03


 組み敷いた先に見えるのは、承太郎が与えた白いコートの中で焦った表情を浮かべる夢主の姿だ。薄い生地で作られたフリル付きのビキニはあまりに扇情的で、腰に飾られたリボンがフェイクだと分かっていても思わず引っ張ってみたくなる。
「こいつは襲ってくれって言ってるようなもんだぜ」
「……承太郎はこういうの、嫌い?」
 彼は見た目以上に意外と古風でおしとやかな服装を好む。だからこの水着を買う時は大胆すぎると思ったが、新婚ならこれしかない! と店の人に押し切られてしまったのだ。
「どうだろうな……まぁ、いいとは思うぜ」
 大きな手でするすると太ももをなぞり、いい匂いがする胸元へ顔を寄せる。男を煽り立てる柔肌に唇を押しつけ、味見をするように舌でべろりと舐めては噛んでみた。
「ん……」
 甘い刺激に声が漏れるのを、承太郎はじっと観察しながら甘噛みに強弱をつけていく。肌と布の境目をぬるぬると舐めながら太ももから腰をなぞり、へそから胸へゆっくりと手を移動させた。
「はぁ……」
 ただ触れられているだけなのにびくびくと過剰に反応してしまう自分が恥ずかしい。体を縮めて少しでもコートで覆い隠そうとすると、それを見た承太郎は夢主の手を押さえつつ、胸を覆う可愛らしい水着を退かせた。
「あ……っ、待って……」
 これほど明るい場所で胸を晒すのは初めてだ。それも承太郎が見ている前で……夢主はかっと頬を染めて息を飲む。
「み、見ないで……」
「見なきゃ舐めれねぇだろうが」
「え、っ……あ!」
 胸の先に息がかかったと思ったら、次の瞬間には暖かく湿った口内に含まれていた。驚き身を引こうとする夢主を優しく抑え、淡い色をした頂を舐めた。
「ひゃ……」
 舌で円を描きながらちゅっと吸い、唇に挟んでしごき上げる。あまりのことに震える体を落ち着かせるように撫でてから、承太郎は上目遣いで彼女の顔を覗き込んだ。
「んっ……あっ、やぁ……」
 艶めいた声をあげて視線を逸らす彼女の中に嫌悪や恐怖は見て取れない。承太郎はわずかに安堵しながら、さらに乱れる姿を求めてもう片方の乳首をきゅっと摘まみ上げた。
「っ……!」
 得体の知れない刺激がぞくぞくと這い上がり、きつく閉じていた下肢と背中を愛撫する。まだ何も知らない夢主にはそれが性の悦びだと理解出来るほどの経験が無い。混乱と恐れから目の奥が熱くなるのを感じると、慌てて腕を通したコートの袖で顔を覆い隠した。
「痛かったか?」
 こちらの身を心配する声に夢主は首を横に振る。
「へいき……でも、変な声ばかり出て……恥ずかしい」
 承太郎はフッと笑いながらいつしか固くなった乳首を再び舐めて甘噛みする。跳ねる腰を撫で下ろしてきつく合わさった足を力任せに持ち上げた。
「えっ!」
「暴れるなよ。傷つけたくねぇ」
 そう言われて夢主はぴたりと動きを止める。何をされるのか分からなくて震える脚の向こうに、いやらしい笑みを浮かべた承太郎の顔がちらりと見えた。
「息をして、力を抜け」
 袖の中で荒い呼吸をしているのが分かったのだろう。承太郎は優しい声で相手を諭しながらふっくらとした花びらに顔を押しつける。
「や、……ッ……!」
 秘部に感じる体温に脚を閉じようとしても敵わない。すでにがっちりと固定されて、ただひたすら恥ずかしい部分をさらけ出すほかなかった。
「あ、あぁ……、承太郎っ」
 高い鼻先で柔らかな谷を押し開き、花柄のプリントがされた水着のショーツに唇を這わせる。すん、と音を立ててそこを嗅ぐと、夢主が悲鳴に似た声をあげて承太郎の頭を押しのけようと手を伸ばしてきた。
「やだぁ、だめっ……!」
「いい匂いだぜ。水着の柄と合ってるじゃあねぇか」
「そんな……、ひっ!」
 恥ずかしいところを深く吸われ、熱い吐息が流れ落ちてくる。その感触に身悶えしていると、大事なところを覆い隠す布をずらし、直に唇を押しつけてきた。
「あぁっ……」
 ぬるりとした舌の感触に愕然となりながら、押さえつけられた体を震わせてその刺激を身に受ける。ざらついた舌先が秘部の形を探るように妖しく動き始めると、夢主の体にまた得体の知れない痺れが走り抜けた。
「あ……あんっ、や……うそぉ……」
 凜々しく端正な承太郎の顔が足のあいだに埋まって、隠された部分に唇を寄せているのが信じられない。正気とは思えないその行為に夢主が恐る恐る視線を向けると、こちらを窺う淡いグリーンの目と絡み合った。
「今日はここでイクことを覚えさせてやる」
 埋もれた小さな芽を指で剥いて暴き出し、舌先でピンと弾いてやる。途端に仰け反って甘い声をこぼす夢主に、承太郎はうっとりとした笑みを浮かべた。
「全部飲んでやるからな。イクときはイクって言うんだぜ」
 一体、何を飲むつもりなのか。まだ達する感覚も分からない夢主は彼の言葉に青くなる。思わず逃げ腰になるが、すぐに体をぐっと押さえ込まれてはどうしようもなかった。
「あ、あ……っ」
 抵抗する間もなくぬるりとした熱い舌が潜り込み、妖しい動きを再開する。ぴたりと閉じた蕾を舐め上げて、先ほど弾いた秘芽を口に含むと夢主の足がまた震え始めた。それをなだめながら舌で優しく刷き上げて、キスをする時のようにちゅっちゅっと啄んでみる。
「ん……あぁ、っ、はぁ……ん」
 じわりと疼くような快感が広がって、夢主は堪らず白いコートの袖に顔を押しつけた。乱れる心と体を少しでも落ち着かせるように承太郎の匂いを深く吸い込んでみるが、あまり効果はなかったようだ。むしろ全身を包み込まれるようでぞくぞくと反応してしまう。
「っ……」
 そんな相手の反応を見定めつつ、承太郎は舌を押しつけてそこから快感だけを引きずり出すように舐め上げる。まだ誰にも見られていない初々しい花芯に優しく口付けて、何度も何度も執拗に舌で転がしては吸い上げた。
「ふ……ぁっ、ん……あ、ぁ……」
 意思とは関係なく跳ね上がる夢主の身体に手を伸ばし、硬く色付いた胸の突起を擦り上げる。秘部と乳房を同時に刺激され、身悶える姿をうっとりと眺めつつ、その淫らで愛らしい様子を薄緑の目に焼きつけた。
「濡れてきたな」
 穢れない色をした女唇からとろりと愛液が滲み出ている。相変わらず緊張と羞恥に怖じ気づいてはいるが、体は女の悦びを感じとっているようだ。
 あふれてきた滴を肉厚の舌ですくい取り、赤くなった突起になすりつける。ぬるついた刺激に夢主がびくびくと反応するのをこころよく思って、何度もそこを往復させた。
「あっ、あ、……や……、はぁっ……んん」
 目まぐるしい快楽に追いついていけず、ただひたすら喘ぐことしか出来ない。恥ずかしい声を承太郎に聞かれていると分かっていても、頭の中まで痺れてしまって少しも堪えられなかった。
「だ、……め……、やぁ……っ、何か……」
 ずっと舐め続けられているそこから熱い奔流が込み上げてくる。うねるようなそれが何か分からず、胸を揉む承太郎の手に縋り付いた。
「イきそうか?」
 抱かれた手はそのままに、空いた手の方を秘部へと近付ける。唾液と愛液でどろどろになっている蜜口に中指をゆっくりと挿し入れた。
「……あぁっ!」
 今まで感じたことがない痺れが全身に広がって、夢主はつま先をぎゅっとシーツに押しつける。
「狭いな……」
 きゅうきゅうと締め付けてくる濡襞に承太郎は唾を飲み込んだ。今すぐここにぶち込んだらどれほど気持ちがいいだろう……熱く柔らかな内側を探りながらそんなことを考える。
 だがすぐに、大泣きされてお互いが辛い思いをした記憶を呼び起こし、突き上げてくる欲望を無理矢理に押し込めた。
「一つずつ、体に覚え込ませてからだ」
 夢主に泣かれるのは辛いが、それが元で嫌われるのはさらに悲しい。承太郎はただ愛したいだけなのだ。だからじっくりと、徹底的に、最初から最後まで悦楽に染め上げて、苦しみのない繋がりを持ちたいと思っている。
「あ、あっ……ダメ……、さわっちゃ……」
 体の内側を緩く探られながら、包皮を剥かれた突起に舌が絡みついてくる。まるで水を飲む犬のようにぴちゃぴちゃと音を立てて舐められると、止めどない快感に体中が震え出すのが分かった。
「は、ぁ……、あぁ……ん、っ」
 恥ずかしいのに気持ちがよくて、いやらしい声が次々に漏れてしまう。ざらざらとした舌が這い、花芯の先をくすぐるように刺激する。埋め込まれた指が快感を増幅させるようにその裏側を擦り上げて、柔い膣襞を愛撫した。
「んんっ……、や、ぁあ……ぁ、承太郎っ」
 今まで感じたことがない強烈な波がどっと押し寄せてきて、夢主は抗う術もなく飲み込まれる。男の長い指を締め付け、身を仰け反らせながらあっけなく果ててしまった。
 その艶やかな姿を眺めながら、承太郎はあふれ出る愛液をすすり飲む。鼻腔を満たす甘い女の香りに埋もれる中で妙な達成感が込み上げてきた。
「今のがイクって感覚だ。忘れるなよ」
 夢主の中から引き抜いた指に舌を這わせて承太郎は身を起こす。
 可愛い水着は乱れきっていてプールの水ではない液体で濡れてしまっている。それを直してやりながら与えたコートの袖に顔を隠す夢主を覗き込むと、いくつもの涙に濡れた目と合った。
 相手がぎくりと身を固くするのを感じた夢主は、
「承太郎……」
 と彼の名を呼びながら腕を伸ばす。
 すぐに抱き寄せられて広い胸の中でホッと息を吐いた。
「悪ぃ、またやり過ぎたようだ」
「ううん、平気。それより私の方こそ上手く出来た?」
 恥ずかしがってばかりで面倒ではなかっただろうか。だが、この明るい部屋で体を開くのはとても難しいことだったのだ。
「ああ。上出来だ」
 労るように頭を撫でられて夢主は照れた笑顔を浮かべる。だがすぐに曇らせて承太郎を申し訳なさそうに見つめ上げた。
「でも、教えられたとおりにイクって言えなかった」
「……」
 承太郎は愛しさに苦しくなって無言のまま強く抱きしめた。



 シンガポールを出て数日。次の寄港地であるインド洋のモルディブ首都に向けて船が移動する中、メインダイニングで朝食を取っていたポルナレフは、昨夜配られた船内新聞を広げて内容をチェックした。
「今日も色々あるなぁ。折り紙教室だってよ。へぇ〜、アヴドゥル参加してみるか?」
「悪いが、今日は占い教室の特別講師を頼まれている」
「お前なぁ、休暇中にまで仕事するつもりか?」
「仕方がないだろう。占い師の老婆が左手を火傷して困っているのだから。この業界で顔が広いのは便利だが、時に厄介事も持ち込まれるものなのだ」
 アヴドゥルは熱いシャーイを飲みながらしみじみと呟く。
「面白そうじゃあないか。それはいつからだい? 午前はゲームの挑戦を受けているんだが」
 和朝食を食べ終えた花京院は箸を置いて目の前の二人に話しかける。
「午後からだから花京院も来るといい。しかし、ゲームの挑戦とは何だ?」
「ここから少し離れているが、ゲームセンターがあるんだ。そこで暇つぶしにプレイしていたら若いアメリカ人に話しかけられてね。彼も相当にゲームが好きらしい。意気投合して、今日はお互いの腕試しをすることになっている」
「ふーん、そんな出会いもあるんだな。俺も昨日のバーで美しい女性を見つけたぜ。オードリー・ヘップバーンみたいな声でポルナレフさん、なんて呼んでくれるんだ。最高だろう?」
 恋するポルナレフのだらしない顔をアヴドゥルと花京院は含み笑いで眺める。
「承太郎は幸せそうでいいよな。ジョースターさんたちも楽しそうだし……俺も本気で結婚がしたいぜ」
 彼らが座る隣のテーブルでは腕が痛いからとスージーQにあーんしてもらうジョセフの姿があった。
「ほらほら、こぼさないで」
「おおっと……スマン。汚さなかったか? スージー」
 その仲睦まじい様子は確かにほのぼのとするが、恋人の居ない者にとっては妬ましいだけだ。
「そういえば、その承太郎たちはどうした?」
「彼女はショッピング、承太郎は再放送の推理ドラマがあるみたいで部屋に籠もってますよ」
 花京院はそう言ってクスッと笑う。どこに居ようと承太郎はマイペースだ。
「それでも新婚かぁ? だけど、あの承太郎がベタベタするのは考えられねぇし……それくらいが丁度いいのかもな」
 ポルナレフは笑いながら肩を竦めてコーヒーを飲んだ。


 よれよれのレインコートを着た男性が安葉巻を吸い、愛車のプジョーに乗り、とぼけた顔で犯人を追い詰めていく。前に見たことがあるのでこの後の展開は知っているが、それでも面白いものは面白い。
  承太郎はソファーに深く腰掛けて、誰にも邪魔されないこの時間を大いに楽しんでいる。うちのかみさんが……と、いつもの名台詞が出たところでフッと笑うと、その吐息が間近にある夢主の耳に届いたらしい。
「……んっ」
 自身でも驚くほどの色付いた声に、慌てて口を押さえるが承太郎の手がそれをやんわりと阻んだ。恥ずかしそうな夢主の横顔を眺めながら承太郎はその細い首筋に唇を落とす。
「ぁ……、……ん」
 啄むようなキスをしながらゆっくりと耳元へ近付けていく。すでに赤くなっている耳朶を戯れに噛むと、向き合う形で膝上に座らせた女の体がぴくりと反応した。
「あっ、承太郎……」
 切なそうな表情が実にいい。身支度をする夢主をテレビの前で捕らえ、淫らなレッスンを開始してから数分が経つ。未だ恥じらう相手の心をなだめるようにキスをして、服の隙間からそっと手を差し入れる。ブラウスのボタンを外し、スカートの奥へ手を忍ばせて丸い尻を掴んだ。
「ん……」
 承太郎の大きな手であちこちに触れられて、夢主は恥ずかしさに顔を隠す。跨ぐように言われた脚は広げられ、その間をつっと指が滑っていく。時々、こうして指や唇で与えられる妖しい刺激こそが快感なのだと夢主にもようやく分かりかけてきた。
「ドラマを見るんじゃあないの?」
 誘いに来た花京院に確かそう伝えていたはずだ。だから夢主は一人でゆっくり鑑賞出来るよう外に出掛けるつもりだった。
「見てるぜ。犯人の動機もトリックもすでに知ってる」
 再放送だからな、と言う承太郎を夢主は少し驚きながら見つめた。ドラマは口実で本当は触れ合いたかったのだと、そう思ってもいいのだろうか。
「……側にいて欲しかった?」
 恐る恐る聞くと、これが返事だというように強く抱きしめられる。承太郎の耳で輝くピアスを見つめながら夢主もぎゅっと抱き返した。
「向こうに着いたら忙しくなるからな」
 新居の掃除と荷物の整理、編入する大学での試験、それに加えて煩雑な各種の手続きが待っている。夢主にもそれは分かっているが、言い訳じみた言葉にクスッと笑いがこぼれた。
「余裕か?」
 承太郎はいやらしく笑って止まっていた愛撫を再開する。お尻から太ももを撫でて、開かせた脚の間を這わせるとそのまま下着の上から秘部に触れた。
「あっ、やだ……」
「もう嫌でもないだろ?」
 大きな手で包み込み、親指で隠れた突起を探り当てる。ぐりぐりと少し強めの刺激を与えれば、わずかに膨らんで快楽の蕾を露わにした。
「んっ、承太郎っ……」
「ドラマが終わるまで我慢しろ」
「えっ……、……やぁ……ンっ!」
 夢主が無理だと言うより先に押し当てた指を弾く。がくがくと快楽に震える体を支えつつ、ブラのホックを外して身軽にするとこぼれた膨らみにも指を這わせた。
「だ、だめぇ……そんな……に、しないで……」
 つんと尖った先端を上下に擦られたかと思うと、質感を確かめるように胸を優しく揉まれてしまい、ますます体の力が抜けてしまう。承太郎の太い首を抱きしめながら夢主は腰を震わせて喘いだ。
「あっ、はあっ……ん、声……でちゃう……っ」
 膨らんだ花芯を摘ままれ、閉じていた花の入り口を探られる。そこはもうしっとりと濡れてしまっているに違いない。
「聞いてやるよ」
 承太郎はそう言って女の甘い声に耳を傾けた。何度も絶頂を覚え込ませ、体を内側からほぐしていくこの行為に愉悦を覚えた彼は、お互いの頬を触れ合わせて目を閉じる。
 熱い呼吸と体温が何よりも愛おしい。縋り付いてくる姿が可愛すぎて、どうしてもやり過ぎてしまう感がある。それを見極めながら慎重に、それでいて強い快感を覚え込ませるように指の動きを速めた。
「やっ、ああッ……だめ……、いっちゃう……ッ」
 その声に蜜に濡れた芯を撫で回し、硬くなった乳首をつねってやる。甘ったるい喘ぎと共にぎゅうっと抱きしめられて、承太郎も狂おしい感情を吐息としてこぼす。
「今日は言えたな」
 恥ずかしがってなかなか言えないイクという言葉を、今回でようやく口にする出来たようだ。くったりと身を預けてくる夢主を抱きしめ、その頭を撫でていると嬉しそうにはにかむ顔と目が合った。
 この調子でいけば、きっといつかは繋がることが出来るだろう。その日を待ち遠しいと思う反面、加減出来ずに荒々しく求めてしまいそうで恐ろしい。
「やれやれ……」
 承太郎は困ったように呟いて相手の額へキスを落とした。


 時折、並走しようとやってくるイルカの群れや、悠然と泳ぐクジラの姿を波間に見ながら船はインド洋から紅海に向けて航海中だ。
 高く昇っていた太陽が水平線の向こうに沈み、薄闇が辺りを支配する頃になると船内に落ち着いた音楽が流れ始める。それまで赤と白のボーダーシャツにGパン姿だったジョセフがシャワーを浴び、タキシードに着替え、明るい色のドレスに身を包んだスージーQをエスコートして外に出る。フォーマルな装いが求められるその日は、そうして着飾った人々で一杯だ。
 船内で新しく出来た友人と食事を共にし、ダンスやカジノに興じて様々なナイトショーを観覧する。華やかな夜を誰もが笑顔で楽しむ中、承太郎はその騒々しい空間から逃げ出して人影のまばらな甲板へ足を向けた。
「はぁ……参るぜ」
 首元からタイを引き抜き、無造作にポケットへ押し込む。楽になった呼吸にホッとしながら無理矢理に連れ出した夢主の様子を窺った。
「おい、無事か?」
 隣でふらついている夢主の肩を慌てて引き寄せる。放っておくとそのまま海に落ちかねなかった。
「へーき、へーき、大丈夫だよ〜」
 彼女はそう言って無邪気な笑顔を見せるが、まったく平気でも、大丈夫でもなさそうな酔っ払いの生返事に承太郎は額を押さえた。
 ここに来る数時間前、仲間に誘われてカジノへ足を運んだまでは良かった。ルーレットやポーカーを楽しみながら世間話をしていると、自分たちが新婚夫婦だと知った口ひげのディーラーが、
「グッド! 若い君らに幸あれ!」
 そう言って一杯の酒を夢主に贈ったのだ。それを見た周囲の客からも次々に祝い酒を注がれて、彼女は断り切れずにただ飲み干すしかなかった。承太郎も何杯かは代わりに飲んだのだが、そうすると気前のいい客ばかりなのでまた酒を追加しようとする。
「もういい、充分だ」
 と残りはポルナレフたちに押しつけるようにして、二人はカジノから逃げ出す羽目になってしまった。
「気持ちいいね〜」
 酒で火照った顔を潮風が撫でていく。たおやかな夢主の姿は、誰の目から見ても艶めいて濡れ光るような色気があった。それに気付かないふりをした承太郎は、ふらつく彼女を支えて客室に向かって歩き始める。エレベーターに乗り、一転して静かな廊下を歩き、自分たちの部屋まで辿り着いた時にはホッと安堵したものだ。
「まったく……飲み過ぎだ。俺の居ないところで勧められても、絶対に飲むんじゃあねーぞ」
「んー……はぁい……」
 あくびを噛み殺したような声で返事をされて承太郎は渋い顔つきになる。このまま放っておけば初日と同じような事になるだろう。わずかな息を吐きつつ正面から彼女の腰に腕を回し、帯に手を掛けた。ぐっと密着する形に胸元からふふっと笑う声がする。
「承太郎、大好き
 甘ったれた声を放ちながら頬を寄せてくる。
「……この酔っ払いが……」
 唇に苦笑を刻みつつ、幼く愛らしいものを眺めるように目を緩ませる。引っ付いてくる相手をそのまま好きにさせて、承太郎は長い帯を解いた。
「ほら、手を上げろ」
「はぁい」
 素直に両手を挙げる夢主の胸元に手を差し入れ、するりと着物を脱がせた。帯と共にソファーの向こうへ放り投げると、夢主の髪に飾られた簪を引き抜いて無くさないようテレビの横に置いた。
「うーん……」
「おい、あまり力を入れるな」
 固く結ばれた胸紐と格闘する夢主を見かねて手伝ってやる。男の力で苦もなく解いてやれば夢主はふぅと息を吐いた。
「楽になったか?」
 頷く相手の顎を軽く持ち上げて、いくつもの酒杯に移って薄くなった口紅にキスをする。
「ぁ……ん、……」
 色っぽい声に混じって強い酒の匂いを感じた承太郎は、ふらつく腰を抱いて支えてやる。そうしながら長襦袢と小物を次々に取り払い、二人の足下へ落としていった。
「承太郎……」 
 肌着に裾よけと足袋、そして最後に残った下着をも床に落とした彼は、恥ずかしそうに胸を隠す夢主の体を掬い上げて寝室へ移動する。明かりのないそこに二人で潜り込み、ベッドの上でしばらく見つめ合った。
「お互い酔ってるな」
 それを言い訳にするつもりはないが、酔った頭であまり無体なことはしたくない。だがこのまま眠ることも簡単には出来ないだろう。
「あっ……」
 黒いスラックスの奥から足に硬いものが押し当てられて、夢主はそれが何かを理解する。酒に酔った顔をさらに赤くさせつつ身動ぐと、わずかに触れ合った部分がぴくりと反応を返してきた。
「誘ってんのか?」
 その言葉に夢主は恥ずかしそうに目蓋を閉じる。どちらにも取れるその態度に承太郎は微笑んで薄紅だけが残る唇を啄んだ。
「ん……」
 優しい口付けに癒やされていると、その内に舌先が唇をからかうように舐めてその先を促してくる。
 薄く唇を開いて招き入れると角度を変えて深く潜り込んできた。絡めてくる舌にそっと寄り添うと、すぐに吸われて甘く噛んでくる。
 お互いの舌をこすりつけて酒の味がする唾液を交換し合っていると、承太郎の手が胸を掴んできた。
「っ、……」
 柔らかさを堪能するように乳房は形を変えて何度も揉みしだかれる。不意に頂をきゅっと摘ままれると、くぐもった声が承太郎の口の中で響いた。
「随分と感じるようになってきたな」
 それは褒められているのだろうか? 不安になった夢主がそろそろと見上げてみると、どこか嬉しそうな顔をした承太郎と目が合った。
「私……もう受け入れられそう?」
 淫らな訓練のおかげで舌を入れられるキスにも慣れ、頑なだった下腹部も少しは綻んできたように思える。繋がりたいと思っているのは承太郎だけではないのだ。夢主だって愛しい人と早く一つになりたいと願っていた。
「さて、どうだろうな……。確かめてみるか」
 承太郎が唇だけで妖しく微笑んだかと思うと、されるがままに力を抜いていた夢主の両足をぐっと持ち上げる。
「ひゃあ……っ!」
 隠すより先に生暖かい舌先が秘部に触れて夢主は短い悲鳴を上げた。ぬるぬると舐め上げられるとその確かな快感に腰が震え出す。シーツを掴んで必死に堪える相手の姿をちらりと見ながら、承太郎は舌で包皮を剥いて花芯を露わにした。
「あっ、そこ……いやぁ……」
 日毎に行われる体の開発の結果、少しいじられただけでも快感が駆け上がってくるようになった。ぞくぞくする体の痺れを逃そうと背中を反らせば、その隙間に承太郎の手が潜り込んでくる。なだめるように撫でられても、今はもう切ないほどに苦しかった。
「ん、んんっ……だめ、あぁ……吸わないでっ」
 赤い突起を舌でほじくりだし、先端をちろちろと舐めては押しつけた唇で吸い上げる。ダメと言われたので甘く噛んでやれば、脚を震わせながら承太郎の顔を挟んで強く締めつけてきた。
「あっ……あぁっ、やぁ……」
 下腹部がきゅうっと熱くなって渦巻くような快感が襲いかかってくる。それに身を浚われながら達した夢主は、上がった息を繰り返して力を抜く。
「イけたか?」
「うん……ごめんなさい……」
 あまりの法悦に教えられた言葉が言えなかったことを悔いているらしい。承太郎はけなげな相手の様子に首を熱くしながら、ひくつく蜜口に長い指をあてがった。
「次は忘れずに言うんだぜ」
 そう言ってとろけた内側を探りながら、指を媚肉の中へ潜り込ませる。
「やぁ、待って……、あぁ……ん!」
 内部をかき分ける指の存在感に、達したばかりの夢主はまた身悶えなくてはならなかった。男の長い指がぬるついた柔襞を擦り上げて、女の感じる部分を暴き出していく。
「あぁ! いやぁ……、イク、イクからぁ……っ」
 身を縮めて逃げようとするのを押さえつけ、承太郎は容赦なく蜜路を撫で上げる。恥骨の裏のざらついた部分をくすぐると、ますます身を固くして縋り付いてくる。切なく喘ぐ夢主の痴態を目に焼き付けながら、ゆっくりと指を二本に増やした。
「……!」
 狭くあたたかい花筒に指がぎゅうぎゅうと締め付けられる。もはや声もなく震える夢主に承太郎はキスをしてその強張りを解こうとした。
「夢主……力を抜いて俺を見ろ」
 固く閉じた目蓋がその声でそろそろと開いていく。限界まで涙を湛えながら承太郎をそこに映すと、お互いがほっとした顔になった。
「痛いか?」
 首を横に振る夢主を見て承太郎は埋め込んだ指を小さく動かす。
「なら、気持ちいいか?」
 返事はなかったが、代わりに濡襞がざわめいて感じていることを教えてくれた。
「正直な体は嫌いじゃあねぇぜ」
「……本当? こんなにもえっちなのに?」
「ああ。好きな女の裸に興奮しない男がいると思うか?」
 完全に勃ち上がった雄芯をすり寄せて苦笑気味に笑う。それを見た夢主は安堵に包まれて、承太郎の首へそっと腕を回した。
「じゃあ……」
「いや、今すぐブチ込みてぇが……まだ無理だろうな」
 愛液でたっぷりと濡れてはいるが、指二本をようやく受け入れたばかりだ。もっとほぐして、もっと乱れさせてからでも遅くはないだろう。
「いいから、ほら……イけよ。何度でも付き合ってやる」
 でも、と渋る夢主の内側を刺激して再び快楽の中に叩き落とす。あふれ出る蜜をぐちゅぐちゅとかき混ぜながら、陰茎に見立てた指で膣襞のあちこちを撫で上げた。
「あっ、ああぁっ……待って……まってぇ……」
 何度も挿し抜かれて、奥や感じる裏を刺激され、目眩がするほどの快感に押し上げられる。抗えない疼きが腰の奥から広がり、男の指を何度も締め付けた。
「……じょ……たろ、っ」
 挿送される指に煽られるまま、夢主は切なく甘い声で彼を呼びながら再び絶頂に達した。
「ここでもイけるようになったな」
 とろけた顔と秘部をじっくりと観察し、愛液を指に絡めながら引き抜く。それを飴でも舐めるかのように舌で味わいながら綺麗にしていると、力なく横たわっていた夢主がふらつきながらも身を起こした。
「そのまま寝てろ」
 という言葉を無視して、彼女は承太郎の胸へ飛び込んでくる。おい、と声を掛けるより先に敏感になっている部分を握られて承太郎は息を詰めた。
「私も……したい……」
 何をとは問えずに驚きに満ちた目で見つめていると、夢主はすぐに顔を逸らしてベルトに手を掛けた。
「よせ、俺はいい」
 制した手を思いの外に強い力で押し返される。あっという間にベルトを緩め、スラックスの留め金も外されてしまった。
「承太郎ばっかりズルい……私だって、好きな人には気持ちよくなって欲しいのに」
 潤んだ目から一筋の滴が流れ落ちるのを見てしまうと、言葉が詰まって何も言えなくなってしまう。この世で恐ろしいのは死ではなく、彼女の涙だ。
 拒絶も抵抗も出来ず、ただ苦悶する表情で見つめていると、それを観念したと勘違いした夢主は意気込んだ表情で下着の奥へ手を伸ばす。
「……!」
 しかしすぐに表情は崩れ、羞恥に塗れた顔で眺めた。
「こ、こんなになるものなの?」
 硬く、熱く、そそり立つ淫茎を正面から見るのは初めてだ。凶器のような太さに、確かにこれでは痛みで泣いてしまうのも頷けた。
「お前が握るからだろーが……」
 半ばやけくそになりながら承太郎は手で額を覆う。この場に帽子がないのが何とも不便だった。
「ごめんなさい……でも、本気なの……」
 気持ちよくなってもらいたい、ただそれだけなのだと夢主は顔を寄せる。ごくりと喉を鳴らしたあと覚悟を決めてそっと口に含んだ。
「……っ」
 可憐な唇が先端に触れた瞬間、承太郎の体がわずかに跳ね上がる。遠慮がちに這う舌の感覚はもどかしいのに、これまで感じたことのない極上の快楽が押し寄せてきた。
「おい、少しは……待て……」
 そう言って視線を向けたのが間違いだった。男の股間に顔を埋めながらこちらを見上げ、張り詰めた先端にキスをする一瞬があまりに淫らだ。
「……ぐ、」
 獣のように低く唸って視界を閉じる。しかし、そうすると今度はダイレクトに舌の動きを感じてしまって余計に追い詰められる状態になってしまった。
 先走りを舐め取って、そろそろとくびれを舐め上げられる。指で熱い茎肉の形を確かめるように撫で下ろしたかと思うと、子種がたっぷり詰まった陰嚢に触れて怯えたように引っ込んだ。初めての口淫に戸惑い怯え、それでも拙い愛撫を繰り返す相手に強い愛情と激しい劣情が同時に込み上げてきた。
「俺は……もう知らんぞ……」
 二度も忠告したのだ。それでも止めなかったのは彼女だ。承太郎は噛み締めていた唇から熱い吐息をこぼすと、夢主の頭を片手で押さえつけながらぐっと身を起こした。
「ン……ッ!」
 その反動でより深く咥え込むことになり、夢主は堪らず喉奥で悲鳴を上げる。それをかき消すように肉茎が押しつけられ、不意に引き抜かれたかと思うと、また再び喉を犯してくる。
「う……ん、ぅっ!」
 息苦しさにシーツをぎゅっと掴み、夢主は初めて承太郎が見せる荒々しさに呆然となった。口調は乱暴だがいつだって優しかった彼をここまで追い詰めてしまったことを申し訳なく思う。
 だが、その一方で濡れた膣奥がきゅうと狭まり、自分でも分からない確かな快感が込み上げてくるのを感じた。
「っ、ぅ……ん、んっ」
「ッ……目、閉じてろ」
 その言葉の後で何度か挿送を繰り返し、これまでで一番深く喉を突いてから勢いよく顔を引き離す。唾液に濡れた茎肉から白濁を噴き上げて、夢主の顔に最後の一滴までを浴びせかけた。
「……!」
「く、」
 美しいものが穢されるその様子に、承太郎の中で凄まじい罪悪感が沸き起こる。
(何が大事にする、だ)
 溜め込んだすべてを吐き出した体が余韻に痺れる中、我慢出来なかった己を叱咤する。暗い表情になる承太郎の足の間で夢主は涙をこぼしていた。
「うぅ……苦い……」
 初めての口淫で顔を汚された上、青臭い精の味まで知ってしまったらしい。承太郎はすぐに夢主を抱き上げると、バスルームへ飛び込んでいった。




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