引いているのが分かったのか少々傷付いた顔をするシーザーに苦笑しつつ、座りこむ。今更だが立ち話というのもなんだ。隣を叩けばシーザーも隣に座る。抱きしめられた時にも思ったがいい香りがした。…洗いたての洗濯物の様な、シャボン液の匂いだろうか。
「それにしても、漫画か…」
「やっぱりショックでしたよね」
今になって少々後悔し始める。うーん、誤魔化しておけばよかったかな。
「まあな。でもまあ、冷静に考えたら吸血鬼が居るわ、柱の男なんて存在が居るわ…漫画みたいだと思わなくもないな。波紋を知るまで、そんな世界があるとも思ってなかったし」
「ああ、ぐれてたんですっけ」
「…そう言われちまうと恥ずかしいがな」
目を逸らすシーザー。うん、黒歴史って奴だね!
「でもまあ、茉莉香も苦労するな。ジョジョ達とDIOの板挟みなんて」
「そうですねえ。…何も言わないんですか?」
「何がだ?」
「…DIOを救おうとする私に、何か言いたい事は?」
ジッと見つめ合う。晴れ渡った空の様なその瞳は、上手く読めない。それでも、DIOは彼の祖父を殺した張本人だ。色々と思う所もあるだろう。けれど、シーザーは肩を竦めて笑った。
「何も」
「本当に?」
「ああ、オレは君の努力を笑いも、否定もしないさ」
「あなたの親友の悲願成就を邪魔しようとしているのに?」
真っ白な空間の中彼が笑う。
「…ああ、それでもオレは君を尊敬する」
「随分と心が広い」
「生きていればオレもジジイだからな。それに」
「それに?」
「…命を賭けてでも親友を救おうとする気持ちはオレにも分かる」
ああ、そうか。彼もまた。
「…お互い手の掛かる友を持つと苦労しますね」
「全くだ」
ニヒルに笑った彼の目はそれでも優しいもので。
「さあ、そろそろお帰りの時間だバンビーナ。…いや、シニョリーナかな?」
「どちらでもお好きな方で」
「ははっ、またいつか会おうシニョリーナ」
「ええ、また」
立ちあがったシーザーは私の手を取って立ちあがらせてくれる。紳士な事だ。
「…君の行く道に多くの幸福が有る事を」
「ありがとうございます」
未だに繋いでいた手を離そうとすれば僅かな抵抗。不思議に思う間もなく引き寄せられて。可愛らしいリップ音と共に指先にキスを一つ落とされた。
「じゃあな」
「…祖父には相変わらず女たらしだといつか伝えましょう」
そう言えば困った様に笑う彼の目はやはり―。
…気付けば心配そうに私を見る承太郎が居た。パチパチと目を瞬かせる私に承太郎が訝しげな顔をする。
「…どうかしたか」
「…ううん、よく寝たなあって」
重たい身体を起こして車窓から見上げた空は、彼の目と同じ色をしていた。
…あれ、もしかして私幽体離脱してたんじゃあないか?フと気付いて 嫌な汗が出そうになったが、不思議と寝る前に比べて体調がいい。もしかしたら彼のおかげかもしれないな、なんて笑ってしまう。
また、と言ったけれどまた会えるのだろうか。出来る事なら是非また会いたい事だ。私の全てを知っている空の様な眼をした彼に。もう一度目を閉じれば、あの優しいせっけんの香りがした気がした。
指先へのキスは賞賛何時だって、頑張る君の側で見守ってるぜ?可愛らしいシニョリーナ
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