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何言ってんのこの馬鹿。まずそう思った。次に、あ、暇なんだな、と気づく。そういやさっきこの人自分の本読み終わって手持無沙汰そうだったわ。
面倒くさい餌与えっちゃったかなあ、と後悔しつつどこがいいか考える。

「んー…どこかなあ」

DIO自体どちらかというとスキンシップが多い方なので挨拶を兼ねて頬や額にキスをするなんてザラだ。しかし、そういった意味を持つと考えると、なんだか気恥ずかしくて真剣に考えられない。大体キスをするのが親密な仲だという大前提があるからこっ恥ずかしいものばかりなのだ。
…とはいえDIOのことだ。言わなければ諦めないだろう、しつこい所あるし。
少しの間悩んで、適当にかわすことにした。

「じゃあ、足の甲で」

足の甲へのキスは隷属。プライドの高いDIOのことだ、やる筈もない。
思っていた通り行動に移して私をからかおうとしていたのか、小さく舌打ちをされた。そんなDIOの反応に出し抜いてやったと言う優越感から笑いが浮かぶ。

「で?聞いたからにはやってくれるのかな?ん?」

にやにやと笑いながら見上げれば、ムッとした顔のDIO。どうせ出来ないだろうと更にムカつきそうな笑みを浮かべてやる。

「いい度胸だ」

押し殺したような低い声でそういうと、DIOは私を膝から下ろして、私の前に跪く。目を丸くしている内に靴と靴下を一気に引き抜いてDIOが顔を近づけた。

「ちょっ!ストップ!ストップ!」

慌てて声を掛ければニヤリとした笑みを向けられる。

「どうした?して欲しいのだろう?」
「いい!やっぱいい!」
「そう言うな」
「私が悪かったから!止めろって!」

ぶんぶんと足を上下すれば、やっとDIOが手を離した。それに一息ついて睨み付ける。

「びっくりした…」
「貴様が言い出したことなのに何を言う」

鼻で笑うDIOに少々殺意が湧く。くそう、やってやったと思ったのになあ。唇を尖らせる私にDIOがくつくつと笑う。

「では、お前がするか?」
「君に隷属なんかしてたまるか。どんな無理難題押し付けられるか分かったもんじゃない…」

クッションに顔を押し付けながら声を絞り出せば、更に笑われる。ああくそ、ムカつく。

「ではどこならいいのだ?」

その言葉にクッションから顔を上げてDIOを見る。未だに跪いたままの格好だから、珍しく見下ろす形になった。
…どこならいい?
視線を彷徨わせながら意味を思い浮かべていく。彼に似合うのはやはり足の甲や脛だろう。隷属や服従。それは帝王たる彼に相応しい意味合いだ。きっとヴァニラ辺りが喜んでやるに違いない。崇拝の意味があるつま先はプッチだろうか。
だが、しかし。

「そうだな、額とか?」
「額?」
「うん」

額の意味は、友情と祝福。うん、私たちの間には相応しかろう。

「それでは普段と変わらんな。詰まらん」
「別に普段はそんな意味考えてしてないじゃない」

希望とは違ったのか拗ねたようなDIOに笑いかける。手にしていたクッションを放り投げてDIOへと手を伸ばした。

「似合うのはやっぱり脛とか足の甲かとも思ったんだけど、私たちはそういう関係じゃないじゃない」
「…まあな」
「それにね、私はそういう意味を考えたら君の…首から下にはキスしたくないね」

ピクリとDIOの肩が揺れる。見上げてくるDIOの瞳を見つめ返して。

「だって、それは君じゃないもの」
「これは私の肉体だ」
「でも、ジョナサンさんのものでもある」

そう、彼の肉体は彼の物であって、そうではない。キスをする部位に意味があると考えるなら、やっぱり私は彼だけのものである所にしたいのだ。
眉間に皺を寄せるDIOの前髪を掻き揚げる。形の良い額に納まるハートを外して放り投げた。

「君に幸せ有れ」

額に口付けて、離れる。しかし、回ってきた手にまた引き寄せられて。私の体温よりも少し冷たい唇が額に触れる。

「お前にも幸せが訪れるよう…わが友よ」
「…ありがとう」

少し照れたように目を逸らすDIOの額にもう一度口付けた。



額へのキスは祝福
君が幸せであるようにと
(そしてその隣に私が居れたら、それは)