甘やかし過剰な君たちへ



天城慎、至って普通の中学生です。


「お、慎。おはようさん、今日は顔色ええやんか!可愛え顔がさらに可愛えで!」
「せやけど眠たそうな顔しとるで?夜更かしでもしとったん?」


なぜかイケメン二人に構われまくるだけの、至って普通の中学生です。

俺の席は廊下側、ど真ん中。あんまり良いとは言い難いその席は羨ましがられる(特に女子に)席なのだ。
教室に入るなり声をかけてきたのは顔面偏差値が高い四天宝寺の中でもナンバーワンとも言われている白石蔵ノ介と、負けず劣らずな忍足謙也。俺の席は…この二人の席の間にある。
目の前に蔵、真後ろに謙也という女子なら失神してしまいそうなほどの良い席。ただし男の俺には意味がないけど。くじでたまたま当てただけの席なのだが、これが何というか凄い席なわけだ。


「おはよ…ちょっと宿題が難しくて起きてただけ。」
「そういう時は俺に電話してええんやで?慎のためやったら何でも答えたるわ!」
「何でもて大げさっちゅーもんやで。ま、ほんまに分からんかったら俺に聞いてもええんやからな。」


席に着くなり蔵がくるりと椅子を回し俺に向き直り、謙也が身を乗り出して俺の頭を撫でだす。……これ、毎日の流れね。
この席順になってから、俺は二人にすごくお世話されるようになった。席替えをきっかけに話すようになってからだ。最近は移動教室も一緒なら弁当も一緒だし、掃除当番も一緒。
しかも話せば「寝ぐせついとるで?」と言いながら蔵に髪を整えられたり、「ぼーっとしとったら人にぶつかるで。」と言われ謙也に手を引かれたり…明らかにお世話されている。
まぁ俺って頼りないタイプの人間だから誰かに誘導してもらえるのはありがたいんだけどさ…


「あ、今日の弁当は慎が好きなサンドイッチにしたで。野菜もいっぱいで栄養バランスパーフェクトやで!」
「今度のテスト用にノート用意しといたで。これ見れば大体分かると思うわ、分からんかったら聞いてな。」
「…ありがとう。」


白石からの弁当に、テスト対策のノートにと…手渡されたものにちょっと喉が詰まった。

お世話されていると気づいていたが、最近はそれがエスカレートしていっている気がしてしょうがないのだ。
お弁当は俺の両親が共働きで用意してもらえないからコンビニの弁当を持ってきたら白石が「俺が作ったるから!」と半泣きし出したからお願いしただけで、テスト対策のノートは勉強が苦手で補習があると小学生の妹を家に一人ぼっちにしてしまうから困ると相談したら「赤点ならんように手伝ったるわ」と意気揚々と用意してもらったものなんだけど…。

それだけじゃない。


「一時間目体育やったな。あ、ジャージ重いやろ?ついでに持ったるで。ちゅーてもすぐそばやけどな。」
「え、べつに…」
「慎、靴紐ほどけそうやないか!俺が結んだるわ!」
「じ、自分でできるよ…!」


ここまで来たらおかしいだろ。

最初こそただの友達だったのに気づけばここまで来ていた。どこぞの王子様だよってくらいの待遇に最近はビビるどころか驚かされるばかりだ。
まだHRがあるのにすでに俺のジャージを入れているカバンを持ち上げた謙也に床に膝をついて靴紐を結びなおしだす蔵、しかし二人は至って本気、至って真面目だ。むしろ当たり前と言わんばかりの行動力。顔だけなら二人が王子で俺が従者なのにどういうわけかいつもお世話されるのは俺。
そろそろ学校の七不思議になってもおかしくない光景に眩暈を起こしそうになったので、俺は最近の口癖になりつつある言葉をため息と一緒に吐き出すしかできない。



「あのさ…それくらい一人で出来るんだけど…。」


全ては好意で行ってくれているんだろうけれど、それがなんというか、ありがたいけど迷惑、というレベルにまで到達する時がある。ていうか今なのだけど。
確かに俺一人ではできないことがあるのは認める、だけどソレはジャージを持って行ったり靴紐を結んだり濡れている手を拭いたり学ランのボタンを締めたりってことじゃないと思うんだよ。
友達として行っていい事と行ったらおかしい事、その辺の境界線をもっとちゃんと決めるべきなのではないだろうか…俺はそう思っている。
しかしこれで伝われば訳ないのだ。最近よく聞いているだろうこのフレーズに対し、蔵は笑顔のまま首を傾げ謙也は首筋をさすり、二者二様に一度考え込んだ。

が、答えはいつも同じだから恐ろしい。


「そんなん俺たちが好きでやっとるだけやから気にせんでええんやで!慎の力になりたいからやっとるだけなんや、せやから甘えとき?」


蔵は一層笑顔を深め、俺の唇を人差し指で押し上げた。何も言わなくていいよ、と言いたげなその行動にまた喉の奥がグッと詰まる。反論したい気がするけど、ソレを防ぐだけの力が蔵の指先にある…わけでもないはずなのに。


「そういうこっちゃ。簡単に言うと俺たちは慎が好きやから構うねんで、特別深い意味なんてあらへんのやし受け止め取ればええんやで。」


謙也は腕を伸ばし俺の首に巻き付け、ふわふわの髪を俺の頭に押し付けた。優しくまかれた腕が目の前でクロスすれば、なぜだか守られているような気になる。暑くて重くて、押しのけたくなるけど…どうしてかそうはできない。

二人の言い分ももっともだと思う。だけどソレで良いと受け止めきれない自分もいる。つまり今すぐには答えが出そうにもない…結局いつも、こうだ。
答えが上手く見つけられない…だから最後には良い方に考えるようにはしている。お世話してもらえるのも構ってもらえるのも、全部仲がいいからだと。嫌われているのならこういうことはしてもらえないのだから…と。


「…でも、人目があるところではやめてほしい。」


結構ガチなお願いをしたところで先生が教室に入ってきたので中断となった、そのまま終わればいいのに…俺に触れていた掌や腕が離れる最中、最後の最後で蔵も謙也も余計な言葉を足していった。


「好きやから無理や、おん絶対に。」
「善処はするっちゅーやつやな。」


素直に頷いてくれれば、いいのに。おかげで俺のため息は止まらない。




甘え拒否な俺と
甘やかし過剰な君たちへ




テーブルに埋め込まれている鉄板の上、じゅーっと軽やかな焼き音を立てているもんじゃ焼き。ソレを前に俺は食べる時の小さなヘラではなく、箸と小皿を手にスタンバイ。
正しい食べ方とか一番美味しい食べ方とか分かっている、分かっているんだけどそれではいけない時があるんだよ。それこそが人間の弱点ていうものだ。俺の弱点、ソレは目の前にあるわけで。弱点を前にして…俺はお言葉に甘えて絶賛甘え中なわけだ。


「美味しいところ、この皿に頂戴!」
「猫舌な慎めっちゃ可愛えわ!任せとき、パーフェクトなもんじゃを作ったるからな!」
「火傷せぇへんようにせなあかんわ、とりあえず飲み物と…あ、冷ましたろうか?」


もんじゃのためだ、プライドは捨てよう。
こうして俺はまた蔵と謙也に甘えるという二人を甘やかす行為を行う、おかげでいつでも振り出しに戻る…。


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ふーふー。

甘やかし過剰になった白石と謙也です
個人的に
白石→主←謙也で
白石と謙也が停戦協定して可愛がっている…
みたいな気持ちで書いていました。

まりりん様
こんな感じで大丈夫でしょうか?
なにかありましたら言ってください、
喜んで直しますので!

リクエスト
本当にありがとうございました!


2015,08,24


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