小説 | ナノ




28




日差しが傾きはじめて数刻。仕事も終わり、ベルフェゴールはそろそろ小腹も空いたしおやつでもたかろうかと談話室へと向かっていると丁度、空き部屋にルッスが入って行くのを見た。


「なんかあんの?」



屋敷の中がいつもより慌ただしい。気になった金髪の王子様はひょこっと顔を出して言った。振り向いたルッスが寝具らしき大きな荷物を抱えている。



「今スクちゃんから電話あって、シルちゃんを連れて帰るそうよ」


「マジで!…もしかしてここに住むの?」


「そうみたい。」


「どうなってんの?」


「わからないわよ。」








「そんなに急がなくても、明日また迎えに来るぞぉ?」


「でも、今日すぐがいいの」


「お前熱もあるだろぉ?それにお別れはいいのかぁ?」


「うん、大丈夫よ。…それに他の子からしたら、私、ズルいでしょ?家族がいて、自分のお家があるのよ。」


シルヴィアはそう言いながら少ない荷物をバッグに詰めた。
シルヴィアの私物は殆どが本や文具だったので、それは手荷物にせず配送を頼むことにした。
机に向かいバッグを閉めるシルヴィアの表情は、背面のベッドに腰掛けたスクアーロには伺えない。


(ズルい、かぁ…。そんなもんかぁ?)


やたら大人びた我が子の物言いに、同じ紅い目の我が儘でやりたい放題の大人を思い浮かべて吹きそうになった。







夕暮れ間近、小さな荷物を自分で持つと言って離さない少女の片手を引いて門まで出ると、施設の先生や子供達が門の両脇に集まっていた。先生に促されるように子供達が別れの挨拶を口にする。


『ありがとう、みんな元気でね』


それだけ言葉を交わすと、意地っ張りなお姫様は急ぎ足で門を出た。




(誰に似たんだかなぁ…。)





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