読破しないと出られない部屋


「……いい加減、こちらを向いたらどうだ?」
 薄暗いリビングのソファーに腰を下ろしたDIOは、頑なに視線を合わせようとしない相手に苦笑交じりで話しかけた。
 会話の受け答えはするのに目だけが違う方向を見ている。これが部下や客人であれば無礼だと切り捨てることが出来るのだが……彼女が視線を逸らす理由を知っているDIOは含み笑いを浮かべつつ、ただひたすら機嫌が直るのを待っていた。
「……まだ無理だよ」
「そう言ってもう一週間だ。私はいつまでお前の横顔を眺めればいい?」
「だって……」
 恨めしそうな目が次第に潤んでいく。脳裏に焼きついて離れないあの日を思い出したのか、熱くなる顔を両手で覆い隠した。
「あ、あんな……すごいこと……」
 白い空間内でDIOを求めて口走った数々が頭の中に浮かんでは消えていく。これまで口にしたことのない淫らな言葉と内容に、消えてしまいたいほどの羞恥心が襲いかかってきた。
「気にするな、といっても無駄か……」
 とはいえ、DIOと顔を合わすことを避けるのはそろそろ終わりにしてもらいたい。照れた表情はからかいたくなるほど愛らしいが、それも横顔ばかりではつまらないからだ。目と目で会話することの重要性を教えるために、DIOは指を伸ばして夢主の耳をそっと撫でた。
「私はお前の本心が聞けて嬉しかったぞ」
「そんな……、あれは本心というか……スタンド能力で……」
 記憶にあるのは快楽に溺れたみっともない声ばかりだ。優しく撫でてくるDIOの手に触れながら横目で彼の様子を窺った。
「幸せなひとときだった」
 心寄せる相手に強く求められて、乱れゆく姿を見つめる喜びは他では得がたいものだ。たとえ、相手がそれを恥じて後悔していようとも。
「……」
「あれごときで心変わりを疑うなよ? 分かったら、いい加減にこちらを見ろ」
 柔らかな耳たぶを軽く引いて促してみる。しばらくは何の反応もしなかったが、ようやく心が決まったらしい。
 夢主は時間をかけて体と顔の向きを変え、相手の目を正面からそっと見つめ上げることに成功した。
「やっぱり恥ずかしい……」
「そのようだな。だが、私は気にしない」
 滲む視界の先で久しぶりに見つめたDIOは変わらない美貌の中で薄く微笑んでいる。
 自分だけが羞恥に怯えているのが馬鹿らしくて滑稽だ。広げられた腕の中に夢主は自ら飛び込んで、照れて緩んだ表情をDIOの胸へ隠した。


 あれほど顔を合わすのを躊躇っていたのが嘘のようだ。目と目だけでなく、時に唇も重ねながら正面からの会話を久しぶりに楽しんでいると、屋敷の中でもひときわ迷惑を掛けられたテレンスがわざとらしい咳をしてテーブルに広げたワインボトルとグラス、それからつまみ類の片付けに割り込んできた。
「後は任せてさっさと仲直りでもなんでも済ませて下さい」
 呆れきった口調が二人に振り回された一週間分の苦労を物語っている。
 ごめんなさい、と謝る夢主を連れてDIOは意気揚々と部屋を後にする。そのまま二階の寝室へ戻り、二人がドアをくぐって足を踏み入れた瞬間、再び白い光が部屋を覆い尽くした。
「ウソでしょ!?」
 ようやく羞恥心を克服したと思ったらまたこの空間だ。夢主は驚きと怒りに満ちた顔で室内を慌ただしく駆け巡る。DIOが集めた画集と美術品が飾られた棚の一番上に見覚えのあるアンティークの小箱が置かれてあった。
「落ち着け」
 精一杯の背伸びをしてどうにか掴もうとする夢主の後ろから腕を伸ばし、DIOは難なく箱を手に入れる。身長差を恨めしく思いつつ、彼が手にした箱を夢主は慌てて押さえた。
「待って! DIOは開けちゃダメ」
「なぜ?」
「だって、先に開けた人に主導権が与えられるんでしょう?」
「ム……私の言葉を忘れずにいたか」
 DIOは苦笑して箱から手を離す。それにホッとしながら夢主はこの困ったスタンド能力が込められた小箱を胸に抱いた。
「えっと……誰にも助けは求められなくて、時間と空間は切り離されてて、この中の命令を実行したら自由になれる……だったよね?」
 その通りだと頷くDIOから離れて蓋を持ち上げてみる。前回と同様に折りたたまれた羊皮紙がそこに待ち構えていた。
「DIOは前に読んだから、今回は私の番でいい?」
「……仕方ない」
「じゃあ読むね」
 怖々と羊皮紙を広げ、書かれてある一文を声に出す。
「“読破するまで二人は部屋から出られない”」
 次の瞬間、どこからか一冊の本が落ちてきて二人の足下にバサリと音を立てた。
 大きさは文庫本サイズでカバーは無い。白い表紙に読み終えよとの命令が書かれてあった。
「……これを読めばいいの?」
 拾い上げてパラパラとページをめくってみる。300ほどのページ量にまずは安堵した。これがとんでもなく分厚い辞書だったら泣き出しているところだ。
「どれ……。ふむ……見たところ大衆小説だな」
 夢主から本を受け取ったDIOは紙の質感を確かめた後、ひっくり返して隅々まで観察してみる。どこからどう見てもただの本だ。DIOはすぐに興味をなくして彼女の手に返した。
「……DIOに読んで欲しいな」
「そうしてやりたいところだが……」
 上目遣いでおずおずと頼んでくる相手にDIOは美しい笑みを見せる。
「実に残念だ。私はまだ日本語を完全に習得していない」
 あからさまな嘘に夢主が眉を寄せるのを見て、
「本当だぞ。ひらがなとごく簡単な漢字しかまだ読むことが出来ない。それに縦書きの文字は苦手だ。読みづらくて目が疲れるからな」
 と肩を竦めて見せた。
 それならこの流暢な日本語のやりとりは一体何なの? と夢主が文句を言いそうになってふと思い出す。英語だろうとイタリア語だろうと、どこに居ても困らないのは露伴のスタンドのおかげだ。
「私が先に羊皮紙を読んでいればおそらく英文だったのだろうが……」
「もう……じゃあ私が読むね」
 仕方なく文庫本を手にしてベッドの縁に腰掛ける。白い表紙と章の数字だけが書かれた目次をめくり、最初の1ページを開いた。手持ち無沙汰になったDIOは夢主の隣に腰を降ろすと、神妙な面持ちで手元を覗き込んでくる。
「あまり見られると落ち着かないんだけど……」
「気にするな。本の内容が気になるだけだ。それに最後まで付き合うつもりだぞ」
 途中で寝るようなヘマはしない。DIOはそう言って続きを促してくる。
「早く終わらせたいから早口で読んでもいい?」
 頷く相手を確認すると、夢主はふぅと息を整えた後で最初の一行を口に出して読み始めた。

 ……主な登場人物は5人だ。惹かれあうヒーローとヒロイン、それを見守る執事と友人たちの平穏な日常が数ページに渡って書かれている。DIOなら決して読まないティーン向けの恋愛物語のようだ。退屈しそうだな、と隣を窺えばまさしくその通りにあくびを噛み殺していた。
「“……そうして二人は神父の前で愛を誓い、ようやくお互いのキスを受け入れることになった。”」
 もっと引っ張るのかと思えば二人は早々にくっついてしまった。まだ3分の1も読み進めていないのにこの後は一体どうなるのだろう? 急かされる思いでページをめくり、新たな章を開いた瞬間にひゅっと息が喉の奥に戻ってしまった。
(……え? なにこれ……、まさか……そういう??)
 本を持つ手からじわじわと熱が這い上がってくる。あっという間に顔も熱くなって声が裏返ってしまった。
「……うぁ、……」
 びりびりに破いて投げ捨ててしまいたいが、それではここから出られなくなってしまう。交代してDIOに読んでもらおうか……? しかし、そうするにはあまりに酷な内容だ。
 夢主は手を震わせながら何度も開いては閉じて、変わらない話の内容に愕然となる。
「? どうした。お前でも読めない漢字があるのか?」
 それまで聞く側に徹していたDIOが急に途切れたことを不思議がって手元を覗いてきた。
「これは……『あ』だろう? なぜ何度も繰り返しているのかは分からんが……『つ』と『ん』も多いようだな。それに『愛』と『液』? 愛は読めるが『液』とは何だ? 夜と同じ意味か? 女……は読めるがその後に続く『唇』は何と読む?」
 まるで難解な古文書のようだ。見慣れない漢字が多くてひどく読み辛い。DIOは顰めっ面で一文をたどたどしく追いかけてみたが、意味はさっぱり分からなかった。
「DIOは読んじゃダメ。いいから、任せて……」
 それ以上読ませる事が居たたまれず静かに本を閉じる。ここからは覚悟を決めて読み進めるしかない。DIOはこの本が何かを分かっていないようだし、集中さえすればあっという間に読破することが出来る……はずだ。
「少しの間、何も聞こえないよう耳を押さえてくれる?」
 不可解そうに眉を寄せるDIOだったが、この部屋の主導権は彼女の物だ。すぐに耳をふさぐ姿を確認して夢主は視線を戻す。あとはもう気合いを入れてひたすら読むしかなかった。
 
 
 
「あっ……あぁ、いいの、そこっ、だめぇ……」
 ゆるゆると胸の周りをなぞられて腰に甘い刺激が走り抜ける。早く触って欲しくて背中を反らしてみても切ない願いは叶えられず、代わりに谷間をつぅっと撫で下ろされてしまった。
「やぁ……んっ」
「だめ、なんだろう?」
 ニヤリと笑う顔がとても意地悪で、すごく格好いい。この御方と夫婦になれた喜びが込み上げてきてどうしようもなく体を熱くさせる。じんじんとした疼きが広がる下肢は、あられもない滴を零しながらじっとりとした熱を孕んでいた。
「だめ……じゃ、ないです。お願い、もう……」
 尖りきった胸の先端があまりに敏感で息がかかるだけで感じてしまう。初夜を楽しめるようにと誰かが用意した寝所を満たす甘い香りに煽られて、次々にはしたない声が溢れてしまった。
「さ、触って下さい……」
 羞恥を越える快楽に早く溺れてしまいたい。その思いが伝わったのか、言い終わらない内に胸の頂と剥き出された花芯を摘ままれ、体の奥から淫らな悲鳴と愛液がこぼれてしまった。
「ああぁッあっ……あ、あっだめぇ……いっちゃうっ」

 ……そう言って甘い声を上げて果てたのは物語の中のヒロインだというのに、体中を駆け巡る強い快楽に押し流された夢主は、荒い息を吐いて腰掛けていたベッドにふらりと身を預けてしまった。
 膣奥が何かを求めて収縮する切ない動きが伝わってくる。足の間が熱くぬかるんでいて不快だ。下着は触れるのも躊躇うほどぐしゅぐしゅに濡れ汚れているに違いない。しかしそれを上回る快楽が今なお終わることなく続いて、まるで苦行のようだった。
(このまま読み進めたらどうなるの……?)
 ヒーローに触れられた感触が肌の上に生々しく残っている。あらゆる事象に干渉する権限が、こんなところにまで影響を及ぼすとは想像もしていなかった。このまま二人が重なり合う場面も同じように感じてしまうのかと思うと、とても読める気がしない。何より実物ではないとしてもそこに別の誰かを受け入れるのは嫌だ。
「どうやら限界のようだな」
 早々に耳から手を離していたDIOは、ベッドに沈み込む夢主の顔を見て愉しそうに微笑む。
「私に不満をぶつけても意味はないぞ。先にあの羊皮紙を読みたいと願ったのはお前だ。しかし、おかげで素晴らしいものを見せてもらうことが出来た」
 そう言ってニヤリと笑い、乾いた唇を舌で舐めた。
「DIO……」
 その仕草だけで全身がゾクゾクするようだ。夢主はとろけた体と意識をゆっくりと動かしてシーツの上に置かれた大きな手を包み込む。
「DIOが欲しい……ねぇ、いい?」
 甘えた声に驚く相手を間近に見つめて、夢主はその膝上にのしかかる。そのまま後ろに押し倒して、意地悪く笑う唇にキスをした。
「フフ、まるで発情期の猫だな」
「……だめ?」
 恥ずかしそうに、それでいて物欲しげに揺らぐ目が愛らしい。ぐっと押しつけてくる胸の柔らかさが心地よく、お互いに劣情を灯した下腹部を布越しに触れ合わせた。
「そう思うか? お前のいやらしい声を聞いてこうなっているというのに」
「!」
 熱く硬い茎を感じてびくりと体が跳ね上がる。早くそれで奥まで満たして欲しいと全身が叫んでいるようだ。
「まさかあのような内容とはな……それで、お前はどう感じた?」
 物語の中の二人がキスをした時の感触、肌をまさぐられて昂ぶっていく体、秘めた部分に触られたときの何とも言えない不快感と、強く確かな快楽に目眩がする思いだった。夢主はDIOの手を掴むと、摘ままれた感覚が未だ残る胸に押し当てる。
「DIOがいい。DIOじゃなきゃいや……早くかき消して」
 その言葉に色々と思い至ったDIOは、すぐに夢主の体を引き寄せて唇を奪った。描かれていた彼らの慎ましいキスを上書きするように舌をねじ込み、強く絡めて吸い上げる。縋りついてくる体を抱きしめると、あちこちに指を這わせて新たな熱を与えていった。
「あぁ……」
「……俺が欲しいのだろう?」
 とろけていく夢主の体に反り返った雄をぐりぐりと押しつける。熱い吐息をこぼしながら何度も頷く姿に煽られて、DIOは誰もが認める悪人顔で命令を下した。
「欲しければ自ら動いてみせろ」
 その言葉に羞恥を見せたのは一瞬で、すぐに痴情に溺れた顔に移り変わる。少し体を起こした夢主は、もどかしい手つきで服を脱ぎにかかった。
「フフ、忘れたか? お前の言葉ひとつで全てが叶えられることを」
 そう言ってスカートの隙間から手を差し入れ、際どい部分を撫でてやった。突然の愛撫に危うく達しそうになりながら夢主は願いを口にする。
「服が邪魔……下着も、いらない」
 どちらも空気に溶けるように消えて二人は寝具の上で裸になった。
「それでいい。他には?」
「触って欲しいの……胸と、ここを……」
 示されたところをDIOの大きな手が覆い隠す。柔らかく形を変える胸を揉み、作中で摘ままれた頂を軽く弾いてやった。もう片方で愛液にまみれた花芯を丸く撫でてやると、悲鳴じみた嬌声がこぼれ落ちてきた。
「ひ、ぁ……やぁあっ、いや、いや……だめっ」
「我慢する必要は無いだろう? 他にどうされたい?」
「あっあぁ、ん……もぅ、挿れてもいい? 我慢出来ないっ……早く挿れたい」
 先ほどから尻に感じる雄の存在感に夢主は切羽詰まったような声を出す。DIOはその淫らな姿を下からじっくりと眺めてから意地悪く囁きかけた。
「そう焦るな。少しは慣らした方がいいのでないか?」
「そんな……あっ、でも……、んんっ」
 秘部の表面でくにくにと動かされる指に煽られて、夢主は身悶えながら涙をこぼす。はしたないと頭で分かっていても体がそれを許してくれない。奥まで満たされる欲求しか湧いてこなかった。
「ごめ……ごめん、なさいっ許してっ……もう無理っ」
 硬く勃ち上がった淫茎に指を添え、大きく開いた足の間へ誘導する。熱い吐息を吐いて、何度も謝りながらあふれた愛液をすりつけてゆっくりと腰を落としていった。
「っ、あ……あっぁ……ああぁっ」
 極太の杭に押し開かれていく悦びに全身が歓喜する。脳裏で快感が弾けて淫らな喘ぎ声しか出せなかった。
「う……、すさまじく熱いな……」
 とろとろに溶けきった柔襞がぴたりと吸いついてくる。悦びに妖しくうねりながらDIOを愛撫して、さらに奥へと誘い込んでくるようだ。
「お願い……DIOも気持ちよくなって……私で気持ちよくなって欲しい」
「……っ、待て、」
 妖しい腰の動きに止める言葉が追いつかず、触れ合う下腹部から快感が押し寄せてくる。
「あぁ、DIO……DIOっ好きぃ……」
 胸に置かれた手のひらから、囁く声を拾う耳から、何度も重ねてくる唇から次々に快楽が注ぎ込まれてDIOは驚きに目を見開く。強烈な疼きが全身を這いずり回ったかと思うと、脳と埋め込んだ肉茎に途方もない官能がドッと押し寄せてきた。
「ぅ、あ……ッ」
 腹の上で開いた柔らかな太股に爪痕を残しながら、噴き上げてくる精をそのまま奥へと迸らせる。最後の一滴まで搾り取るような動きに合わせて叩きつけると、甘ったるい喘ぎ声がDIOの鼓膜と心臓をくすぐった。
「あぁああっだめぇ……いっちゃう、またいっちゃうからぁ」
 涙とよだれでぐちゃぐちゃな顔を晒しながら腰を妖しく揺り動かす。甘く煮詰まった肉の中へ先端から太い根元までしっかりと咥え込んで、与えられる快楽のすべてを受け止めた。
「ぅ、あ……これ、ぇ……しゅご……ぃい」
 目の前で白い火花がばちばちと飛び散って、言葉では言い表せない多幸感に包まれていく。うっとりと溶けた笑みを浮かべているのは夢主だけはないようで、押し倒したDIOも堪えきれない悦びに浸っているようだ。その事実に頬と心が緩んでしまう。
「ねぇ、DIO……二人でもっと、もっと気持ちよくなろう?」
 喘ぐ唇を近づけてDIOの舌を吸い上げる。整った歯列を舐めて、鋭い牙に絡めたあと自ら傷を付けた。
「!」
 口内に溢れる血の味にDIOは身動ぎつつ、興奮で赤く彩られた目に妖しく微笑む夢主の姿を映す。情痴に堕ちた顔は美しく淫らで、先ほど吐精したばかりだというのに早くも勃ち上がってしまう。男の体にのし掛かりながらまるで淫魔のように求めてくる相手に、DIOも堪らずその細腰を押さえて下から突き上げてやった。
「あぁっん……あっ、あぁ」
 混ぜ合わされた体液がぷちゅくちゅと酷い音を奏でて泡立っている。精液の青臭さをかき消すように女の香蜜と濃い血の香りが漂い、DIOの体を内側から揺さぶりかけてきた。
「く、……っ」
 ぬめる膣襞の動きと揺れ動く乳房に煽られつつも、自由に動けないもどかしさがどうにも堪らなくなる。ずっと眺めていたいがそれにも限界があるだろう。DIOは腹に置かれた夢主の手を掴むと、力任せに身を起こして二人の上下を反転させた。
「んっあぁ……ねぇ、早くぅ」
 自ら足を抱えて体の中心を大きく開いてみせる。素面の彼女なら羞恥に身を焦がす行いをすんなりと見せてしまった。
「……後が恐ろしいな」
 内側からとろりとこぼれてくる体液を見つめて苦笑する。赤く充血した花芯を戯れにもてあそびながら、DIOは淫らな姿を網膜に焼き付けた。
「お願い、挿れて……早く奥まで満たして……血を吸われながらイきたいの」
「その言葉、忘れるなよ」
 様々な欲を宿した視線がほっそりとした首筋に落ちる。指で吸血するような無粋なことはしない。唇と舌と牙で柔らかな肌を感じながら、あふれる血を啜り飲むが吸血鬼としての礼儀だろう。
 DIOは背筋を震わせながら差し出された供物に口付ける。唾液をたっぷりと塗りつけて甘噛みし、数週間は消えない鬱血の跡をあちこちに残した。
「あ……ぁ……DIO……」
 流れ落ちた涙を舐めて、とろとろの愛液を流す蜜口に先ほどまで埋め込んでいた淫茎を押しつける。中へ迎え入れようと吸いついてくる様に微笑みながら、狙い定めた首筋に牙を寄せ、噛むと同時に強く腰を押し入れた。
「〜〜っぅ、あぁあっ……あっ、や、あぁっ」
 あまりの快感にくらくらする。突き上げられた膣奥は悦びにうねり、DIOの吐息と牙を受け止めた首筋はゾクゾクと甘い痺れを生み出してた。痛みを上回る圧倒的な快楽に飲み込まれて、夢主は喘ぎながらDIOの逞しい体に縋り付いた。
「随分と……これが気に入ったようだな」
 嫌そうに見えて、実は思った以上に良かったようだ。羞恥に怯えて慎ましいのもいいが、素直で奔放なのもこれまた素晴らしい。DIOは熱く包み込んでくる濡れ襞を何度も突き上げながら肌に滲む血を吸い舐めた。
「あぁっ好きぃ……もっと、もっとしてぇ」
 可愛いおねだりに目を細めつつDIOは自ら進んで彼女の願いを叶える。
「望むところだ。他には?」
「キスして……お願い、このまま……」
 DIOの首へ腕を回し、汗ばんだ肌をぴたりと合わせてきた。抱きしめられたまま達したいと言うわがままをDIOは難なく叶えてやる。押し倒していた体を起こし、膝上に抱き上げて対面する形で座らせる。感じすぎてどろどろになっている秘部に深く肉茎を咥えさせると、背中で足が絡むのを感じ取った。
「あっ、あ……DIOもっ、気持ちよくなって……いっしょに……一緒にいってぇ」
 もはや完全にとろけてしまっている夢主に口付けながら、DIOは相手の腰を抱えて挿送を繰り返す。先ほど中に浴びせかけた精を掻き出しつつ、再び新しい飛沫を上らせて深々と柔らかな奥を突き上げた。
「っ……ぁ……はぁ……ん」
「……、っ」
 お互いに切ない表情を見せながら声と唇を奪って絶頂に達する。噴き上げた白濁をきゅうきゅうと搾り取られる極上の快楽にうっとりと浸りつつ、DIOは火照った夢主の体を強く抱きしめて飽きることなく口付けを交わしあった。



 ……以前とは違い、交わってキスをしても白い空間は消えないようだ。
 それもそのはず、途中で放り出された本は床に落とされ、誰かが続きを読んでくれることを待っている。
「……仕方がない」
 一人そう呟いたDIOはスタンドに本を拾わせて、手元でぱらぱらとページをめくった。
 隣で眠る夢主に片腕を枕として貸しているので少々読み辛いが、また顔を合わせてくれないことを思えばわずかな時間も惜しくなる。
「私が読める部分は少ないが、それでも条件を満たすことは出来るだろう」
 細かい指定がないことが今は有利に働く。本当なら彼女が起きるまで待って、もう一度読ませてみたいところだが……それはひどく難しい話だ。
「二人は……夜を……、それから……風呂で……彼女は……。フム……話の内容はさっぱりだが、濡れ場なのだろうな」
 見開いた中で知っている単語だけを拾い上げ、ひらがなの多い台詞と難しい漢字を次々に読み飛ばす。夢主が苦労して読み進めたページ量をDIOはものの数分で越えて、あっという間に最後のページへ辿り着いてしまった。
「ん? ……ああ、これは読めるぞ」
 おそらくは改めて愛を誓いあう場面なのだろう。終盤に向けての話の盛り上がりなどDIOには一切分からなかったが、この台詞だけは理解した。
「愛している。君だけを」
 眠る夢主の耳に口付けながら低く囁くと、部屋を包む白い光はようやく消えて元の暗闇を取り戻していった。

 終




- ナノ -