千里千歳



「あの、これ受けとってくださいっ!」


関西弁の女の子って可愛いと思う。顔を真っ赤にさせながら標準語でチョコを渡す様にドキドキしちゃうよ…嫌な意味で。

女の子がチョコを差し出している相手、それは悲しい事に俺ではない。俺だったらどれだけ良かったことだろう。女の子がご指名したのは俺と一緒に帰ろうとしていた千歳だ。
朝から下駄箱の中や机の上にたくさんのチョコが積まれていたり、直接貰ったりして千歳の鞄や持ってきていた紙袋はパンパン。貰いすぎだ…なんて言えば「嫉妬しとると?」って呑気なもんだよ。嫉妬とか、昔っからしてるし。


「俺は気持ちに答えられんばい。」
「そ、それでも受けとって欲しい!」
「…なら。」


玄関前の廊下で2人が青春真っ盛りな会話を楽しんでいるのに、校門の前でしゃがみこんで待っている俺って惨め。
しかも結構レベル高い女の子だった、髪とかフワフワで香水の甘い匂いもしてた。爪もつやつやキラキラだったしお目目もぱっちりで…。


(ぜんぶ俺にはない物だった。)


「こげなとこに居ったと?」


ふっと俺の上に掛かった影とかけられた声に、下げていた顔を上へ上げれば先ほどの女の子から貰ったチョコを紙袋へ閉まっている最中の千歳が笑っていた。
女の子が声をかけて来た時に「あっちで待っている」としか千歳に言っていなかったから、少し探してくれたようで。
それにしてもへらへら笑っちゃって…あぁチョコ貰うのは嬉しいよな、そりゃそうだ。けどさ…


「俺の前でへらへらすんなよ。」
「…怒っとっと?」
「怒ってますけど。」


それって恋人である俺の前でする顔かよ。

俺達は付き合い始めてそう時間は経っていないとはいえ、元々は千歳の告白からこの関係へ進んだんだし俺の前でくらい他の子からのチョコで喜んでいる顔なんかしなくたっていいだろ。
もう今日一日最悪、色んな女の子からのチョコに喜ぶ千歳ばっか見せられた。…俺も何個かチョコ貰ったけど全部義理だし。そんでちゃんと「恋人いるけど」って言ったし。
けど千歳はそうじゃない、「答えられない」としか言ってくれない。俺という存在をはっきりさせてくれない。別に名指ししてほしいわけじゃないんだ。


「恋人いるって言わないの?」


ただその一言を千歳が言うだけで、俺は救われる。


「慎…。」


分かってる、嫉妬。そして自分が嫌い。可愛くないし馬鹿だし嫉妬深いし、千歳に執着してる。だから何時の日かとっても可愛い女の子が千歳に告白したら千歳はそっちを選んでしまいそうで怖いんだ。

女の子からチョコを貰う千歳を見た後で、どんな顔して千歳にチョコ渡せばいいのか分からない。嫉妬してばっかりするなんて千歳は知らなかったんだろうな、知らないで告白してきてくれたんだよな。

歪んでいく俺の表情を千歳に見せたくなくて顔をそむけた。そしてしゃがみ込んだまま地面に置いていた鞄の中から小さな箱をだして、ソイツをギュッと抱きしめた。


「言ってくれないと…チョコ、渡す勇気、でない…。」


俺なんかが本当に千歳の恋人で大丈夫なのかなって、寝る前にいつも考え込んでしまうくらい俺は千歳が好きで好きでしょうがないのに。

ラッピングなんて不器用すぎて出来なかった。むしろチョコを溶かして冷やして固めるって事すら難しくて火傷しながら半泣きで苦労して作ったのに、俺は朝からずっと渡せなくて迷ってばかり。
いっそ下駄箱にでも放りこんでしまおうかとも思った…けど、そんなの恋人として悔しいって踏みとどまった。俺だけが千歳の特別でいられる権利を持っている、はずだから。

チラリと顔を向ければ、千歳はまだ笑っていた。寒い風のせいなのか頬を赤く染めながら。そして手にしていた紙袋を地面に下ろし、俺の隣にしゃがみこんでは俺の肩に腕を回してきた。


「俺の恋人はむぞらしかね。」
「…うるせ。」


大きな手でワシワシと頭をなでられながら呟いた精いっぱいの反抗も、近づいた顔がコレでもかと綻んでいたからソレ以上先は出てこなくて。


「…千歳。」
「ん?」
「愛しているから、コレあげる。」


唇から溢れるのは隣を陣取る優しい恋人への言葉、でもそんな一言じゃ言い切れなくてまだまだ溢れてきそう。止まることのない思いは何処をどうすれば伝わり切るのだろう。
なんだか俺ばっかり思っている気がする…なんて、また俺は素直じゃない。
恥ずかしくなってまた顔を背け、これ以上言葉がでないように小さな箱を唇に押し付け我慢した。
唇から思いが流れ込んでしまえばいい、言わなくても伝わればいい…そう願いながら千歳の方を振りむけば、千歳もまた俺の真似をして箱へ唇を押し付けた。
離れかけていた俺の唇が箱へ押し付けられて箱越しにキス、なんて、本当のキスも済ませていない俺には、心臓に悪い。


「慎ごと、貰ってもよかと?」


あとその真剣さを滲ませた笑顔、正常な判断が出来なくなるから法律で取り締まってほしい。




曲がったLoveSong




「きびしかー。」


俺が思いっきり殴った後頭部を抑えながら苦笑いをする千歳に謝る気なんて毛頭ない。
だって学校の敷地内だって言うのに、本気でキスしてこようとしやがった。そんなのする勇気ないっての。


「千歳が悪い、学校でなんて馬鹿だ。」


フン、と鼻を鳴らしずんずん歩き進めれば後ろから笑い声。
そうですよ、千歳が思っている通りですけどなにか?学校だからっていう言葉で正当防衛していますけど、本当はキスなんか恥ずかしくて死にそうだからだよ。
また素直になれないというか、恋愛事に関してはとにかくガードが固い俺ですよ。でもそんな俺に告白したお前が悪いんだ。


「慎、ここは学校じゃなかよ。」
「路上だ馬鹿。」


俺と千歳のキス攻防戦は、あと一カ月も続いたのだった…そう、ホワイトデーまで。


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アンケート二位、千歳千里でした。

すっごく素直じゃない子ですが、
千歳ならこんな子も
抱きしめてくれそうだな…
なんて、勝手な想像ゆえに
こんなことに…。

票を入れてくださった皆様、
本当にありがとうございました!

2014,02,09


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