「露伴先生!」
友人である康一君の声に笑顔で振り返った。しかし、彼の後ろにいるメンツを見て大きく顔をしかめてやる。それを見た康一君は気まずそうにしていたが、他の奴らは悪びれることもない。その図々しさに米神が引き攣った。
「やあ、康一君。どうかしたのかい?」
「いえあのー…よければ先生の家にお邪魔したいな、と」
申し訳なさそうに言われた内容に今度は口元が引き攣った。
「…でも今日はバレンタインだぜ?彼女はいいのかい?」
あのプッツン気味な女の所に康一君を送るのは嫌だが、こいつらを家に上げるよりはマシである。そう思いながら発した言葉に無視していた後ろの奴らが姦しく話し始めた。
「夜にデートするらしいっすよー」
「不健全だな!」
「そ、そんなことないよ!」
「でも私由花子にどんな下着がいいか聞かれたよ?」
勝負下着ってやつだね!なんて飄々と爆弾発言を落とした名前に場の空気が固まる。しかし名前は気にした様子もなく青春だねえ、なんて呑気に笑っていた。その姿に女としての恥じらいはないのか、とか、お前も同い年のガキだろう、とか言いたいことは多くあったが大きく息を吐くことで飲み込む。これ以上こいつらに構っていたくない。
「そうか、楽しんできなよ。ぼくは一人で家に帰る」
一人で、というところをわざわざ強調したというのに馬鹿どもは気づかないのか、なんでだと騒ぎ始めた。
「うるさい!」
流石に怒鳴れば騒ぎは止まったが今度はジトッとした目で見てくる。
「いいじゃないっすかー」
「お前が言うな!お前を一番あげたくないんだ!」
もちろんアホの億泰も上げたくないがな!しかし仗助の奴が一番嫌なのは列記とした事実だ。康一君はもちろん構わない。名前は…まあ、上げてやらなくもないが。こいつらと一緒の時点で論外だ。
「だってよお、あんたの所チョコ沢山あんだろ〜?」
億泰の言葉に何を目当てに来たいと言い出したのか見当がついた。編集部に届いたぼくや作品宛のチョコのお零れがほしいんだろう。
「生憎だな。ぼくの所にチョコが届くのは来週だ」
その言葉に全員が顔をしかめる。ふん、いい気味だ。
「なんだよ、期待してたのによー!」
「おれアイス我慢したのに…」
「億泰アイス好きだよねー。この寒いのに」
「寒くてもアイスはんまいだろ!」
「こたつに入って雪見大福食べるのが好き」
「ああ、あれ美味いよなー」
「ぼくはガリガリ君かなあ…」
こっちのことを忘れて話が脱線していく馬鹿達に背中を向けて歩き出す。康一君に挨拶しようかとも思ったが、藪蛇になるのも困りものだ。
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