リゾット


 カラン、と氷が揺れる涼やかな音でリゾットはソファーの上で目を覚ました。
 ティレニア海が望める窓辺から爽やかな潮風が舞い込んで、彼の色素の薄い銀髪を揺らしては撫でていく。人より大きな黒目を薄く開けてぼんやりしていると、四つ足の生き物が太ももの上をわざと踏んで歩いて行くのを感じ取った。
「あ、こら。起こしちゃ駄目」
 ホルマジオに預けられた猫を優しく抱え、そう小声で話す相手をリゾットは視界に映す。
 青い海と空を背景に、猫を抱いて微笑んでいるのはまさしく天使だ。リゾットが見初めた瞬間に白い翼を失ってしまったのだと、最近では特にそう思うようになった。
「夢主……俺の守護天使」
 ぽつりと名を呼べば彼女は慌てて唇を押さえた。猫ではなく、自身の声で起こしてしまったことを憂う表情に心は愛しさで満たされる。
「ごめんね、リゾット……疲れてるのに……」
「俺は……寝ていたのか?」
 目頭を押さえつつ、白黒のボトムと首にタオルを掛けただけの半裸姿の自身を見つめ直す。
 テーブルの上にはいくつもの書類と写真の束、それから夢主が用意したレモン入りの炭酸水が氷の入ったグラスの中で泡を弾けさせていた。
「帰ってきたのが朝の5時過ぎ。シャワーを浴びた後、リビングで私と朝食を取ってからずっとね」
 彼女はそう言ってホルマジオの猫を床に置き、心配そうにリゾットの顔を覗き込んできた。
「……そうか」
 時計を見れば14時を過ぎている。リビングのソファーで寝てしまった割に体が楽なのは、相当な疲れが溜まっていた証拠だろう。
「今夜も……仕事?」
「いや、ボスから休みがもらえた。数日はここで過ごす予定だ」
 パッショーネのボスが代替わりしたのは二ヶ月前。その際の働きが認められたリゾットは、暗殺チームのリーダーからスタンド使いを総括する幹部へと昇進した。
 新生パッショーネの中でも異例の昇進を果たしたリゾットを待っていたのは膨大な仕事の数だ。急な代替わりで起こりうる反感と裏切りへの対策、揺さぶりをかけてくる他組織への牽制、麻薬取引の制限による減収、与えられた縄張りの治安向上と市民から寄せられる様々な問題ごと……。
 時に寝ることも食べることも忘れて奔走する構成員たちの働きぶりに、ボスのジョルノから直々に休暇を与えられたのが昨日のことだ。
 ボスと彼の親衛隊たちは故郷のナポリで羽を伸ばし、元暗殺チームメンバーもそれぞれが好き勝手に休暇を楽しんでいる。そしてリゾットも降って湧いた休息に感謝しながら、この海の見えるマンションで密かに匿っていた恋人の元を訪れた。
「本当? 嘘じゃない?」
「俺はお前に嘘はつかない」
 危険な仕事に赴くとき時も愛を囁くときも、これまで偽ることなく告げてきた甲斐あって彼女は素直に信じてくれたようだ。パッと明るい笑顔を浮かべてすぐに隣へ腰掛けてくる。間近に感じる温もりに疲れ切っていたリゾットの心が慰められるようだ。
「じゃあ、夜はリゾットの好きなものを作ろうかな」
「お前が作るものなら何でも食べるが、外に行ってもいいんだぞ?」
「それもいいけど、折角のお休みなんだからまずはゆっくりして欲しいの」
 リゾットから教え込まれたシチリア料理の数々を思い浮かべながら、夢主は炭酸水の入った二つのグラスのうち一つを手にする。ほんのりと甘く、レモンが香るそれに口をつけると窓から海風が流れ込んできた。
「何から作ろう……メインは魚? お肉?」
「そう悩む必要もないだろう。俺の好物など分かりきっているはずだ」
「それでもたくさんあるでしょ」
 夢主がくすっと笑ったその後で、グラスから流れた水滴が女の柔らかい腕を伝って床を濡らす。たったそれだけのことがやけに扇情的に映るのは、久しぶりに嗅ぐ彼女の香りに惹き付けられているからだ。瞬時にリゾットの奥深いところが熱を持ち始め、本能のままに腕を伸ばして引き寄せる。
「!」
 力加減はしたものの、勢いがつきすぎたせいで彼女が持っていたグラスから氷がこぼれ落ちてしまった。その一つを手に掴んだリゾットは、自身の口の中へ放り込みながら倒れ込んできた女の体を抱き捕らえた。
「リゾ……」
 夢主が名を呼び終えるより先に冷たい舌先が潜り込んでくる。笑みを浮かべたリゾットの目は闇の中で獲物を見つけた肉食獣のようだ。驚きに目を見開いたまま見つめ返していると次第に眼光は緩んで柔らかくなり、熱い吐息と冷たい舌が夢主の口の中で交互に重なり合った。
「……ん、っ……ぁ……」
 弱いところを知り尽くした舌が這い回り、口内をたっぷりと舐め上げられていく。肉厚な舌を絡められ、強く優しく吸われると、夢主の唇から思わず甘い声がこぼれてしまった。
「ゃ……、急に、こんな……」
「二ヶ月ぶりだぞ。ご馳走を前に我慢しろというのか?」
 組織が不安定なこの時期が一番危険だからと、あえて会わずにいた禁欲的な生活は今日で終わりだ。これからは時間が許す限り会いに来るし、思う存分愛することが出来る。
 そう思うとますます堪らなくなって、リゾットは腕の中の彼女を強く抱きしめた。
「まって……先に夕食の話を……」
 二人分の吐息で溶けていく氷を口の中に押し込められて、夢主はそれ以上を言葉にすることが出来ない。唇の端からこぼれた水滴が顎や首に流れ落ちていく。それをリゾットが美味そうに舐め上げるのを夢主は体を震わせながら感じ取った。
「この世で一番好きなものはお前だ」
 うっとりとした低い声にそう告げられて、夢主は口の中に溢れる水分を飲み込む。
「……もう」
 頬を染め、呆れたように呟く彼女の頬を撫でながら、リゾットは許しを請うように何度も口付けた。



 窓にカーテンを引き、締め切った室内には熱のこもった音が繰り広げられている。
 あの後、さらうようにしてリゾットの腕に抱き上げられた夢主は、一直線に寝室へと運び込まれて柔らかなベッドの上にそっと置かれる事になった。
「やぁ……リゾット……っ」
 しかし優しい手つきだったのはそこまでだ。想い合う仲でありながら会えないのはもどかしかったようで、リゾットは服を脱がせる時間すら惜しむように覆い被さってきた。
「ここに触れるのも久しぶりだな」
 めくり上げたスカートの中に顔を突っ込んで、下着越しにその凜々しい顔を押しつけてくる。まるで大きな犬がするようにフンフンと鼻を鳴らす姿に、夢主は大慌てでリゾットの肩を押し返した。
「あっ、やだ……待って、」
 力を込めてもびくともしないばかりか、邪魔をするなというようにそのまま指を絡め取られる。大きな手に包み込まれる安心感に夢主が気を抜いた瞬間、下着越しにぬるりと大事なところを舐め上げられてしまった。
「……!」
 びくりと大きく震える体をなだめつつ、リゾットは高い鼻先と唇を押しつけてそこを何度も往復した。塗りつけられる唾液で次第に透けていく下着の卑猥さと、細い足を跳ね上げて悶える愛らしさに黒目の中の赤光を輝かせる。
「ん、っ、あんっ……リゾットぉ……」
 切羽詰まった可愛らしい声にリゾットは笑みを浮かべ、濡れ汚れた下着に指を掛けてするりと脱がせた。普段から血塗られている無骨な指もこの時ばかりは繊細で優しい動きを見せるようだ。
「ドロドロだな……それにしても、いつ見ても綺麗だ」
「……っ、や……もうっ」
 羞恥に悶える表情を楽しむためにリゾットはあえてそこの様子を言葉にする。スカートの隙間から視線を向ければ、目尻に涙を浮かべながらそっぽを向く夢主の姿が見えた。
「本当のことだぞ? 嘘は言わない」
「わ……分かったからっ……」
 腕で顔を隠す彼女にリゾットは笑いかけてから露わにした秘部に唇を寄せる。唾液ではないとろりとした体液を舌先にすくい上げ、指で包皮を剥いた小さな芽に押しつけた。
「んっ、あっ、ああっ……!」
 すぐさま強い快感が走り抜けて夢主は背中を大きくしならせた。体を捩ってどうにかやり過ごそうとすれば、幅広いリゾットの肩が膝裏をぐっと押し上げてしまった。
「あ、やぁ……っ、ん、んっ……」
 大きく脚を開かれる形になって恥ずかしさからそこを隠そうとしてもリゾットはそれを許してはくれない。
「もっと味わせてくれ」
 奥から溢れてくる愛液をすすり飲み、可愛らしい突起にキスをする。ざらついた舌先で執拗に舐め回せば感じ入った喘ぎ声がリゾットの耳に響いた。
「ぁ、ああ、ん……はぁっ……だめぇ……っ」
 ぴくぴく震えながらとろけた表情を浮かべる彼女を前にリゾットの愛撫は一段と激しさを増した。もはや隠しきれなくなった花芯を舌で弾き、ちゅうっと強く吸い上げては歯で優しく甘噛みする。とろとろの愛液をこぼす蜜口にリゾットの長い指を添え、第一関節までをそっと埋め込むと物欲しそうに襞が吸い付いてきた。
「……あ、あ、っ、ああ……リゾット……」
「このままイかせてやりたいが、俺も限界だ」
 何しろ二ヶ月ぶりの逢瀬だ。早急になるのは仕方ないのだと言い訳しつつ、下着の奥から硬く勃ち上がった陰茎を引きずり出す。すでに先走りで濡れている亀頭をとろとろな入り口に擦り寄せた。
「すまない。許してくれるか?」
 いつもならもっとほぐして、夢主の息も意識もぐずぐずになった頃を見計らってから挿入するのだが、今日ばかりはその余裕がない。
「……っ」
 熱い吐息をこぼしてリゾットがこの先を乞う姿に、夢主は全身を身悶えさせながら相手の首に掛けられたままのタオルに手を伸ばす。軽く引き寄せれば、リゾットは抵抗もなく長躯を屈ませて顔を近づけてきた。
「会いたかった……ずっと、ずっと、リゾットを待ってたの」
 連絡が許されない中でようやく姿を見せてくれたとき、休暇をここで過ごすと言われたとき、自分がどれほど嬉しかったか……そのすべてを伝えきれないことがもどかしい。
「だから……もう……お願い……」
 涙をこぼしながら求める彼女にリゾットは笑みを浮かべたままキスをする。と、同時に腰を押し入れてぬるついた温かな隘路を突き上げた。
「ひっ、あ、……ああぁっ……!」
 とぷりと押し出される愛液をかき分けて深々と奥を穿つ。圧倒的な質量とそれに伴う深い快感に、一足飛びで絶頂へ押し上げられた夢主は悲鳴を上げてリゾットを受け止めた。
「……く、」
 太い根元をきゅうきゅうと締め上げられ、硬い淫茎をなだめるように柔らかな肉襞が妖しくうごめいている。あちこちから刺激される悦楽は長く我慢しただけの甲斐はあり過ぎるほどで、気を抜けば持っていかれそうな淫らさにリゾットは奥歯を噛んで熱い息を吐いた。
「ん……う、……あ、ふっ……りぞっとぉ……」
 じんわりと長く広がっていく快感に先に根を上げたのは夢主の方だ。涙とよだれをこぼしながら、足を震わせてリゾットの胸に指を伸ばす。隙間無くぎっちりと突き埋められた男の楔は、久しぶりに味わう事を考えればあまりに凶器じみていた。
「……痛いか?」
 痛みよりも内側を圧迫される苦しみに夢主は眉尻を下げる。子宮を通り越し、腹にまで響いてくるようだ。それなのに硬さを増していくリゾットの逸物に、夢主はこの後を思うと恐ろしくなる。
「ひどく狭いな……他の男を連れ込まなかった事は褒めてやる」
「……そんなこと、するわけ……っ」
 会えない寂しさに泣いた夜もあったというのに……想いを疑われた夢主は怒りに顔を歪めた。その際にあふれた涙をリゾットは嬉しそうに唇で拭い取り、頬を撫でながら甘く微笑みを返す。
「そうだな、お前は俺だけの天使だ」
 一般市民が営む普通の生活からギャングの血生臭い世界へ堕とすため、戻れないように羽根をむしり取ったのはリゾット自身だ。後悔など欠片もなく、あるのはただ深い愛情だけ。
「愛している……愛しているんだ、夢主……この二ヶ月、片時もお前のことを忘れた日はなかった。どれほど会いたかったか……分かるか?」
 いつも冷静な口調がこの時ばかりは浮かれた声になる。銀色の髪をサラリと揺らし、切なげに目を細めて見つめてくるリゾットに夢主は堪らず腕を伸ばした。
 太い首を抱いて自ら口付けると、すぐに二人の舌が絡まり合う。熱い吐息を交換し、情熱が込められたキスを交わしているとリゾットが胸に指を伸ばしてきた。
「ん……、ふぁ……」
 すでに裸のリゾットとは違って夢主はまだ服を身に着けたままだ。薄いブラウスのボタンを骨張った指が一つ一つ外していく。すでにお互いの体は深く繋がっているというのに、すっ飛ばした手順を正すかのように優しい動作だった。
「もういいのに……」
「馴染むまでの間だ」
 そう言ってリゾットを受け入れた夢主の腹部をひと撫でする。
 陰茎を包み込む肉襞はあまりに狭く、リゾットが夢主を初めて抱いた時を思い起こすほどだ。しかし、あれから幾度となく抱き合って夜を過ごした結果、今ではただ狭いだけではないらしい。締め付けながらうねる濡襞の淫らさに、今すぐにでも腰を動かしたくなる気持ちを抑えて乱した胸元に顔を近づけた。
「あっ……!」
 フロントホックを外された胸の下着の代わりにリゾットの唇が頂を覆い隠す。歯で甘噛みされ、強く吸われた乳首から痺れるような刺激が腰へと走り抜けた。
「っ、ん、……っ」
「今、締め付けたのが分かったか? もっと声を出すといい」
 挿れたままの淫茎を動かさず、ただその甘美な動きだけを感じ取る。恥ずかしそうにする夢主に再びキスをしながら、リゾットは白く丸い胸を手に包み込むと左右の乳首を指先で摘まみ上げた。
「んんっ! ……っあ、あ、」
 リゾットに縋り付くようにしながら自分でも内側が収縮する様を感じ取る。その度に太い茎の存在を改めて教えられるようで、切なさに体の奥が熱く燃え上がった。
「……あっ、ぅ……はぁ……ん、んっ」
 胸の先を指でなぶられながらリゾットの唇があちこちに落とされていく。首筋や胸元、肩にまで強く吸い付かれて、誰が見てもそうと分かる痕を点々と残されてしまった。
「あ、ぁっ……やぁ、もう……りぞっとぉ……っ」
 大きく開かされたままの足を震わせて夢主は迷うことなく懇願した。胸の先はジンジンするほどに尖らされて、興奮に色づくリゾットの吐息が耳の奥を痺れさせる。もうすっかり馴染んでしまった二人の秘部の間には、隠しきれない量の愛液がとろとろと流れ落ちてしまっている。
「俺の形を忘れてはいなかったようだな」
 リゾットの長い陰茎に沿うように肉襞がぴったりと吸い付いてくる。淫らにうごめくそこを堪能しながら、彼はどこか嬉しそうに微笑んだ。
「もぅ……あなただけだから……っ、はやく……」
 動いて欲しいと願うより先に腰を引かれ、またすぐに押し込んできた。
「!」
 声にすら出来ない悦楽が全身を駆け巡って夢主の脳を痺れさせる。少し遅れて悲鳴じみた嬌声を上げる彼女の足を押さえ付けたリゾットは、これまで我慢していた思いを乗せて勢いよく挿送を繰り返した。
「ああっ……あっ、あああっ……だめ、いっちゃう……きもちいいっ……」
「確かに最高だ……」
 久々に味わう膣襞は相変わらずぬるぬるで柔らかく、リゾットを締め付けて得も言われぬ天国を見せてくれる。彼の鍛え上げた背筋と揺らめく腰に快楽の熱が溜まり、興奮に彩られた笑みをこぼしながら夢主に口付けた。
「ん、っ……ぁ……ん、んっ」
 お互いにとろけた表情を浮かべて快楽を分かち合う悦びにどっぷりと浸る。熱い塊に何度も奥深いところを突き上げられて、どろどろに溶けた快感だけが夢主の体を支配した。
「あ、あっ、……リゾットっ……ゆっくり……や、優しくしてっ……」
「無理を言うな。ここを……こんなにしておいて」
 熱く柔らかく、うねる濡襞に誘われるまま奥を穿つ。淫らな体を責めるように繋がりあうところからぬちゃぬちゃと酷い音を響かせてやれば、夢主の細い足がリゾットの腰を抱え込んできた。
「ゃ、……もっ……死んじゃいそう……っ」
 ガツガツとした容赦のない突き上げに、夢主は苦痛にも似た快楽を延々と味わされている。内側から感じさせられるリゾットの太い楔に乱されて、汗と涙で視界が潤んできた。
「そういう時はイクと言うんだ」
 死神のような黒い目に愛しい相手だけを映してフッと笑う。出迎えてくれたときのような笑顔もいいが、こうしてリゾットの下で悶えて必死に喘ぐ姿もまた美しい。愛おしさに苦しくなる胸から熱い息を吐いて、リゾットは責め立てる腰の勢いを少しだけ弱めてやった。
「俺の可愛い天使、まずは一度目の天国を見てもらうとするか」
 その言葉に夢主は思わず身を震わせる。一度目、ということはまだこの後も続けると言うことだ。性欲がひときわ強いわけではない彼も、今回ばかりは一回だけで満足できないらしい。
「……待っ……あっ、あああっ!」
 結合部からぐちゅと濡れた音が鳴って、リゾットの指先が剥き出された花芯を強く弾いた。腰を引き、浅いところをゆっくりと掻き混ぜながら親指で感じやすい突起を愛撫する。
「んんんっ……いや、ああっ、ぁあっ」
 こぼれる愛液をたっぷりとなすり付けられた花芯はすでに痛いほど立ち上がり、リゾットの指の中で散々に弄ばれることになった。摘まみ上げられては左右に擦られ、撫でるように丸く円を描いてはぴんっと弾かれる。その度にきゅうと締め付けてくる肉襞を淫茎が優しくなだめてくる。
「はぁ……ぅ、ああぁ、……いくっ……いっちゃうからっ……あっ、あ、っ……やめてぇ……」
 歓喜の涙と愛液を流す夢主にリゾットは口付けて、その淫らな顔をじっくりと間近に眺める。誰が彼女を生かし、どろどろに愛して犯しているのか、それを自覚させるためだ。
「りぞっと……、リゾットっ……」
 甘ったるい声を上げて果てる彼女が見たのは闇のような黒目とそこで光る赤……額に触れる銀髪が汗に濡れていることを知る。ぞくぞくと体を走り抜ける快感に淫らな声を上げ、切なげに顔を歪めるすべてをリゾットに見られてしまった。
「ぁ……ふぁ……あ」
「いい顔だ……急かすようで悪いが、二度目だ」
 余韻に浸る夢主の顔からよだれを舐め取って、リゾットはぐっと腰を押し込んだ。とろけている最奥に陰茎で深いキスをして、敏感になっている入り口まで戻ってくる。
「んんっ! だめぇ……いった、ばかりなのにぃ……っ」
 残っていた快感に再び火がつけられて夢主の体はがくがくと揺れ動く。強すぎる刺激から逃れようと藻掻くが、蜜路をかき分けてきた肉杭によって身動きは取れなくなる。
「っ、ああっ……!」
 子宮に響く重たい一撃にまた達してしまうのを堪えられるはずもなかった。
「夢主……愛してる。このまま俺の全てを受け止めてくれ」
 力なく、それでも首を縦に振るのを見届けて、全身がほんのりと赤く染まった夢主を抱きしめる。汗も涙もよだれすらも愛しい。勢いよく突き上げながらそれらを舌先で味わっていると、リゾットの首に細い腕が回されるのが分かった。
「ん、んっ……あ、あっ……わ、たしも……あい、してる……ぅんんっ」
 喘ぎながらで途切れてはいるが、確かな愛の言葉に挿送はさらに激しくなる。お互いの唇が痺れるくらいに何度も口付けて熱い吐息を交換し合う。そのうち、先に絶頂へ向かった夢主の甘やかな声がリゾットの耳に届いた。
「あ……、ああ……っ……!」
「夢主……、」
 悦楽に堕ちる天使をうっとりと眺めながら、リゾットは溜め込んでいた欲望をそのまま浴びせかける。何もかも搾り取られるような強い収縮感に煽られて、白くて熱い飛沫をたっぷりと注ぎ込んだ。



 フッと意識が戻った夢主が一番最初に目にしたものは、二つ並んだ白い枕の片方だ。
 カーテンが引かれた部屋は薄暗く、時計を見れば今は早朝の5時だということを告げている。一瞬、リゾットが帰ってきてくれたのは夢だったのか……と思う夢主の下腹部がずきりと痛んだ。
 久々のセックスだというのに、途中から加減も理性も捨て去ったリゾットに何度も貫かれたのが原因だろう。というかそれしか考えられないし、体中に残るキスの痕が昨夜の出来事を物語っている。
「……リゾット?」
 居るはずの彼の名を呼んでみるが返事はない。ギャングの幹部に昇進した事を思えば、いくら休みを与えられたとはいえ急な呼び出しもあるだろう。もしかしたらキッチンかリビングに書き置きが残されてあるかもしれない……そう思った夢主が寝室から廊下に出てみるとかすかな物音が響いてきた。
 明るい日差しが降り注ぐベランダから爽やかな海風が流れ込んでくる。その手前の窓際に置かれた黒いフラットベンチに仰向けで寝っ転がっているのは、探していたリゾット本人だ。黒いトレーニングウェアを着た彼は両手に重たげなダンベルを持ち、正しい呼吸法を行いながら何度か上げ下げしてすでに見事な体をさらに鍛え上げている最中だった。
「……こんな朝早くからトレーニング?」
「手入れしないと鈍るのは体も同じだ。管理するのも大事だぞ」
 すでに気配や足音で起きたことを知っていたのか、不意に話しかけてもリゾットは驚きもしない。そのいつもと変わらない声と口調に安堵した途端、夢主の体から気が抜けてふらふらと床に座り込んでしまった。
「!? どうした、大丈夫か?」
 それを見たリゾットはダンベルを床に捨て置き、珍しく驚いた様子で素早く身を起こす。彼女の体を支えようと腕を向けるが、汗がしたたる自身の姿に気付いて立ち止まる。タオルに視線を移す間に夢主の方から腕の中に飛び込んできた。
「起きたら居なくて……また会えなくなるのかと……」
 ぽろぽろと涙を流す彼女を見てリゾットは不安と寂しさを募らせてしまったことを後悔する。眠る彼女に気を遣い、物音を立てずに起きたのも逆効果だったようだ。
「心配させて悪かった」
 そう言って真摯に謝ってくれるが、いつもは精悍な口元がどこか嬉しそうに緩んでいる。愛しい相手に泣くほど求められて喜ばない男がいるだろうか……リゾットは優しく夢主の髪を撫で、躊躇いがちに額へ唇を落とす。
「……この部屋で、私だけが寝起きする辛さを本当に分かってる?」
 涙を拭った夢主はすねた顔を見せつつ、汗でしっとりとしたリゾットの体に腕を回す。
「汚れるぞ」
 昨夜、二人して汗を流したことを忘れているらしい。忠告してくれるリゾットを無視して強く抱きしめ、夢主の方からキスをした。
「お休みの間、側に居てくれるんでしょう?」
「ああ。部屋もベッドも風呂も同じだ。これまでの時間を取り戻すぞ」
 嬉しそうに微笑む夢主を腕に抱え上げてリゾットはそのままバスルームに足を向けた。濡れた銀髪に触れて掻き分けてくる彼女に戯れのキスをしつつ、ドアを開けて背後で閉める。
 二人で仲良くシャワーを浴びる頃、すっかり存在を忘れ去られているホルマジオの猫が至極つまらなさそうに大きなあくびをした。

 終




- ナノ -