないと大きく足を抱え上げた。
「あ……」
「よく耐えたな。褒美だ」
 DIOはニヤリと笑って根元までを一息で押し入れる。どちゅっといやらしい音が部屋に響いて、押し出された愛液がぱしゃと流れた。
「ふ、ぁあぁ……っ」
 待ち望んだものの到来に夢主は足をぴんと伸ばして酔いしれる。焼け付くような痺れが駆け巡って視界を白く濁らせ、深い絶頂が脳裏を薔薇色に染め上げた。
「あ……ぁ……」
 汗でぴたりと触れ合う肌と肌、そこから感じる肉の厚みと体温にすべてが溶け出していくようだ。とろとろになったお互いの体液が混じり合って、どちらのものか分からなくなる一体感に夢主だけでなくDIOも喘いだ。
「ぐ、……」
 凄まじい快感に押し流されながら再び腰を打ち付ける。今すぐにでもぶちまけたい欲望を堪えつつ、更なる喜悦を求めて挿送を繰り返した。
「ひ……ぅ、あ……ん、ああ、でぃおっ」
 とろけた声で呼ばれてすぐに舌をねじ込み、あふれる唾液をお互いに貪りあいながら再び絶頂を駆け上がっていく。
「ひぃ、ああ……ん、だめ、もぉ……っ」
「お前のここは……どうなっているのだ……」
 柔らかく包み込んできたと思えばぐにぐにと絞り上げ、ざらついた肉襞が隙間なく吸いついてくる。粘度の高いとろとろの愛液が素晴らしい潤滑油となって、もっと奥に来て欲しいと淫らに誘いかけてくる。
「ぁ、っは、ご、め……なさ……」
 はしたない体だと思われたくない一心で上手く回らない唇を必死に動かす。夢主が泣きながら謝ってくる姿にDIOはさらに感情が昂ぶり、どうしようもなくなる自身の欲に歯噛みした。
「謝るくらいなら差し出せ。もっと……もっとだ」
 ほんの少しの隙間も許さず、相手の体を掻き抱きながら執拗に奥を穿つ。雄を求めて降りてきた子宮口を嬲りながら噛み付くようなキスを繰り返した。
「あ……、ぁあっ……でぃお、でぃおっ」
「……っ」
 甘い声と締め付けに堪えきれず、埋め込んだ奥にどろどろの白濁を浴びせかける。叩きつけられる熱さを感じて柔襞は歓喜に震え、そこから生まれた快楽を全身へと巡らせた。
「ぁ……ふぁ……あ」
 喜悦で溶けた目にDIOの赤く燃える目が映り込む。消えることのないその情熱に心の底まで炙られるようだ。吐精しても引かない腰を足で抱え込むと、頬をすり寄せながらキスを強請った。
「ん……」
 二人でうっとりと口付けに浸りながらDIOは改めて腰を抱え直す。未だ締め付けてきて離さない淫らな隘路に煽られて、すでに淫茎は女の中で勃ち上がっている。
「でぃお……すきぃ……あいしてる……」
 そう言って全身で抱きしめられる甘美さに、DIOの乾いた喉がぐるりと鳴った。理性を捨て本能のままに腰を打ち付けながら息苦しさと悦びに微笑む夢主の唇を奪う。
「んふぅ……ぅあ、あ、ぃい、いいよぉ……」
 DIOを見つめてひたすらに求めてくる愛らしさに、牙と淫嚢が疼いて止まない。内側から汚し抜いてしまいたい欲望をそのまま何度も叩きつければ、あふれる愛液と流し込んだ精液がぼたぼたと床に落ちる音を聞いた。
「あ、あっ、いくっ……いっちゃうっ」
 泣き喘ぐ夢主を抱きしめながら、ひときわ強く腰を押しつける。ぶちゅんといやらしい音が響くのを聞きながらほぐれきった子宮口に何度もキスをした。
「ぅ、あっ、それ……あっ、ゃあ、あぁっ」
「堪らぬだろう? ここが特に弱いらしいな」
 耳の中へ声と吐息を流しつつ、押しつけた腰を回してぐりぐりと責め立てる。抱え上げた夢主の足はがくがくと震え、目はもはやどこを見ているのか分からない。桃色に染まった体を強く抱きしめながら執拗に奥を責め続けると、とうとう屈服した子宮口が開いて媚びるように吸いついてきた。
「ふぁあ……あぁぁ」
 だらしない声をあげて絶頂を迎えた夢主の体をDIOは容赦なく突き上げる。
「……ぅ」
 強すぎる悦楽に痙攣し、収縮するそこに目掛けて再び精を叩きつける。すべてを飲み干すまで強く抱きしめ、DIOは陶酔に笑みを浮かべながら愛する者を腕の中に閉じ込め続けた。


 所持した鍵で裏口から侵入し、小さなプレートに休館日と書かれた前を通り抜ける。地下へ続く階段を降りて目的の場所に辿り着くと、少し躊躇った後に物置部屋として使われているドアを開いた。
「おや……」
 甘い湿り気を帯びた空気が中から流れ出て、廊下で待ち構える外気と混じり合う。崩された段ボールの上には男女の衣服が散乱し、狭い足場をどちらのものとも分からない体液で汚してしまっているようだ。
「……あとで掃除が必要ですね」
 苦笑しつつ物置のさらに奥へ分け入ったテレンスは、壁の中に隠された特別な鍵でしか開けられない扉に手を掛ける。静かに押し開ければ、それまでの小部屋とは打って変わって広々とした豪華な一室が彼を出迎えた。
「DIO様、食事と替えの服をお持ちいたしました」
 名画を飾る壁の反対側には大きなベッドが置かれ、この部屋の主となったDIOが気怠そうに顔を上げるのが見えた。
「……そこに置いておけ」
 あくびを噛み殺して再び枕へ顔を沈めていく。隣で眠る夢主を抱いてもう一眠りするらしい。
「もうすぐ夜になりますが……いかが致しましょう」
 このまま隠れ家で過ごすのか、それとも屋敷に戻るのか、テレンスは主にそれを問う。
「もう一度追い返されたいのか? しばらくはこのままだ」
 眠気に身を委ねながらも、勢いを失わない鋭い目つきにすぐさま退室することに決めた。
「分かりました。いつでもご連絡を」
 朝になっても帰らぬ二人を心配してここまで探しに来たというのに、ドアの前に立ち塞がった主のスタンドにテレンスは追い払われてしまった。
 その時は腑に落ちなかったが、今となってはすぐに諦めた自身を褒めてやりたい。破壊力Aの拳で殴られるのは一度で充分だ。
 屋敷から運んだ荷物をテーブルの上に置き、ドアを閉めた後は散らかった服を掴んで手早く後始末を終える。再び地上を目指すテレンスの足音が廊下に響く中、消えかけの西日が窓ガラスに反射して輝いた。

 終




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