俺のもの、君のもの、



ギシリギシリ、痛む体で嫌でも脳内をちらつく憎たらしい笑顔。舌打ちしたい気持ちが朝から夕方となった今でも晴れることなし。
しかしそんな理由で部活を休むことはできない、イライラは汗を流して発散するに限る。馬鹿みたいに重たいラケバを肩に部室の扉を開いた、そこにはいつも通り見慣れた面々が…


「これやからリア充は。」
「ち、ちゃうねんちゃうねん!」
「否定せんでもええやんけ!むしろそれが自然やん!エクスタシーやん!」
「意味分からんわ!」
「部長、エクスタシーて言えばええと思っとる系男子すか。」


見慣れた面々が半裸でなんかしてる。


「間違えました。」


一回ピシャン、と扉を閉め切る。あーむさ苦しいむさ苦しい、実にむさ苦しい。男子中学生なんかまだ男らしさのかけらもないと思っている人もいるけれど、所詮は男なのだ、むさ苦しいのだ。
俺が所属しているテニス部は確かにイケメン多い、けれど元をたどればただの男。
何が言いたいかっていうと、イケメンが束になってもむさ苦しいってこと。しかも半裸だったぞ、むさ苦しさ倍になってた。

なんか苛立ちよりも今ので気分を害したので帰りたい、はぁー…勝手に飛び出すため息。とりあえずもう一回扉を開けてみるか、帰るにしても一言くらい言わないと帰れないしな。
今一度扉を、今度はそーっとゆっくり開けて中を覗いて様子を見る。扉が動いたからかこちらを見る面々はいまだ服を着てくれていない、裸族とか嫌だ。
しかしその顔はいつも通り、半裸で騒いでいるってこと以外は特に変わり映えしていないので意を決して中に一歩…踏み込んで、目に留まる。


「慎っ…!」
「あー、はいはい。そういやそうだった。」


裸族の集団の中、一人だけ肌に赤い痕を彩っている奴。そいつは俺が体を痛めている原因であり今日一日中イライラさせてくれている原因、忍足謙也。
一応、恋人。
昨日の今日だからか痕は色彩美しい、ほんのり日焼けしている謙也だけどウェアで隠れる胸元や肩なんかは少しばかり白い。そこにランダムに散らされている複数個の痕は目立っていた。
どうにも裸族どもはその痕で謙也をからかい遊んでいたらしい、俺と目が合うなりすでに赤くなっていた顔をさらに赤くして睨み付けて来た。
ほぉー…俺に対してそういう態度取りますか。裸族を見たことで忘れかけていたイライラが復活した俺は負けじと睨み返す。

中へ入り扉を閉めた俺はほかの部員に挨拶しつつ謙也のもとへよれば、ワイシャツのボタンを三つはずして鎖骨周辺を見せてやる。


「これ見ても俺に何か文句あるのかよ。」
「へ…あ、そ、それ…!」


さぁさまじまじご覧あれ、と恥ずかしがることなく見せたそこは、謙也が騒ぎ立てていた俺が残した痕よりも倍の数が残されている肌。犯人は言うまでもなく。
横から覗き込んできた白石や財前が俺に残された痕を見るなりギョッと驚いたのち謙也のことを白い目で見やる。「うわぁー…」とドン引きしながら。

どういう癖なのか良く分からないけれど、俺の恋人はやたら体に痕を残そうとする。最悪な時は服じゃ隠せないところにまで残したりしてくれる、迷惑なことだ。
俺を憐れむように財前が俺の頭をよしよしと撫でながら謙也のことをジトリと睨む。ダブルスも組む後輩にそんな目で見られたら威厳も何もない、ぐぅっと小さく唸りながら身を縮めこませた。


「謙也先輩て独占欲半端ないんすね、キモ。慎先輩、嫌なったら俺に乗り換えてもええんですよ。」
「そうだな、浮気するときは財前にする。」
「な、何言うてんねん!慎は俺のもんやで!浮気て許さんぞ!ちゅーかキモってなんやねん!キモくないわ!」
「お前は一氏かよ。」


可哀想、と俺の肩を抱いた財前に寄りかかってみればこの部にいるとよく聞く言葉を吐き出す一応恋人。あとで一氏に言いつけてやるぞ。
しかし元をたどれば謙也が悪いわけだ、実際こうして体に痕を残されるのは何度目なのか。そのたびに俺はすごく苦労してきたわけ、そして今回初めて俺は謙也の体に痕を残してみたのだ。俺の苦労の半分でも知ってみろ、ってね。
その甲斐あってか、俺が部室に来る前に相当遊ばれたらしくこうしてヒートアップしている。もともとカッカと感情に火がつきやすいタイプだったけどソッチのこととなるとさらに早い。


「そんくらいでやめとき、痴話喧嘩は部活が終わってから。浮気は家に帰ってからするもんやで。エクスタシーはお楽しみにとっときや。」


そんな謙也が耳障りになったのか一通り遊んで満足したらしい白石がにやけた顔のままこの場を収めようと適当に間に入った。ちょっと適当すぎて意味が分からないけれど。
はいはい、と白石が謙也をロッカーのほうへ肩を押し謙也をあしらう。まだ言い返したいことがあると切れ味悪い謙也の口が閉まらないのもお構いなしだ。
ま、ここで言い合っても変な喧嘩にしかならないからそうやって打ち切ってくれるのはありがたい限りだ…と財前と着替えを済ませようと背を向けた…ら、白石に「慎」と呼ばれる。
やっぱ部長としてはこういうの部内の風紀がどうのこうのって許せなかったのだろうか、軽く返事をしながら首だけ振り返れば、ニヤッと笑う白石の顔。厭らしさの欠片もないその笑顔で吐き出された言葉は、


「独占欲、強いんやな。」
「………べ、つに、そういうわけじゃない。」
「さよか?仲がええんですって自慢するみたいな悪戯やからてっきりそうやと思ったんやけどな。」


明らかに俺のことをからかう、性質悪いもの。
図星、つかれて反論が三歩ほど遅れた。おかげでまったくもって威力を持ち合わせてくれない。くそったれ。からかいたかっただけ、そう意味合いがこもっていそうなウインクをぱちり、一つ送られてしまう。
それが様になっていたからじゃない、からかわれたせいじゃない…顔が赤くなるのは、そんなにも謙也のこと好きなんだってことがバレたのが、恥ずかしい。
カッカカッカ、顔が熱くなる。ソレを覗き込んでくる財前はさっき謙也をからかっていた顔に変わってきた。にやにや、すんなよ。あぁもう、知られたくなかった。


「へー。慎先輩にも可愛えところあるんすね。」
「…浮気相手、千歳にしよ。」
「あ、怒らんといてくださいよ。」


本人には伝わっていないだろう俺の独占欲、俺には伝わっている謙也の独占欲。もっともっと残さないと駄目なのかな、赤い朱い痕。

赤い朱い、二人だけのお揃いの痕をさ。


「…恥ずかし。」




俺のもの、君のもの、




数日後。


「またすか。」


財前の声に振り返れば謙也の背中にまた例の赤い痕、本人の目につかないところに付けたから今の今まで気づかなかったらしく謙也は「何のことや?」と首をかしげていた。


「此処に虫刺されがありますけど?」
「むしさされ?痒ないから無視しとけばええやん。」


見えていないせいか適当に財前を流した謙也はどうでもよさげにウェアを着る。しかしほかの奴らからは財前が言う虫刺されが俺によるものだと分かっているのでその軽々しい発言にちょっと空気を固くさせた。
笑う奴もいるけれど、大体は苦笑い。見れないって本当に幸せなやつだよ、盛大なため息を落としてやりながら謙也のつまらない王道すぎるダジャレに突っ込みついでに、憎らしい恋人に一蹴り。


「いた、なんやねん。」
「つまんないギャグ。その虫刺され、無視したら後悔すると思うけど。」
「は?…病気とかか?」


まったくもって心当たりがないと言いたげな、きょとりとした顔。本当に手が焼けて、腹が立って、イライラして、どうしようもない恋人だことで。こんな方法でしか独占欲を見せられない自分もそうだけどさ、気づいてくれない恋人も恋人だよな。


「ソレは天城慎っていう虫が残したんですけど。」
「……嘘やん。え、ちゅーかいつの間に!?」
「財前、今日の放課後一緒に飯いかない?」
「ちょ、ちょお待ちや慎!絶対に行かせんからな!」


もっとちゃんと俺に敏感になってよ、不器用で馬鹿な恋人を選んだんだからそれくらい頑張ってよ。
俺の鎖骨に赤い痕、謙也の背中に赤い痕。お互いが残しあう恋人と証明し合うソレ、お揃いで愛おしい鮮やかなソレ。


「謙也。」
「おん?」


もっといっぱい、キスマークつけてよ。


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ただの謙也いじり。
ギャグ感が薄くなってしまいました…
キスマって聞いたときから
どうしても
えろい感じしか
思いつかなかった腐れ脳。

柚子さま、
何か直すところありましたら
何でも言ってください、
喜んで直しますので!

リクエスト
本当にありがとうございました!


2015,08,28


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