ファー帽子の男について歩くが私は何処に向かうのか何をするのか全く分からない。ペンギンさん達に何処に行くのかと聞いても「行けば分かる」と言うだけで結局教えてくれなかった。
私だけが目的地を知らないまま歩く。途中、昨日と同じで賞金首が帽子の男を狙って襲いかかってきた。その男達をペンギンさん達が倒していく。そこも昨日と全く同じだ。
ペンギンさん達に敵わないと思った何人かの男達が女の私なら何とかなるだろうと思って襲いかかってくるが、能力を発動しそんな男達を縛りあげ動けないようにしていく。
ファー帽子の男は戦おうとはしない。それはペンギンさん達がファー帽子の男の代わりに倒していくからしょうがないのだが
私はこの目でファー帽子の男が戦う姿を見たいと思っている。ファー帽子の男が戦うことでこの男の能力がどんなものか分かるかもしれないからだ。昨日、私とシャチさんを入れ替えたあの能力がどんなものなのか知りたい。
そんなことを思いながら歩いているとだんだんと人通りが多くなり大きな建物が表れた。
ここにいる大勢の人達はこの建物を何らかの目的があり此処にいるみたいだ。私は見まわしてから顔を上げ建物を見る。建物には看板が飾られその看板には“HUMAN”の文字が書かれている。
“HUMAN”日本語だと“人間”の意味をもつ英語だ。…英語で書かれているってことはこの世界では英語を使っているってことなのだろうか。
看板の“人間”の意味も気になるが、英語が使われていることに驚きまじまじと看板を見つめていると
「おいサヤ中に入るから突っ立ってんな」
「あっ、はい」
シャチさん達が建物の中に入ろうとしていたので私は急いで彼等の後を追った。
建物の中に入りついた場所はステージがある大きなホールであった。ファー帽子の男はステージから近からず遠からずの真ん中の席に座る。ペンギンさんはファー帽子の男の左隣、シャチさんとベポさんは後ろの席に座る。私はシャチさんの隣りにでも座ろうと思い後ろに行こうとする。
「お前はおれの隣りに座れ」
「えっ?」
まさかのファー帽子の男の命令に耳を疑う。えっ、今「おれの隣りに座れ」って言ったよね?何で?訳が分からず動かないでいたら
「ボサっとするな。さっさと座れ」
「は、はい!隣り失礼します!」
ファー帽子の男にもう一度言われ、私はささっと素早い動きでファー帽子の男の右隣に座る。後ろから笑い声が聞こえたがこの声はシャチさんのものだろう。笑う場面じゃない
しかし今から一体何をするのだろう。ステージがあるってことは今から劇でも見るのかな?そんなことをしていたら前の席に座っている夫婦の会話が耳に入ってきた。
「今回は良い人間がいるかしら?」
「それは今からのお楽しみだろ」
「私人間の男が欲しいわ。どんな肉体労働にも倒れないで働く人間の男」
「いるといいな。今回は沢山金を用意したから粘ってみるか」
買い物を楽しもうとしている夫婦の会話。しかしその内容はおかしい。
私はハッと昨日、私に襲いかかってきた男の言葉を思い出した
−こいつは人間屋(ヒューマンショップ)に売り飛ばすか−
昨日の男の言葉、
人間、“HUMAN”の意味を持つ看板が飾ってある建物、
そして建物内出の今の夫婦の会話
まさか此処って…
全身から血の気が引くのを感じた。そして体が震える。
私の考えが間違っていなかったら此処は…!「やっと気付いたのか」
隣りを向くとファー帽子の男が少し笑みを浮かべていた。
「…貴方は、此処がどんな場所だか知ってて来たんですか?」
口に出した声は震えていた。ファー帽子の男に問うと
「知らなきゃこんな場所こねェだろ」
その言葉に私はカッとなる。そして立ち上がり出入り口へ向かおうとする。しかしファー帽子の男に腕を掴まれ進むことができなくなる。
「何処に行くつもりだ」
「船に戻ります」
「信じられるか」
「ちゃんと船に戻ります!だから手を離して!」
思った以上に大声を出してしまい、私の声はホールに響いた。注目を集めてしまったかもしれないがそんなの今はどうでもいい。「此処から出なきゃ」その思いが私の頭の中を占める。
此処は人身売買を目的とした建物だ。
人が人を売り、人を買う場所
昨日のことを思い出す。体力が消耗しボロボロの状態の人の上に乗っているあの男のことを。女性をペットのように連れ歩いているあの光景を
思い出しただけでも気持ち悪いのに、私は今人が奴隷として売られる場所にいるのだ。
そして此処にいたら人が売られていく瞬間を見なくてはならない
それだけじゃない此処にいる人達は人身売買を悪いなんて思っていないから此処に来たいるのだ。悪いと思っていないから人を買おうとしているのだ。
そんな人達と一緒になんていたくない。
こんの異常だ。おかしいじゃないか。気持ち悪い。
「サヤ、落ち着けって。これ以上騒いだら追い出されるだろ?」
シャチさんが私にそう言うが落ち着いてないんかいられるはずないじゃない。むしろこうして落ち着いてる人達は異常だ。
「追い出されるのは私一人だけにしてもらうよう相手に言います。それで良いでしょう?」
「それで良いってお前なあ…」
シャチさんが何か言いたげであったが私はファー帽子の男の方を見る。
「座れ」
ファー帽子の男はたった一言を私に向け放つ。
「嫌です」
私はすかさず言い返す。此処から立ち去りたいという思いがあるがこの男の思い通りになるものかという意地もあったかもしれない
「予想以上に此処に嫌悪感を持っているな。…おれ達に会う前に奴隷になった人間でも見たのか」
「…確かに見ました。けどそれが何だと言うんですか」
「実際にその目で見たから嫌悪感と恐怖が増した…。後はお前の所ではこんな場所は中々お目にかからないから更にショックが大きい。…まあこっちでもその気にならなきゃこんな場所にはお目にかかれないがな」
やっぱり私が思っていること分かっているじゃないか
「分かっているなら手を離して!私は此処から出て行く!」
又も大声を出してしまう。しかし今の私は怒りと此処から去りたい気持ちで周りが見えなくなっていた。
「いいかげんにしろ」
ファー帽子の男が、今までで一番威圧感のある声をだした。その声に私はたじろぐ
「次におれの言葉に“嫌だ”と言ってみろ。お前を今からでも此処に売りつける」
その言葉に私は大きく目を見開いてファー帽子の男を見る。
「昨日はお前が嫌だと言っても船に入れると言ったが、ガキみてェなバカな我儘を言い続けるならお前を此処に売りつける」
私はファー帽子の男の言葉に何も言えなくなっていた。シャチさん達は黙って私達のやり取りを見つめる
「女が売られたら女給、それか男に好き勝手使われて捨てられるかのどちらかだな。
…お前の能力を知られたら変わってくるだろうな。今まで見たこともねェ能力だ。人体実験にされて最後はホルマリン漬けにされるか…」
「………」
「まあ、それもお前の返答しだいで色々と変わってくるが…
もう一度言う。座れ」
私はファー帽子の男の顔を見ず、顔を下に向けながらゆっくりと腰を下ろし座る。
男の言葉は本気だった。私が「嫌だ」と言ったら本当に売るつもりなのだと分かった。
あれだけファー帽子の男に強がって、喧嘩腰になっていたのに…この結果だ。かっこわるいなぁ……
でも奴隷にはなりたくない。あの様に扱われるのは嫌、怖い。考えただけでも体が震える。
それと同時に悔しい。何を言っても結局は私の思いは通じない。意味をなさない。実現しない
くやしいくやしいくやしい
こんな最低で悪趣味な催し、とっとと始めてとっとと終わらせてしまえ
Homo homini lupua (人間は、人間にとって狼である)お題,揺らぎ