財前光



学校が甘い匂いがして不愉快です。いえ甘いのは好きです。じゃ何が不愉快ってそりゃ人には色々事情があるんですよ。


「天城くーん、チョコやでー。」


いつもなら喜ぶこんなお言葉も、今は俺の心情を濁すものにしかならないっていう。


「…ありがとー。」
「あ、まだ口内炎と虫歯のダブルアタックに苦しんどった?」


クラスの良く喋る女子からチョコを受け取る顔でもうバレた。そんなに嫌そうな顔してた?

俺の口の中に、それは過去最大級の口内炎が生まれまして。理由?ビタミン不足とか言うんじゃない…そんなもんじゃないんだよ。
恋人にべろちゅーされたらなんかもどかしくなって、舌が触れた頬肉噛んじゃったんだよ。甘噛みするつもりがガリっと…その傷に菌が入ってそのまま口内炎に。
そんで虫歯はちょっと前から歯医者に通っていて、まだ終わっていないだけ。これから治る。

コクコクと頷きながらチョコを眺め、ついつい溜め息。可愛いラッピングにときめくけど今すぐ食べられないのが非常に残念だ。


「でも嬉しいから貰う、ありがと。」
「これ日持ちするから、治ってから食べてね。」


義理やけどね、なんて俺の恋人を思い浮かべて念のためにと言い残し女子は手を振り歩いて行った。
いやいや、義理でも貰えるなら嬉しいもんだよ。四天宝寺ってカッコいいのが何人かいるから俺みたいなそこそこ普通の顔の奴って目立たないのな。
だから義理だとしても何個か貰えるだけで万々歳ってもんだよ。いや本当に…


「なにニヤニヤしとりますの?」
「…口内炎が痛いからかな。」


本当にイケメンって嫌だよね。

三年の教室なのに堂々と俺の席まで来てガン飛ばしてきた、この財前光こそ俺の恋人。ソレは周囲も知っていることだからもうどうでもいいけど。
隣の席の主が留守なのを良い事に、椅子を勝手に拝借。俺が座っている椅子の真横に設置して座れば、近い場所からさらに鋭い眼光が俺に向けられる。あーはいはい。


「このチョコはこの間ノート貸したからお礼として貰った奴だから。」
「へー…。」
「だいたい貰ってもしばらく食べれないからそれで許せ。」


正直俺の口内炎は凄く重症。ご飯食べるのも辛い、ご飯粒がダイレクトアタックしてきた時は持っていた箸を落とした位にな!
それを知っている癖に、光はまだ睨みっぱなし。そんなことよりもチョコを受け取ったということの方が気にいらないらしい。しかし言わせていただこう、光の下駄箱、朝の時点でチョコにより蓋が閉まらない状態になってたから。


「お前だって貰っているだろ。」
「そらモテますんで。」


俺では太刀打ちできない数のチョコを毎年貰っているんだから、数個のチョコで喜んでも許していただきたいものだ。イケメンには理解してもらえないだろうな、この幸福感。

だがどうにもそうはいかないのが俺の恋人というもので。俺の言葉にむすっとしたままの光が不服だという事を全身から滲ませてくる。
やれやれ…と呆れつつ女子から受け取ったチョコを鞄に入れ、光のご機嫌取りでもしようかと光の方を向けば…スッと差し出された両の掌。そしてどこでスイッチを入れ替えたのか声を弾ませてきた。


「慎さん、今日はバレンタインですやん。」


俺へのチョコ、ありますよね?

ニヤッと笑って問いかけてくるその顔は、俺の口内炎が出来る原因を思い出させるものだった。この間もその顔した光にしてやられた。
でも俺だって負け続けで良いとは思わない、きっとこうなるんだろうなとちゃんと分かっている。案外甘党の光だから催促くらいしてくるんだろうと読んでいた。
今日は思惑どおりにはさせないぞ、と笑い返しながら机の中に教科書と一緒にしまっておいた箱を手探りし取り出す。なんの面白みもないシンプルなラッピングで味気なくも感じるチョコを光の掌に乗せてやれば、光の瞳が丸くなって笑みが消えた。


「俺だってバレンタインくらい覚えてるよ。」


馬鹿にされちゃ困る、と光の頭を髪型が崩れない程度に撫でてやれば、「おー」と棒読み気味に返される。けどチョコを見る表情が徐々に笑顔へ変わっていくものだから感動しているんだと伝わる。
こんなことで喜んでもらえるのなら、もう少し高いの買ってやればよかったかな…と、ちょっと後悔していれば光が顔を上げて緩ませた頬もそのままに、身を俺の方へもっともっとと寄せてくる。
あんまりくっつかれると椅子から落ちそう、と残りスペースを確認するために光から視線を逸らしてしまっていた俺の耳へ唇を寄せ光はゆっくり言葉を落とす。


「おおきに。ほんまに慎さん好いてよかったですわ、むっちゃ嬉しいっすわ。」


そう言われた後、頬へキスが降り注がれ…俺は何も言わず椅子から立ち上がって教室をダッシュで飛び出してしまっていた。

いやだって、顔がヤバいくらい熱いんです。人前にいるのが辛いくらい。


「光のイケメンめ…っ!」


褒めたいわけじゃない、むしろ怒りたい。けど出て来たのはこの言葉一言だけとは情けないよな。




上昇Temperature




「逃げられてもうた。」


なんもしてへんのに…いや嘘言うた。頬にキスしたった。
逃げた慎さんの姿を慎さんのクラスメイトが俺の方を見ては「またなんかやった」と笑ってくるんは最早いつものこと。俺がちょっかい出して逃げられるんはいつものことや。
せやけど、ほんまにチョコ用意してくれるとは思うてへんかった。部長らが『らしいで』と俺に言うてきた時はちょお…いやめっちゃイラッとしたんやけど。そんでチョコを貰って喜んどった慎さんにもイラッとしてもうたけど。

けど、逃げる背中を見るたびに自分は愛されとるなって思う。

残された俺は念願のチョコを手にしながら1人笑い、今はコレで我慢したろ、とチョコにキスを落とす。
そんでポケットから小さい小さい箱を取り出し勝手に慎さんのペンケースを漁る。シャーペン4本もいらんやろ絶対。

箱に油性ペンで書くこの想いは、何処まで伝わるんやろうか。


「…まぁ、10分の1でも伝わったらええほうか。」


予鈴が鳴る前に愛しい人がいなくなった教室をさっさと出る。あー早く戻ってきてアレ見ぃひんかな。もう一回教室から逃げたら面白いんやけどな。


『慎さんへ
 俺からもチョコあげます
 口内炎なおったら
 もっかいキスしましょ
 ほんまに好いとります
 
 P.S
 逃げてもええですけど
 そのうち捕まえるんで』


「あー、授業だる…。」


慎さん攫ってサボったろうかな。


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アンケート一位
財前光でした。

とにかく光を生意気に
してやろうと思った結果
こんな感じに。

好きな人には素直で悪戯してしまう、
そんな子供っぽい光も
大好きなので…すいません(笑)

票をいれてくださった皆様、
本当にありがとうございました!

2014,02,10


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