ホンロウモード
ただのおせっかいなんだろ?
「慎、またサボりなのか?最近特に多くないか?」
そうだと言ってくれよ。
「幸村には関係ないじゃん。」
休み時間の賑やかな明るい騒音が、止まった気がした。それは幸村の表情が「あれ?」と俺に問いかけたせい。
その見たことない表情に、トクリ、音色を持たない振動一つ。
別にヤンキーってか不良ってわけじゃない、けど自分の気分次第で授業をサボってしまう俺。担任とか何も言ってこないからいいじゃんって思っているんだけど…俺の隣の席に座る細身の…それでもテニス部の部長なんかをしている優しすぎる人は簡単には逃がしてくれない。
太陽が昇る前の空の様な深い紺色の髪を揺らし席から立ち上がった俺を見上げるその人、幸村はたびたび俺におせっかいを焼く。
正直、心地良いものじゃない。むしろ傍迷惑である。これでも成績は良い方なんだ、ちょっとやそっとサボったところでコケるような頭じゃない。だから堂々とサボるわけ。
ソレのことについて「他人にまで目が行く優しい人」というイメージ作りの一環で関わってほしくない。
そしてそのおせっかいのせいで、特別なのかも…なんて優越感に浸る自分がいて、嫌になる。
『ただのおせっかいで、周りからの印象を高めるだけの道具にされている』と信じてはいるけれど、もしかしてそうなのではないか…なんて考えてしまう愚か者だ。
「前々から言おうと思っていたんだけど…何?幸村は何がしたいわけ?」
今日はソレをきっぱり白黒つけようと、いつもなら声をかけられたら無視をするところを返事をちゃんとしてみた。ただその言葉はあまりにも素っ気なくて突き放すもの。続けて、素っ気ない、冷たい言葉。
いつもなら今頃廊下に出て「どこへ行こうかな」と思考を巡らせている頃だろうに。今日は幸村の、初めて見る驚きの表情の訳に思考を巡らせてみる。
大人しくてクラスの奴らとは一味違う笑顔を見せてくれる柔らかな幸村、顔立ちは涼しやかで女子にも男子にも好まれそうな顔。大きな瞳には海を潜めているかのように秒ごとにゆらゆらと煌きをはじいている。
こうして、幸村と正面から向き合ったことなかったな…よく見れば見るほど恐ろしいまでに綺麗な、でもどこか意志の強そうな顔をしてんだな。
飲み込まれてしまいそう、その瞳の海に。
そういうわけにはいかないから、驚いた表情のままで俺のことを見ている幸村に遠慮せずに次の言葉も投げてみることにする、大体は本心だけどほんの少しは嘘が入り混じっているものを。
きっと育ちがいいんだろう?キツイ否定の言葉なんて聞いたことないんだろう?俺が言ってあげるよ。
「隣の席だからっておせっかい焼かなくていいよ、隣だから注意…とか偽善ってやつじゃね?それだけのために声かけるくらいなら、他の奴にやって。」
「…そういうつもりはなかったんだけどな。」
言った、言ってやった。
俺が今まで思っていたことを言うと、幸村は眉を顰めながら「どうしよう」と言いたげに笑った。表情だけで色々伝えてくるって器用で得している奴。
でも見て見ぬフリだ、きっと今しか言えない気がする。今まで考えてきたことはこの勢いに乗せないと永遠に吐き出せない、醜い何かだから。幸村の乾いた小さい笑い声を耳の奥に響かせて数秒、息を吸い込んだのちに面倒くさいと首元を摩りながら柔らかいその人を見下ろす。
「幸村はそういうつもりじゃなかったかもしれないけれど、俺にはそう感じた。つまり要らないお世話なんだよね。」
ゆらり、幸村の表情が揺れた。見たことない、困惑の色合いに。
「次からは要らないから。いつ言おうか悩んでいたんだよね、マジ。」
ゆらゆら揺れる海面、つられる波は白くない深い紺の髪。
「ていうか、そんだけ俺のこと気にするなら一緒にサボる?」
とどめと言わんばかりに、フッと鼻で笑いながらそう冗談で言えば「こいつは何を言っているのだろう」って顔で見上げられた。大きく見開かれた瞳に映り込んだ俺はどこからどう見ても悪者。それでいいけど。
これだけ言えば幸村だって俺に関わることはなくなるはずだ、まぁ最後の冗談は本当に冗談だ。俺の言葉で表情を曇らせていくのが…どこか嬉しいような楽しいような、そんな感情で言ったもの。
サボる、なんて行為とは縁のないだろう柔らかな人は俺を見上げたまま何も言わなくなってしまった。
こりゃ勝負ありってやつだよね。なぜだろう、すごく嬉しい。隠しきれない感情はニヤッとした悪い笑みになってしまって、より一層悪者さが際立つ。
だがしかし、これでサボりに行けるというもの。喉の奥でも笑い声を漏らしながら俺は幸村に背を向けた、存分に遊ばせていただきましたというお礼を込めてヒラリと手を振り、さっきのお誘いは冗談でした、と言い残し…
「真に受けた?じょーだ…」
「それもいいな、よしサボろうか。」
その場を、去る…去る?
別れを告げるためだけにあげた掌が横にヒラリと揺れたのと同時、ガタリと大きな椅子の音。顔を後ろへ向けた俺の瞳に幸村が映り込んだのと同時、さっきまでとはかけ離れている明るい声。
「もうすぐチャイムがなるから急ごうか。」
冗談…って、言うつもりだったのに。
俺が楽しむためだけに吐いた冗談は、幸村の何かを刺激してしまったようだ。俺の横に立ち並んだ幸村が大きく見開いていたはずの、軽蔑の色さえ差し込んでいたはずの瞳を細めむしろその水面をより煌かせ俺を映しこんだ。
さっき感じた、俺の勝ったことによる嬉しさが行方不明になっていく。それよりも今度は俺が困惑と驚愕と、ちょっとした軽蔑を含めた瞳で幸村のことを見てしまう。
そんな瞳に気づいたのか、動かなくなった俺に痺れを切らしたのか。「ふふっ」と風のようにサラリと流れた軽い笑い声をともに幸村は上げていた俺の掌を取り、歩き出した…教室の扉を潜り抜けようと、迷いなく。
「っちょっと、待った!さっきのは…!」
「いつもどのへんで時間を潰しているんだい?」
「…え、屋上とか保健室とか…ていうかさ、アレは…」
廊下へ引きずり出された俺はめいっぱい踏ん張り幸村の歩みを止めにかかった、が。テニス部部長なだけはあるらしく細い腕のくせにすごい力で引かれてしまう。
とりあえず幸村と二人でサボりとかマジで想像つかないから嫌なんだけど…と必死に声をかけてみれば、さっきの教室の俺と同じように首だけ振り返って見せた、笑顔で。
その表情、今まで見て来たどんな幸村よりも、幼かった。
「初めてのサボりなんだ、サボりの先輩として付き合ってくれないか?」
トクリ、音色を持たない振動一つ。
俺は口が上手いと自負していたが、上には上がいるというものを見せつけられた。
「……あー…じゃー天気良いし、屋上がいいと思う。」
どうにも止まりそうのない幸村にしてやられた、勝負は延長戦の末惨敗。こうなると観念して俺もいつも通り…とはいかないだろうけど付き合うしかない。しかし、サボりの先輩とはね。物は言いようだ。
「屋上か、いいな」と賛同しながら足をそっちへ向けだした幸村の背に俺はやれやれ、と肩を落とすことしかできない。…掌を、ギュッと握ってもらいながら歩くしか、できない。
本当、俺は幸村にとってなんなんだろう。偽善や周囲からの印象づくりじゃなく、純粋な思いで俺に声をかけ続けてくれていただなんてこと、本当の本当にあるのだろうか。
…優越感に浸り続けていてもいいのだろうか。
「本当は下心、あるよ。」
「え゛、」
ホンロウモード
(知らない君を見せて)
「天城はまた…ん?幸村もおらんのか?まったく…。」
教室で頭固い教師が俺たちに呆れている頃は、
「下心ってなに?」
「慎に興味あって仲良くなりたいと思っていつも声かけていたんだってこと。」
屋上で頭痛くさせられている俺が幸村に驚き呆れている頃でもある。
駄目だ、俺はこいつに勝てそうもない。お手上げの意味も込めて大の字に寝そべると、その隣に幸村も寝ころんだ。
「冗談じゃないから。」
笑いながらそう言い俺の掌を引きずる為ではなく、何かの意味を込めて握り締めた。
「…じょーだん。」
笑えないからその冗談は不受理でお願いします。
-----
前にしゃるる様から
頂いたリクエストの男主よりも
普通にっていうかヤンキー風味?に
なってしまいました…くそう
幸村さんには口喧嘩じゃ
絶対に勝てないなーと
書いていて思いました…
しゃるる様、
何か直すところありましたら
何でも言ってください、
喜んで直しますので!
リクエスト
本当にありがとうございました!
2015,09,011
(
Back )