白い布



通り雨とは言いたくないほどの土砂降りが俺達の帰宅時間に大当たりした、今日は朝から綺麗な晴れ空で天気予報も「曇り一つない心地良い天気です」って言っていたのに。


「はよ入り。」
「おっじゃましまーす!」


鍵を開けた玄関の扉を勢いよく開いた侑士が中へ入りながら手招きしてくれるので、甘えてお邪魔させてもらう。
学校を出た時は若干曇っていた程度だったから普通に帰っていたら急にに水たまりを作ってしまうほどの土砂降りになった、鞄の中身が濡れないように抱きしめるくらいしかできなかった。
お蔭でローファーはぐちゃぐちゃ、ワイシャツもジャケットも全部濡れてしまった。
うわー靴下の張り付く感じ大嫌い!脱ぎ捨ててしまいたーい…けれどここは俺の家じゃありません。

どうやら家族は居ないのか、侑士のデカい家は少し暗くて静か。侑士が鞄を置いてローファーを脱ぐ音と濡れに濡れた俺達から落ちる滴の音しかしない。


「最悪やんなぁ…この季節にずぶ濡れとか風邪ひけっちゅーとるようなもんやな。」
「本当にな。」


ぶつくさと文句を言いながらローファーを脱ぎ、靴下とジャケットを脱いだ侑士が廊下へ上がる。濡れている足から滴が廊下へつつっと降りていく。
「バスタオルもってくるさかい、待っとき」と長めの髪を邪魔そうにかきあげながら侑士が言い廊下を歩いて行ってしまう。ぺたぺたと裸足で歩くと足跡が綺麗に残っていくのを見て頷いた。
俺としては…傘でも借りてさっさと帰ろうかなと思っていたんだけど。とりあえずは体を温めさせてもらおうかな。ずぶ濡れのままでよそ様のお家に上がるのはなんていうか無理なのでローファーも脱がずにただ棒立ち。

いまだ雨音は弱まることなく大きな音を立てているのが扉越しに聞こえてくる。何時まで振るんだろうか…さっきまで浴びていた冷たい雨が早く止めばいいのにと擦り硝子越しに願った。


「慎、上がらんの?」


ぼんやりとしていると、大きそうな白いバスタオルを肩からかけた侑士が手に同じバスタオルを持ちながら歩いてくる。濡れたままの伊達眼鏡も拭いていなければ制服もそのまま。
少し瞳を大きくさせている侑士は視線で「なにしてん」と言ってくる。いや人様の家を汚すようなことは出来ないので。髪から水滴を落としながら首を振る。


「だって汚れるじゃん。」
「そんなん気にしとったらほんまに風邪ひくで?」
「っわ、」


正しいことを言ったはずなのに不正解とでも言うかのごとく持っていたバスタオルを頭からかけられる。ばふり、と降ってきたバスタオルはふわふわでいい匂いがする、きっと洗濯したての一番良いバスタオルだ。
視界がバスタオルの白一色、薄暗かった玄関から一転して明るい世界にちょっと体が跳ねた。それに冷えていた体にバスタオルはとても暖かく感じた。
ふわふわの世界にいるのは心地良いけれど何も見えないのは困る、腕を動かして顔を出すと侑士はしてやったりと悪戯っぽく笑っていた。嫌な奴、見ていると腹が立つからかけてもらったバスタオルで顔を拭いた。


「服貸したるわ、そんでなんか暖かいもんでも飲んでき?そのうち晴れるやろうし。」
「…どうも。」


ごしごしと顔を拭いた後、髪を拭きながら侑士が階段を昇っていく音を聞く。…戻ってくるまでに廊下に上がっていないと怒られたりすんのかな?
もう一回不正解と言われるのは嫌なので一応ローファーを脱いで侑士を習い靴下を脱ぐ、そしてバスタオルを廊下にしいてそこに座ってみる。これなら汚れない。真っ白なバスタオルに乗るのも少し戸惑うけれど、廊下に直接座る方が嫌だし。

ローファーを逆さまにして出せる雨水を出そうと振っていると、階段を降りてくる音。階段の方を振り向けば制服から着替えて、カーディガン姿の侑士が俺の分の服を持って降りてきた。その肩にはやっぱり真っ白なバスタオル。
「持ってきたで」と笑いながら傍に座って、侑士は肩にかけていたバスタオルを俺の肩にかけた。まだ濡れている俺を労わってなのか少し摩ってくれた。
確かに寒い、玄関にいるからなのか雨音を聞いているからなのかは分からないけれど寒い。バスタオルがくれる温もりと侑士の手がくれる体温がもっと欲しくてしょうがない。

温かい、帰るのが億劫になるほど暖かい。外はまだ冷たく痛い雨が降り注いでいる。


「侑士。」
「ん?」
「なんか、帰りたくなくなった。」


泊めてほしいって言ったら、どうする?
少し冷えた唇でたどたどしく投げかけた言葉。よくよく見るとまだ水滴を残した伊達眼鏡越しに見えた侑士の瞳は少しだけ揺らいでいた。ゆらり、ゆらり、雨粒を受け止めた水たまりの揺らめき。
こんなこと言われても困るだけだよな、って言った本人も気づいていること。それでも言いたかった言葉。床に敷いた白いバスタオルを握りしめながら侑士を見上げ続けた。たとえ頬に冷たい滴が流れ落ちても、張り付くワイシャツが気持ち悪くても。


「嫌やな、ほんまにこの雨は。」


フッと歪んだ唇が吐き出した言葉は何か裏を含んでいる、それこそ嫌な言葉だった。言葉とは裏腹に侑士の掌は俺の顎を掴んだ。俺よりも少し暖かい体温はジンワリ薄い皮と肉を通り超え骨にまでジンと浸透。
いつもより色が薄い侑士の唇は、ゆっくり時間をかけて俺の冷たい唇に触れては驚いたのか離れて、今一度触れ直す。

ざぁざぁ、大きな雨音がかき消したのは、バスタオルが床に落ちる音。甘くてむず痒いキスの音まではかき消してくれなかった。鼓膜に張り付いたと思えばすぐに次のキスの音が飛んでくる。
風邪を引くかもしれないとかそんなのは気にならなかった、濡れた制服から湿りを受け取る侑士のカーディガンだけ心配だった。だから落ちたバスタオルを拾いあげて、俺と侑士丸々包み込んだ。

離れたくないよ、そばにいて温もりを頂戴。




遣らずの雨
(もやもや)




「やっぱ帰ろうかな。」
「掌ひっくり返すの早過ぎへんか?」
「いや雨やんだし、侑士の家族に迷惑をかけるわけにもいかないし。」
「さっきの可愛えオネダリはなんやったんや…。」
「気分だ。」
「……さよか、せやったら俺が慎を帰さへんのも気分やわ。」


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なんか
ひさびさな気がする
侑士。

侑士で雨のお話って
むかーしClapで
かいたなぁ…


2015,03,13


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