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とことん付き合ってやろう、と思ったとはいえ誰が参加しているのか皆目見当もつかない。デーボさんとヴァニラは絶対に参加してなさそうな気もするが。その二人に聞いたとして、そう素直に教えてくれるものだろうか。
どうしようかなあ、と思いつつ庭に出る。ここならあまり人は居ないし、冷静に考えられると思ったからだ。木陰に腰を下ろして腕を組む。ホル・ホースさんは確か仕事があって暫くいないと言っていたから除外していい。ボインゴオインゴ兄弟の様に館に住み着いていない面子も同じく。つまり、可能性がありそうなのは…。
マライヤさんとミドラーさんの女性コンビ、ダービー兄弟くらいか。何度考えてもデーボさんとヴァニラは嫌がりそうだし。つまり、この四人に会って辱めに耐えて意図を聞き出せばいいわけだ。
…いや、キスされる前に避ければいいのか?いやでもそれもどうよ。女性陣からのキスは甘んじて受け入れるべきだろう。というか何時だってウェルカムである。ダービー兄弟は…避けたら後が怖い気もするしなあ…。さっきまでの意気込みはどこにやら。さっさと逃げてしまおうか、なんて考えていると猛々しい羽音が聞こえた。
バサリ、と羽ばたきながら私の肩にペットショップが止まる。肩に食い込む爪が少々痛いが、意外とクリッとした金色の目に口元が緩んだ。

「珍しいねえ、どうしたの?」

ふかふかの体をそっと撫でれば、目を細める。可愛いなあ、と思いつつ和んでいると、クエッ!っと一声鳴いて私の頬を突っついた。

「…ごめんね、何も食べ物持ってないんだよ」

でも私は食べないでおくれ、と苦笑すれば、ジト目になる。…鳥のくせに表情豊かな奴だ。ペットショップは呆れた様にまた鳴くと、今度は先程よりも優しく私の頬を突っついてから飛び立っていった。
その姿を見送りつつ、頬に触れる。…まさか、ペットショップ、まで?ちょっと痛い突き跡を撫でつつ、本当にいったいなんなんだとため息を吐いた。


「あ、デーボさんとヴァニラだ」

珍しい組み合わせ…と言うわけでもない。案外この二人仲がいいのだ。…主に筋トレ仲間的な意味で。二人とも仕事に必要とかDIOの警護のためとか言ってるけど、実質趣味だと思う。

「おお」
「また来たのか」

嫌そうな顔をするヴァニラに舌を出してからデーボさんに引っ付く。

「ねえ、今日は一体なんなのさ」
「ああ?」
「皆して人の頬にキスしてさー…。どういう悪戯なの?」
「…そうだな」

顎に手を当てて少し考えたデーボさんが、ひょいと私を持ち上げる。目を丸くしている私にサッとキスをしてきて、口が開いてしまった。

「不細工な面だな」
「元からだよ。…で、え?え?」

私今日何回驚きの声を上げるんだろう、と思っていると髪の毛を引っ張られる。痛い!と文句を言う前に、これまた頬に柔らかい感触。視線を向ければ素晴らしく嫌そうな顔をしたヴァニラが居た。

「…そんな嫌ならしなきゃいいのに」
「うるさい」

しかめっ面のまま早足で去って行ったヴァニラにイラりとしていると、デーボさんに下ろされる。

「台所にでも行ってみたらどうだ」

それだけ言うとデーボさんもさっさと歩き出してしまい、広い廊下にぽつんと佇むことになった。

「…本当一体なんなんだ」

今度こそ口に出してみるが、誰も答えてくれる人は居ない。私はデーボさんの言葉を頼りに台所まで向かった。


「あ!来たわね!」

台所につくと甘い匂いと、可愛らしい女性が二人笑顔で迎えてくれた。出会いがしらに来るかと身構えたがそんなことはなく、椅子に座らせられる。…この二人は違うのか?と思いつつ腰を下ろすと、菓子を持ったダービー兄弟も現れた。

「憔悴してますねえ」
「ええ、まあ」
「逃げるかと思ったけれど…頑張ったね」
「ははっ…」

ここに来るまでにもうどうにでもなれと言う心構えは出来てます、と心中で呟きつつ頭を撫でるダニエルさんに乾いた笑い声を返す。

「じゃあ」
「まずは私たちね!」

何時の間にか両脇に回ったマライヤさんとミドラーさんがちゅっと音を立ててキスをくれる。…あ、今凄い癒された。美人さんってすげえ。
そんな馬鹿なことを考えている間に、右にテレンスさん、左にダニエルさんが来て同じようにキスをした。

「どうかな?」
「ダニエルさんの髭がこそばゆかったです」

肩を竦めつつそう言えば、それはすまなかったね、と笑われる。…なんか大人の余裕的な?微妙に悔しくなった。

「で、結局なんだったんです今日は」

お菓子を囲みつつ、皆でお茶を啜ったところで切り出す。四人は顔を見合わせて、にこりと笑った。

「茉莉香に親愛の情を表そうと思いまして」
「はい?」

ごそごそとテレンスさんが取り出したのは、以前私がここで読んでいた小説だ。前にそれを読んでいた時DIOと馬鹿な事をして笑ったのは記憶に新しい。

「ラバーソールが珍しく本を読んでたかと思えば、いきなりあなたにやってみよう、と言い出しましてね」
「頬だけじゃなくて皆別々の所でも面白いかと思ったんだけどお」
「DIO様にばれたら怒られそうだしねー」
「それに我々が君に贈る意味としては親愛が一番相応しかったからね」

まるで台本があるかのように順繰りに説明していく四人の顔を見回す。四人とも微笑みを浮かべていて、文句を言おうにも口が開かない。
深々とため息をついて、口元を手で覆う。今日キスをしてきた面々と、その表情を思い出して、何とも言えない気持ちになった。一名を除いて、皆それなりに優しく笑っていたような気がしてくるから、怒るに怒れない。ついでに言えばその一名だってその意味を知っていてやってくれた訳で。

「さて、このお返しは私もキスで返せばいいんですかねえ?」

漸く口を出た私の言葉に、四人はニコリと笑い返した。



頬のキスは親愛
全員に返しに行くのって案外大変だよなあ。そう思いつつ、頬が緩むのを隠せない。