うちなーから君へ



「海もちゅらやっさーし空もちゅらやっさーし、まーさんもあんし…」
「はぁ。」
「だぁんかい、わんと居らりゆんし!」


日本語難しい。
俺の隣に座っているのは一目でわかる、日本人だ。名前だって普通だった。甲斐裕次郎。ただ困ったことに、俺は彼の話す言葉を全くもって理解できない。海と空は分かった。
それ以外分からない、助けて。

なぞの言葉を話す彼とこうして交流した訳、話せば長いさ。
此処は中学テニスの全国大会会場だ。蔵や謙也達が大会に出るから応援に来てほしいと言われ、面倒だなと思っていたところ跡部や侑士達も参加するという。
そこで侑士に電話で蔵達に来いと催促されている事を、ついぽろりと話してしまったのだ。
侑士はひさびさに会いたいし来たらええやん。とわざわざテニス部でもない俺を大会会場まで呼び出したのだ。お金は全て事情を知った跡部様から出してもらっているという。お前何なんだよ。

お金を出されては逃げ場がない、しょうがないと足を運んだまでは良かったよ。まぁ正直に言うと俺は会場に足を踏み入れて10分足らずであっさり迷子になってしまった。知り合い見つからない、助けて。


「どーしよ。」


途方に暮れた俺はとりあえず皆にメールを送るも試合中なのか、そうじゃなくても余裕がないのか返事はなく。来いって言った奴等、覚えとけ。そんなことを思っている暇があるのなら少しでも知り合いに会う努力をしようと地図を見ながら悩んでいると、


「えーしろー?えーしろー!!ちねーん!!んなぁまーんかい行っのみぐさぁー!?」


後ろから大きな声で叫ぶ人と出会った。何言っているかはもうこの時点でさっぱりだったけど。
茶色のフワフワした髪を帽子が押さえつけている、肌は良い色に焼けていて見るからに健康そう。大きなテニスバックを肩から下げている辺り大会に出場する選手だろう。紫のノースリーブシャツが良く似合っている。ただし涙目だ、テンパりながらずっと「えーしろー」と誰かを呼んでいる。
なんだか可哀想になった俺は、怪しい日本語を話す彼の傍へ寄って行って声を掛けたのだ。
それがなんというか、間違いだったのかもしれない。


「あの。」
「…ぬー…?」
「俺も迷子なんで、良かったら知り合い見つかるまで一緒に待ってません?」


ベンチに座って買ってあげた缶ジュースを渡した頃には涙も引っ込んでいて。むしろ元気になりすぎていた。
プシュッと勢いの良い音をたてながら口を開けて1秒で唇をつけ、ごくごくと何口も飲んでいく。まぁ大きな声で叫んでいたし喉が渇いていてもおかしくない。
そのまま半分くらい飲んでしまったのではないだろうか、ようやっと離れた唇からぷはぁ!と息を吐きだして俺の方を向いてはニカッと笑って見せた。


「にふぇーでーびる!やーはいいーちゅやっさー!」
「えと、何処の人?」
「うちなー!」
「…聞いた事はあるんだけど、何処だっけソレ?」
「あいっと…沖縄?」


首を傾げながら言う彼は沖縄にある学校のテニス部のようだ。
しかし沖縄とは遠いところから来たものだと感心し、聞き慣れない方言にも感心した。関西弁も最初は慣れなかったけど沖縄はもっと凄かったのだな。
苦笑いしながら、そっか。と返事を返して一応自己紹介しておく。大阪から来た天城慎っていうんだ、と言えばパチパチと何度も瞬きをして不思議そうに俺を見てくる。


「慎?わんや甲斐裕次郎ってからあびるんやっさー!」
「甲斐っていうの?」
「裕次郎でしむんど、3年だばぁ?」


何をだばぁしたのかよく分からないけれど、多分3年生だろって聞いてきたんだろうか。まぁ俺は今3年生だから頷いておく。すると当たっていたのが嬉しのか「わんも!」と言ってくる。おぉ当たっていて俺も嬉しい。

と、この時までは良かった。

そこから同じ学年だったのが嬉しかったのか止まらない止まらない。
自分達は迷子になったはずなのにそれすらも忘れて話し続ける裕次郎。もう何言っているのか分からないから苦笑いしか出来ない俺に気付いて。


「うちなーやいいーよ、あしびんかいえーで!」
「はぁ。」
「まーやてぃん案内するしやーんかい泊まりんかいえーで!」
「あんない?」
「まーがら行きのみぐさぁーい所あんみ?まーやてぃん連れていちゅんどー!」


わからん。
まったくもって分からない。
ただ分からないと言ってしまうのはこの無邪気に話す裕次郎には申し訳ない。本当に俺との会話(一方的だけど)を楽しんでいるみたいで、飲み終わった缶をぺこぺこ押しながらずっと笑顔で話してくれる。
きっと沖縄以外の友達は俺が初めてなのかもしれない、俺も沖縄の友達は初めてだから嬉しい。…何言っているか分からないけれど。
でも同じ様に喜んでくれているのなら、これが裕次郎との友情なのかもしれないと納得できてしまうのだ。

しかし、時間は刻々と過ぎていってしまっていて。
不意に俺のポケットに入れていた携帯が鳴ったのだ、その音に裕次郎は口を閉じて携帯を確認する俺を見つめて。メールだった、蔵からのメール。迷子になったってメールしてしまったから心配させてしまったようで蔵のメールは裕次郎の話す方言よりも解読できない謎の暗号状態だった。


「蔵、やっと終わったのかな。」
「どぅしみ?」
「ん?大阪の友達。迎えに来てくれそう。」
「……」


今いる場所をメールに打ち込んで送信して、裕次郎を見れば笑顔がなくなっていた。
なんでだろ、って思ってすぐに分かった。俺はやっと知り合いを見つけられたけど裕次郎の知り合いはまだ見つかっていないんだった。蔵が来たら俺は裕次郎を残して行く、なんて思っているのかもしれない。
俺も逆の立ち位置なら間違いなくそんな気持ちになる。だから裕次郎のその顔を笑顔にしてほしくなって。


「大丈夫。裕次郎の友達見つけるまで一緒にいるよ。」
「…慎、」


何も言わないで笑ってやれば、裕次郎のもともと大きい瞳が更に大きく開かれた。
キラキラ綺麗な瞳だからもっと見ていたいかも、と思ったのに裕次郎は下を向いて帽子のつばを下げた。
あれ?と思って声を掛けようと口を開いた、


「甲斐君。」
「え、」
「あぁぁ!!えーしろー!!」


名前を呼ばれて顔を上げた瞬間、俺が話しかけるきっかけを作った「えーしろー」をまた叫んだ裕次郎が勢いよく立ちあがった。眼鏡を掛けたすらっと細身の多分えーしろーさんのほかにも、裕次郎と同じシャツを着た人たちが何人もいた。


「まったく、すぐに何処かへ行って。」
「うまやしがなーや呼んやてぃん来ねーらんたんくせんかい…」
「なにか?」
「ぬーもあびてぃねーらん!」


相変わらず裕次郎が何を言っているのかは分からなかったけど、とりあえず知り合いが来たのだから良かった。

と、彼らの反対側から「慎ー!迎えに来たでー!」と俺を呼ぶ蔵や謙也達の声に振り返れば見慣れたジャージの皆が少し離れた所で俺を探していた。
あぁやっと皆に会えた、ホッと息を吐きだして裕次郎を見れば「慎のどぅしみ?」と俺の肩に腕をまわして嬉しそうに笑ってくれた。


「俺の友達。」
「…わんは?」
「え。」
「わんも、どぅしみ?」


どぅしみってなに?なんて聞くほど俺もバカじゃない。俺の顔を覗き込んで来る裕次郎に笑って胸を張って答えられる。


「裕次郎もどぅしみだよ。」
「…慎!かなさんどー!!」


ギュッと抱きしめられた。よりによって蔵達に見られた。裕次郎の行動に四天宝寺テニス部が文句を言い続けるなんて、最悪だ。
こんな面倒な事が起きてしまうなら、話しかけない方が…良かった?




うちなーから君へ




「甲斐君、ゴーヤ食わすよ?」
「慎、なにイチャついとんねん!!」
「誰?かなさんって?」

「かなさんどー?あいっとー…愛してる!!」

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翻訳サイト使いまくった結果だよ。
すっごい難しい。難しい。びびった難しい。
合っているのかは分かりません、次のページに甲斐君が言っていた方言を元に戻した言葉おいておきます。

2013,04,18

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