白いメール



無意味で理解不能で読めないメールが俺の携帯に良く届く。

ズボンのポケットでブルルッ、と数回震えた携帯に走らせていたシャーペンを止めた。今は歴史の授業中で三日後に小テストを控えている…そんなときにメール。
黒板を見つめたまま、携帯の震えが止むまで待つ。歴史の先生は年を召しているおじいちゃん先生なのでそこまで厳しくないから見るのはたやすい…のだけど、俺はそのメールが誰から送られてきたのかって言うのと何が書かれているのかを知っているから見るのが非常に嫌だ。


(どーせ、アレだろ。)


震えを止めた携帯と黒板の方を向きチョークで文字を書きだした先生に、俺はシャーペンを机に置いてポケットに手を突っ込んだ。
俺の携帯は可哀想だ。なにせ日に4回ほど意味ない価値ない内容ないメールを受け取らなきゃいけないのだから。
いつも通りだろうソレを一応見るのはとても律儀、柳生にそう言われたことがたびたび頭をよぎる。そうだよなやっぱり…普通の人なら読まなくなるしブロックするよな。
でももしかしたら何か違う事が書かれているかもしれない…そう思いながらいつも読んでしまうのだ…否、見てしまうのだ。

そのメールはいつも何も書かれていない、だから読める文字なんてどこにもないのだ。

画面に現れたのはやっぱり何も書かれていない所謂『空メール』、差出人は同じクラスの仁王雅治だ。俺の席から右後ろ三列目、比較的先生に目をつけられにくい後ろの方に座っている。
俺は仁王から空メールを貰うようになってからかれこれ4か月ほど経っている。別に仲が悪いわけじゃない、丸井を混ぜて三人で良く話すくらいには仲が良い…けれど、どういうわけかこのチマチマした悪戯を受け続けている。


(またかよ。)


本日二度目の空メールにいつも通り抗議の気持ちを込めて少し振り返って仁王を睨む、するとこれまたいつも通りで仁王はニヤニヤしながら手を振った。そして俺は親指を立てた手を下に向けブーイング。

本当に意味を持たないこのメール、ただ単に俺をからかうだけの空メール。
何度か「やめろよ」って軽く文句を言い続けてきた、あんまり真剣に言ったら気まずくなるからあくまでも軽く。丸井も「慎が可哀想だろぃ」と仁王を責めてくれたけれど、仁王は笑うだけで止める気配なし。
悪戯は今日も継続中、何も変わらないいつものメールに今一度視線を落としては真っ白なメールを見る。一文字もなければ絵文字もない、本当に空っぽで真っ白なメール。
しかしこんな手軽で地味に嫌な悪戯もそうそうないよな、気になって仁王の方を見たくなってしまう恐ろしい悪戯だ。

いつもなら此処で終わるのだけれど、今日は柳生に言われた作戦をしてみようと思う。
それは返信してみるってことだ。空メールに対して空メールを送って、何も書かれていないメールを受け取るというのが嫌なものだっていうのを教えてやれっている単純なもの。


(よっし。)


先生の方を見ると教科書を読んでいてこっちを見ていない、それを良い事に俺は素早く返信する。勿論真っ白で何も書かれていないメールだ、俺が良く貰うものと同じメール。どうしてそんなことをするんだろう、俺はその気持ちが知りたい。俺に悪戯したって楽しくないだろうに。

送信完了の字を見た俺はすぐに横目で仁王を見た、悪戯が終わった後は頬杖をつきシャーペンをゆらゆら揺らしていて俺の方は見ていなかった。なんだかニヤニヤしてきた。
そのままじーっと見ていると、シャーペンが揺らめきを止めた。ピタッと止まったシャーペンはゆっくり机に置かれた、空いた手はモゾモゾとポケットを漁りそこから携帯を取り出した。
隠そうともせず堂々と携帯を操作している仁王の顔は何だか面倒くさそうだった、きっと部活関係とかのメールとでも思っているのだろう。しかし、そのメールは…俺なんだよなぁ。

ニヤニヤが止められないまま仁王を見ていると、仁王の指先が動きを止めた。そしてそろりと動いた顔は俺の席を向いて止まった。


(うわっ、見たよコッチ!)


俺と同じ行動をとった仁王の顔は、なんだか複雑そうだった。らしくなく頬をひきつらせ瞳を細めていた。予想以上の反応に一層笑えて来て手で口元を覆い黒板の方を見た。
まさかあんなに驚くなんて思わなかった、今まで見たことなかった仁王のリアクションに心がドキドキ忙しなくなる。いつもはポーカーフェイス決め込んで俺たちを馬鹿にする仁王があんな顔するなんて、喜ぶなって方が難しいぞ。

でもこれで仁王も分かってくれただろう、何も書かれていない真っ白な空メールを送られる側の気持ちが。
何が書いてあるんだろう…ってちょっと期待して見たら…っていう裏切られる気持ち。やったぜ柳生、俺はしてやったぜ!
さて後で柳生にはお礼を言いに行かなくては…と笑いが落ち着いてきた俺はシャーペンを手にして黒板の内容を書き写つそうとした、まさにその時。


ブルルッ、ブルルッ、ブルルッ、ブルルッ…


「……」


ポケットにしまっていた携帯の震えを感じた。




意味があるのに
意味がないとは
(これいかに)




メールが届いた、それと同時に授業終了のチャイムが鳴り響いた。
俺はまさか…と嫌な予感に頬を引き攣らせるばかり、先生が今日の授業内容を簡潔にまとめて話ているその最中ではあったがポケットから携帯を取り出した。急いで携帯を操作して受信したメールの内容を確認する。いやきっといつも通りのメールなんだろうけれど…って思っていた俺は、日直の号令に反応できないくらい驚かされた。


From 仁王
Subject Re:Re:
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好きでもないくせに
俺のマネするの
やめんしゃい

-- END --


真っ白なメールが恋しくなった。何も書かれていない、想いや本音を隠した真っ白なメール。
アレにどんな意味が込められていたのか、俺は表面の何も存在しない真っ白に騙されていたのかな。あのメールの奥底には何か深くて大きな意味があったのかもしれない。

って、今更気づいたって…


「慎。」
「なんだよ、悪戯野郎。」
「なんじゃその言い方、そっちじゃって悪戯したじゃろうが。」
「…空メールってどういう意味?」
「プリッ。」


仁王のにやけた顔を睨むことが辛くて出来なくなってしまったよ。


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こっちむいてほしい
かまってほしい

小学生みたいな仁王とか
得します(私が)


2015,03,13


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