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「キスにさあ、意味があるって知ってた?」

ページを捲りながらなんとなく問いかければDIOは何とも言えない顔をした。

「何その顔」
「いや…お前がそんな乙女チックなことを言うのかと驚いてな」
「失礼な。どっからどう見ても乙女じゃないか」
「乙女…?」

DIOが不躾な視線を送ってくる。その先にめっきり成長する気がない胸があるのが分かった瞬間頭の下にあったクッションを投げつけた。

「物を投げるな」
「煩い。また海底で100年眠らせてやろうか」
「御免こうむる」

顔を顰めたDIOに舌打ちをしてまたページを捲る。

「それにしても珍しいな」
「何がー?」
「お前がそんなラブストーリーを読んでることがだ」
「へ?」

一体何言ってんだこいつ。いつそんなもの読んでるって言ったんだ。私の反応にDIOが首を捻った。

「先程の質問からそうだと思ったのだが…違うのか?」
「ああ、違う違う」

ひらひらと手を振って、おおまかなあらすじを説明してやろうと口を開く。

「これはね、サスペンスだよ」
「サスペンス?」
「うん。もしくは昼ドラ」

昼ドラ?と不思議そうにするDIOがちょっと可愛く見える。帝王の口から昼ドラとか笑いを禁じえませんわー。

「ある奥さんに横恋慕する男が居て、奥さん不倫に走っちゃって、それを知った旦那も浮気に走るんだけど、それも実は男の罠で…」

一通り話し終えるとDIOが呆れた様にため息を吐いた。

「お前は何を読んでるんだ…」
「いや、なんとなく手に取ったら案外面白くて」

いやあ、愛憎入り乱れて息もつけませんわ、と笑っておく。

「で、さっきのキスの意味とはなんなのだ」
「んー?ちょいまち…」

先程の箇所までページを戻す。

「えーっと…なんかキスする場所にはそれぞれ意味があるんだってさー」
「ほう…」
「髪なら思慕とか頬なら親愛とか…色々考えるねえ」

わざわざ20以上も説明しながらキスをする描写は中々滑稽で面白いので嫌いではないが。でも流石にちょっとくどい気もするなあ。

「あ」

上から伸びてきた手に本が取られる。あーと間抜けな声を上げつつ高く上がっていくそれを見送った。

「ふむ…」

本を読むDIOは中々格好いいが、持っている本の内容を考えるとちょっと笑える。本を読むために伏し目がちになっているDIOを見上げながら、やっぱりイケメンだなあ、と惚れ惚れしてしまった。ただ、首と体の境目は如何かと思うが。見慣れてしまっている痛々しい傷跡。痛くはないらしいが、馴染む日もないのだろう。
目を通し終わったのかDIOが本を閉じる。あ、栞まだ挟んでないのに。

「おい茉莉香」
「はいー?」

やる気のない声で返事しつつ、今日のおやつについて思いを巡らせる。あ、モンブランが食べたい。季節じゃないし無理かなー…。ていうかこっちに栗ってあるのだろうか。
意識を違う方向に飛ばしている私に構わずDIOは私の体を抱き上げて膝に乗せた。逆らわずに背後にある厚い胸板に頭を預ける。

「モンブラン食べたい」
「テレンスに伝えておこう」
「よろしくー。っていうか頭重い」

私の頭の上に顎を乗せるDIOに苦情を付けつつ、大きな手を弄ぶ。すらっとした指だこと。羨ましい。

「どこがいい?」
「は?」

私にキスをされるならどこがいい?と私を見下ろしてDIOがにやりと笑った。