美味なれば



「じゃーん!」
「ケーキしかのってねぇ!!」


得意げな顔して席に戻ってきたブン太の皿には色とりどりのケーキしか乗っていなかった。おかしい、普通にサラダとかパスタとか様々なものが用意されていたというのに…なぜにケーキ一択。

だいたい、男二人でケーキが売りのバイキングへ行くって言うのもおかしいよな。
二人で出かけるのはまぁいい、けどなんで女の人だらけのバイキングへ行かなきゃならないのか。…いや、他にも男客いるけどさ、だいたいはカップルだ。男だけって人たちはいない。
なので自然と目立ってしまっているわけだ、あぁ他のお客さんからの視線が気になる。
だけどブン太はそうじゃない、もうケーキにしか目が行っていないようで俺がびくびくしているのも気にせず首を傾げてみせる。


「慎、ケーキとってねぇの?」
「普通はまずサラダとか炭水化物だろ。」
「ケーキだって炭水化物だろぃ。」
「黙れ。」


お前基準の話はしたくない、フォークを手にしてパスタを絡め取る。他のお客さんの視線も気になって大変だけどブン太の相手も大変だと思う。
ケーキが売り、とは言っているけれど他の料理だってあるんだ。パスタの他にも小さなグラタンやパンもペンネもあった、のにそれらに意思を曲げられることなくケーキだけって…どんだけ楽しみにしていたんだろう。
楽しんでもらえるのは一緒にいる分には喜ばしいことだ、だから深くは考えないようにしたい…うん。

現にニコニコ笑いながら「どれから食べようか」なんて悩みながら食べ進めているんだ、あー良かったね。俺も美味しいもの食べられて嬉しいよ。
普通にどの料理も美味いのだろう、右を見ても左を見てもお客さんみんな笑っている。


「うまっ!このガトーショコラいけるだろぃ!」
「うん、唐揚げもうまい。」


同じテーブルに座っているのにブン太と俺の間で若干の温度差を感じる、それもブン太と一緒にいる楽しさなのかもしれないよな…そう思えば呆れるを通り越して微笑ましくも思える、同い年だけど。
ぱくぱくと食べ進めるブン太に負けずと俺も食べ進める、皿に乗せたどれもこれも美味い。小さく切られたピザを口に運んでその美味さに思わず頬が綻んだ。もう一個とってきておいて良かった。


「慎、それ美味い?」


と、自分を褒めていればブン太が俺の方を見ていたことに気づいた。
うーわニヤケていたの見られたよ恥ずかしい…と思いながらもブン太が聞いてきただろうピザを持ち上げて「コレ?」と聞き返せば頷き返される。どうにも俺がニヤケるくらい美味しいのか、と興味を持ったようだ。
別に後で取りに行けばいいからブン太にあげてもいいんだけど…なにせこいつの皿の上はケーキパラダイス。甘い物の中に投下されるピザってすごくシュール。流石に嫌だろうなーと思い苦笑いしながら空いている手を「やめとけ」と振る。


「ケーキ食べている最中にピザはあわないって。」
「甘いもん食べてたらしょっぱいものが食べたくなるんだよぅ。」
「分からなくはないけど…。」


ほらほら、と皿を差し出してくるブン太はあくまでも笑顔。ものすごく笑顔。冗談だろ、と思いつつもそこまで言われてはしょうがない。
俺が食べるわけじゃないけれどなんか嫌だな…と渋っていると「じゃあよー」とブン太が声を出して皿をテーブルに置いて、少しだけ身を乗り出してきた。皿ごと貸せとでも言うのか?と身構えていれば、


「食べさせてくれよ。」


無邪気にニッと笑う、ブン太に眩暈がしそう。
食べるのが大好きと知っているけれど、まさかそこまで無節操だったとは…!何言っているんだと言ってやりたい、けれど他のお客さんに見られたくない。目立ちたくない。
でも、でもだからと言ってここで俺が「はいあーん」なんてすると思ったか?無理に決まっているんだろうが。

一歩も進めず引けず迷走する俺に対して、呑気なブン太はさらに俺を追い詰めてくる。
自分が使っていたフォークにショートケーキを乗せて、俺の方に差し向けた。目の前に出されたフォークの銀が白いクリームを色を鮮明に引き立てて美しい。


「交換ならいいだろぃ?」


承諾も交渉も何もあったもんじゃない、詐欺にあったと言ってもいいかもしれない。
唇に押し当てられたクリームの柔らかさだけが唯一の癒し、今この状況じゃブン太の笑顔が憎いばかり。

あぁもう周りなんて見られるはずがないだろう!そして、目の前にいるブン太のことも見られたもんじゃない!俺はただただ、瞳を閉じて、唇を開いてショートケーキを食べざるを得ない。噛む間も、飲みこむ間も、何も見ない見ない見ない…!


「あ、クリームつけちまった。」


だからって、キスは許しちゃいないよ。




愛をもってすれば
苦渋も甘美も美味なれば




「うまかったーだろぃ!」
「そーですか…。」


精神擦り切れた、もうブン太と飯行きたくない。
たとえ奢ってもらったとしてもこの心の傷は癒えない、なんであんな大衆の面前で食べさせあわなきゃならないわけ?キスされなきゃならないわけ?
どうか誰も見ていませんように…と祈ることかれこれ30回目くらいの俺だけど、ブン太はどうも思っていないらしく上機嫌のまま。そういう性格憧れるよ。


「お、あそこのカフェのチーズケーキが美味いんだ…」
「今日はもうおなか一杯!!」


だけど少しは俺の苦労も分かってほしい、それがこれからも二人で過ごすために必要なことだ。俺もブン太を理解できるように頑張るから俺のこともちゃんと分かって…切実に、マジで。


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人前でも平然と
いちゃつけるのは
見せつけたいし
自慢したいから

甘くなっている
と信じていたい(´`)
バイキングマニア
ブンちゃん(笑)
あーんとか
好きそう…

りんさま!
何かありましたら
ぜひ言ってください、
喜んで直しますので!

リクエストありがとうございました!


2014,10,14


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