2013バレンタイン | ナノ
2月14日それはバレンタインデー。
ようやく家の前までたどり着いた。大きく一つ息をついて重たい荷物を持ち直す。がさりと揺れた袋の中ではカラフルな物体が我先にと自己主張をしているようだった。

疲れ切った状態で家に入ると、そこには元凶である我が兄がこたつに潜ってのんびりと読書に励んでいた。


「…ただいま」

「おう。…機嫌悪いな」

「どっかの誰かさんのせいでね!」


持っていた紙袋をドンッと勢いよく乗せれば承太郎の眉間にしわが寄った。


「なんだこれ」

「君宛のチョコレートだよ!」


承太郎は高校に入ってから毎年この日になると休むのだ。それはもちろんこの大量のチョコレートに辟易してのことだった。中学生のころはまだ嫌々ながら受け取っていたが、高校に入って不良化してからはボイコットしているのである。
今まではそれで平穏無事に過ごせていた。(もちろん翌日や前日に渡す猛者もいたが。)しかし、今年は違ったのだ。
どこから情報が漏れたのかはわからないが、私という妹がいることが承太郎ファンに知れ渡ったらしい。家に行けば嫌がられるが当日に渡したいお姉さま方にとっては渡りに船だったのだろう。校門を出てから何人に引きとめられたか。ありがたいことに一人の方が大きな紙袋をくれたから持って帰ってこれたものの、そうでなかったらこんなことでスタンドを使うところだった。


「あー、疲れた」


重たい荷物を持ったこともそうだし、愛想笑いで顔面筋も疲れた。嫌んなるね全く。


「…悪かったな」

「本当にね」


普段なら笑顔で流してもやれたが、今日はさすがに無理だ。これからDIO達用に焼いたクッキーやらを詰めに行こうと思っていたが、それすら嫌になってくる。もう向こうでそのまま皿に盛ってもいいかな…。そんな不精なことを考えながらこたつに伏せる。


「…怒ってるか?」


承太郎の言葉にチラリと目だけ向ければ、分かりづらいが少しばかり狼狽したような、申し訳なさそうな顔をしていた。その姿に少しばかりきゅんとする。それと大きく反比例するように怒りが急激に減っていったが、その代わりに悪戯心がわいてきた。
何も言わずにいると、口籠った承太郎の視線があちらこちらに揺れる。


「承太郎」

「なんだ」


私の声に敏感に反応した承太郎に笑いを噛み堪える。


「喉乾いた」

「…いまお茶淹れてきてやる」


急須を持って出ていく承太郎の背中を見送りながら、これはちょっと面白いぞ、とにやりと笑ってしまった。…思っていた以上に根深い怒りがあるのかもしれない。

買い物から帰ってきたホリィママも初めはそんな私たちを不思議そうに見ていたが、事情を説明するとたまには意地悪してもいいんじゃないかと笑っていた。