彼は何を言うでもなく茉莉香の腹に顔を埋めた。服越しに感じた体温にそっと息を吐くプロシュートを茉莉香は撫で続けた。
「馬鹿見てえだな」
「え?」
「馬鹿見てえな感傷だよ」
吐き出すように呟かれたその中にどんな意味が込められているのか、茉莉香には分からない。ただ、日頃真っ直ぐに揺らぐことなく立っているような彼が、今だけは酷く脆く見えた。
「ごめんね」
何に対して謝ったのか。それは分からないが自然と口について出た。プロシュートはその言葉に茉莉香を見上げる。そして困ったように微笑んだ。
「なんでお前がそんな泣きそうな顔してんだよ」
「なんで、だろうね」
プロシュートの手が茉莉香の頬に触れた。大きな手の感触にそっと目を閉じる。これでは立場が逆だな、と茉莉香は思った。ほんの少しでも救いたいと思ったのに、救われているのは自分の方だと。
「…お前も、似てるよ」
「え?」
「そうやって、オレの為に泣きそうな顔するところがな」
「…ママン、って呼んでもいいよ?」
「はっ、オレの母親はこんな貧相な体つきじゃねーよ」
「失礼だなあ」
いつものように、軽口が交わされる。ほんの少し軽くなった空気に茉莉香はやっと自然に笑えた。
そんな茉莉香を見てからプロシュートはまた腹に顔を埋める。
「ねみい」
「部屋戻る?」
「面倒くせえな」
「風邪ひくって」
「布団出せよ」
「それより部屋送ってあげようか?」
「ベッドつめてえから嫌だ」
「我儘だなあ」
茉莉香が笑うのと連動して揺れる体にぐりぐりと額を擦り付けるプロシュートは大きな猫の様である。猫と言うには獰猛で、優雅すぎるが。
「なあ」
「なあに?」
「つまんねえ話に付き合ってもらって悪かったな」
「ま、たまにはいいんじゃない?」
四六時中強くなくたって、いいんじゃないかと笑えばプロシュートは眉をしかめた。
「他の奴らには言うなよ。メローネあたりが煩そうだからな」
「はいはい」
プロシュートの髪をもう一度梳くように撫でて、茉莉香は取り出した布団をかけてやる。自分にも一枚巻きつけて、二人はそっと目を閉じた。
茉莉香の意識が落ちる寸前、何かを確かめるように腕に力を込めた彼の背を、優しく一度撫でて。そこから先は、覚えていない。
腹へのキスは回帰あの柔らかな日々を、小さな彼女に映し出して
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