「…女性というのは何故こうもイベント事が好きなんでしょうねえ」
ぽつりと呟いた皮肉は自分たちの世界に没頭している彼女たちには届かなかったようだ。いや、一人苦笑した名前には届いていたのかもしれないが。
キッチンには甘い香りが充満していた。机の上には所狭しと煌びやかなリボンやら袋やらが散在している。
「どうどう!これ可愛くない!?」
「めっちゃ可愛い!」
「はーい、じゃあトッピングしましょうかー」
きゃあきゃあとはしゃぐ美女二人に、一番落ち着いて次に促す少女。どちらかと言えば少女の方が騒いでいてもいいはずだが、名前に関してはあまり違和感がなかった。
「名前!DIO様って甘いの平気だったかしら」
「平気ですよー」
「ねえマライア!このリボン素敵よ!」
「ほんとだ!私それ使おうかしら!」
いっそう騒がしくなった二人に自然と眉間にしわが刻まれる。ふと目が合った名前がまた困ったように笑った。
「さ、そろそろ急がないと固まりませんよ」
「あ!大変!」
時計を見た二人がやっとチョコに向かい合ったのを確認してそっと息を吐いた。
「お疲れ様です」
「いえ、テレンスさんこそ付き合ってくださってありがとうございます」
二人取り残されたキッチン。声をかければ名前は疲れも見せずにほほ笑む。ちなみにミドラーとマライアの二人は夜に向けて服を新調すると慌ただしく出て行ってしまった。
「全く…後片付けもせずに行ってしまって…」
見渡す限りごちゃごちゃと物が溢れ返った惨状に目を覆いたくなる。しかし、それでは何も解決しないのだ。大きく息を吐いて片づけに入る。せめて食事の準備ができる状態にしなくては。
「洗い物やりますね」
「疲れたでしょうし座っていて構いませんよ」
「いえいえ、やらせてくださいな」
「…では、お願いしますね」
「はーい」
止める間もなく動き始めた名前に出来た子だと一人頷きながら自分も頑張らなくてはと仕事に没頭するのだった。
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